第3話 天文部

「失礼します」


 放課後、外では野球部やらサッカー部の学生たちが声を張り上げて活動していて、校内にも声が届いてくる。

 

 そんな学生が青春の真っ只中に俺は、学校の3階にある1番東にある目的の教室の扉を開ける。


「あら、やっと来たのね祐斗ゆうと君」


 窓の近くで星の模様がついたブックカバーを付けた本を呼んでいた彼女は、俺が所属する天文部の部長、海乃詩乃うみのしの先輩、長い黒髪に整った顔立ち、完璧なスタイルから、誰から見ても美少女と言われるような人だ。


「別に遅れてないですけど……それより海乃先輩、いつも言ってるじゃないですかほかの事する時は片付けてからやって下さいって」


 部室は、望遠鏡やら図鑑なんかが机の上や床に置に転がっていた。


「仕方ないでしょ、私は後から片付ける派なのよ」


 詩乃は体の前で腕を組みながら、頬を膨らませながら言ってくる。


「ほら、駄々こねてないで海乃先輩片付けますよ」

「分かったわ」


 いやいやながらも、詩乃は机の上の図鑑を片付け始める。

 全くこの先輩は、ちゃんとできるんだから最初からやればいいのにな……。




「祐斗君、疲れたわ」


 片付け初めてから5分も経っていないのにも関わらず、詩乃が駄々を捏ね始める。


「はぁ~、海乃先輩あと少しですから頑張って下さい」

「ん~、分かったわよ……」


「そうだった祐斗君、今日新入部員が来るらしいわよ」

「1年生ですか?」

「なんで1年生に絞るの? やっぱり祐斗君は年下好きなのね」

「やっぱりってなんですか、それよりそれ今関係ありますか?」

「特に関係はないわ」


 なんだか先輩が不機嫌そうに見えるけど気のせいだろう。


「それより新入部員は誰なんですか?」

「あなたと同じ2年生のはずよ」

「へぇ~、そうなんですか……」


 何だろう、なぜか新入部員が誰か分かってしまった気がする。


 そう思っていると、部室の扉が開かれる。


「お~、ちゃんと部室は綺麗にしてるみたいだな」


 入ってきたのは、天文部の顧問石原いしはら先生だった。


「どうしたんですか、先生」

「新入部員を連れてきてやったぞ、入れ~」

「失礼します」


 入ってきた人は予想どうりすぎる結果だった。


「新入部員の神崎恵だ、あとはお前ら2人に任せたぞ、よろしく~」


 そう言って石原先生は部室から出ていった。

 あの人、連れてくるだけ連れてきて俺達に全部任せていきやがった。

 

 それにしてもまさか、恵が天文部に入ってくるとは思わなかった。


「ねぇ、祐斗君」

「何ですか、先輩?」


 横を向いたが、詩乃の姿がなくなっていた。

 すると詩乃は、いつの間にか部室の後ろの方へ行き、こちらに来いと手招きしていた。  

 詩乃の近寄ると、耳を寄せろとジェスチャーしてきた。


「どうしたんですか、先輩?」

「祐斗君、あの人がこの前話していた新しい妹さん?」

「まぁ、そうなんですがなんかその言い方、悪意を感じるんですが」

「そんなことないわ、それより随分と綺麗な人なのね」

「どうしたんですか先輩?」


 詩乃は微かに怪訝そうな表情を見せるも、何事もなかったかのようにいつもの表情に戻して椅子に座る。


「何でもないわ」

「そうですか?」


 なんだか先輩が少し怒っている気がしたが、怒る理由が特に思いつかなかったので気にするのをやめることにした。


「祐斗君の妹さんなのだったら、後の事は祐斗君に任せるわ」


 そう言って詩乃は途中でやめていた本をまた取り出し、本を読み始めた。


「ちょ、先輩まっ……はぁ~」


 ダメだ、この海乃先輩は割とめんどくさがりやな人だが、こと読書に関しては一度読み始めるとよっぽどの事がない限り、周りに何が起きても大概は気ずかないほどに集中するため、どれだけ話しかけてももはや手遅れなのである。

