第4話 そして知る……
とある日の、ごくごく普通の平日に、俺にとって割と重大な出来事がリビングという普通の部屋で、あたかも普通の家族の会話の感覚で恵から告げられた。
「ねぇ、祐斗君ってもしかして私と昔会ってたりする?」
「…………っえ?」
今日は4月22日金曜日、この特に何かあるかと言われたら特に何も思い出せないような日。
強いて言えば4月22日は『アースデイ』という日らしいが、正直何の事かよく分からん。
と、今ぶつかっている現実から逃げるように、意味の分からない考え事をする。
なぜ逃げようとしているのかは、自分にも分からない、実際今俺が知りたがっている事のランキング上位に入るような内容のはず何だが。
まぁ、ランキングなんて特にないんだが……。
そんな事よりだ、逃げようとした理由は本当に分からない、強いて言えば本能的と言ってもいいかもしれない。
特に何か深読みして逃げようとした訳でもなく、ただ単純に体が、もしくは脳が勝手に判断したと言っても過言ではないだろう。
「今、なんて?」
なんとなく、聞き間違えの可能性にかけて恵に聞き返す、まるで難聴主人公の如く。
「今ので、聞こえないって病気じゃない?」
え、酷くないですか? 難聴主人公でもそんな酷い事言われないと思うんだけど……。 というか、恵さん家と学校のテンション違いすぎませんかね? もしかして、人見知りとかなのか……。
「だからね、もしかして私と昔会ってたりする? って聞いたの」
恵が、1人で変な事を考えていた俺にあきれたように言ってくる。
「覚えてたのか?」
もうそろそろ、勘違いや聞き間違いで時間を伸ばす事ができなくなって、とうとう意を決して今まで恵と再会してからずっと気になっていた事を知るため、恵に質問する。
「……その反応って事は、やっぱり祐斗君があの時の男の子だったんだね」
その言葉ですべての疑問が解けた、あの時の少女が本当に恵だったということが。
「やっぱり、そうだったんだな……」
「え、祐斗君も覚えてたの?」
なんで早く言わなかったんだよ的な目で見られているが、正直話せなかったこっちも悪いと思うが、それを言うならそっちも言わなかったから悪いんだからな。
「じゃ、じゃあ祐斗君は……あの時の約束も、覚えててくれてるのかな」
恵は、頬を微かに染めて上目ずかいに言ってくる。
その表情にも少し動揺してしまったが、やはり気になったのは恵の発言だった。
「何の事だ、その約束って?」
「やっぱり、覚えてないよね……そうだよね、期待してたのは私だけだよね、私って馬鹿だな……」
完全に地雷を踏んだのだと恵の表情を見て理解した、恵は目元に涙を浮かべ、今にも泣き出しそうな状態だった。
「ご、ごめんね……」
そう言って恵は走り出して、部屋から出ていった。
はぁ、やっと普通に喋れるようになれると思ったのに。
「なんだよ、約束って」
※ ※ ※
また逃げ出してしまった。
いつもいつも、祐斗君と再会してから今日までずっと。
「なんでっ、いつもこうやって……」
でも仕方ないのだと思う、昔祐斗君が私と会っていたことを覚えていた事はすごくうれしかった、その場でジャンプしたいぐらいに、祐斗君とまた会えた時ぐらいに、あの時のことを覚えていてくれた事が心からうれしかった。
そして、もしかしたらあの時の約束も覚えていてくれているかもしれない、そう思うと胸の鼓動が大きく、早くなっていた。
でも、祐斗君は覚えていなかった。
でもそれも当然だと思う、そもそも私が1人で祐斗君に言っていたようなものだったから。
それでも、それでも……
「覚えていてほしかったな……」
こんな私はやっぱりずるい女なのかもしれない。
「後で、祐斗君に謝らなきゃね」
流れていた涙を拭って、いつもの様子に戻す。
※ ※ ※
見てはいけないような、聞いてはいけないような気がした。
家に帰ってきたら、兄さんと恵さんが何か話していて、何の話をしているのかと気になり、悪いことだとは思いつつもリビングの扉の近くに立ち、2人の会話を聞いていた。
やっぱり、兄さんの昔会ったて言っていた女の子は本当に恵さんだった事を知った。
なんだか胸がチクりと痛む。
そして、兄さんは覚えていなかったが恵さんが言うには、昔2人は何かの約束をしていたらしい。
何の約束だろう、そう思うが正直考えても分かる訳がない。
でも、恵さんの表情から、恵さんにとって割と大切な約束なんだと思う。
そして、恵さんが部屋から出てきたとき、私と目が少し合った。
泣いていた、いつもそんなに表情を変えず、私自身笑っているところも見たことがない気がする。
そんな恵さんが泣いているなんて……、改めて『約束』の内容が恵さんにとって大切なものだと言うことが伝わってきた。
私は、恵さんが2階の部屋の扉を締めた音が聞こえてから、部屋に入る。
「あれ? どうしたの兄さん」
何も知らない、聞いていないフリをする。
「いや、何でもないよ柚葉」
何でもないという顔ではなかった、でもあえてそこには触れず、いつものように接する。
「そっか、ご飯今からつくるから、着替えてきてね」
「あぁ」
そう言って、兄さんは部屋を出ていった。
兄さんと恵さんの関係がこれで変わる、今までの当たり障りのない関係性が変わっていく、そんな気がした。
私がどんどん置いて行かれるような気分になった。
そしてまた、胸がチクリと痛む。
「このままじゃ……」
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