 『仕方ない、やるか』

 普通に話しかけるだけなのに、妙に緊張してしまう。


「好きなの……?」

「えっ!?」


 話しかけようと意気込んでいたら、恵の方から話しかけてきた。

 すると、ガタンと机を蹴ったような音が聞こえてきたが気にしないことにした。

 それより、好きなのってどういう……


「星……好きなの?」

「あぁ、星の事ね」

 

 自分が少しでも、変な想像をしていしまったのがなんだか恥ずかしくなってきた。

 まぁ、何を想像したかは言わないが。


「星は、まぁ嫌いじゃないかな、そっちは好きなの?」

「うん……お父さんが好きだったから」

「そうなんだ……俺も母さんが好きだったから」

「そうなんだ……」


 恵の父親は、俺の母親が亡くなった翌年に交通事故で帰らぬ人になってしまったと、父さんに聞いていた。

 

 それにしても、家にいるときよりかは普通に話せるようになったと思う。

 これは一歩前進だな。


「はぁ~、祐斗君あなたどうしてこんなに空気が重くなるような事ができるの?」

「いや、すいません」


 いつもよりかはマシだと思っていたが、詩乃からしたら割と重い空気だったようだ。

 この重々しい空気が嫌だったのか、詩乃が本を読むのをやめて近くに来ていた。


「神崎恵さんね、私は天文部部長海乃詩乃よ、これからよろしくね」

「よろしくお願いします、海乃先輩」

「あと1人、1年生の子がいるのだけど、今日は用事で来られないみたいだから」


 いつの間にか、俺たちの表情や部室に流れる重々しい空気は無くなっていた。

 やっぱり海乃先輩はすごいなと思いう。

 

 そして、天文部に恵が入った事で同じ部活という関係性ができた事には、割とうれしく思っている。


「そうだ、よかったわね祐斗君」

「何がですか?」


 詩乃は顔を近ずけて何か楽しそうに、いじるように言ってきた。

 なんだか、嫌な予感がする。


「祐斗君のハーレム部が完成に一歩近づいたという事よ」

「ちょ、何言ってんの!?」


 すると恵が、自分の体を守るように腕で体をガードする。


「流石優斗君ね、相変わらず面白い反応をしてくれるわね」


「最低……」

「冗談だから、先輩の冗談だから」


 恵が敵意を向けた表情をしてくる最中、詩乃はいつのまにかまた本を読み始めていた。


 はぁ~、全くこの先輩は本当に自由な人だ……でもこんな環境が入部当時から以外と好きだと思ってしまう俺はちょっと変なのかもしれない。



 *  *  *



 今日は兄さんが部活に行っていてすごく暇で、特にすることもなかった。


「そうだ、久々に相談に乗ってもらおう」

 

 そう思って、スマホを取り連絡アプリ『LIME』を開く。


柚葉『あの、久々に相談に乗ってもらっていい?」


 すると、5分程度で返信が返ってきた。

                                 

                           『どしたの?』 ??? 


柚葉『最近兄さんの様子が変なの、なんだかいつも緊張してるというか』


               『恵さんと何か関係あるんじゃないかな?』???


柚葉『多分そうだと思う……』


            『それより柚葉ちゃんはやっぱりまだ好きなの?』???                        


柚葉『うん』

 この返答は普通はダメなことだとわかっていても、このことに関してはあんまり嘘は言いたくなかった。


                         『兄妹だとしても?』???


柚葉『うん、それに私たちは本物じゃないから』


     『そうだったね、でも気をつけたほうがいいよ、事実がどうであ

                    れ他人から見ればアウトだから』???


 そう、いくら事実が違ったとしても、周りから見ればこの感情はダメだと自分で分かっている。


「それでも……」


 この感情だけは、捨てたくない。

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