第2話 これからの関係性

「なあハル、幼馴染みが急に妹になったらお前どうする?」

「どうしたんだいユウ、いきなりすごく変わった質問だね」


 話を聞いてくれる俺の唯一『ハルとユウ』という呼び合う友達月下晴希つきしたはるき、金髪でイケメンという全男子の憧れのような奴だ。


「そんな質問もしたくなるさ」

「本当に、何があったんだい」


 晴希が苦笑しながら聞いてきたので、昨日の事を話した。


「へぇ~、よかったじゃないか、会いたかった人とまた再会できたんだろ?」

「そりゃ、会いたかったけどさ~、もっと普通の再会したかったなってゆう」

「そうかい? でも僕が聞きたいのはそこじゃないかな」


 晴希が少し口角を上げながら聞いてくる。


「なんだよ」

「その再会した、めぐみさんのこと昔好きだったんだろ」

「まぁ、そうだな」


 その、恵の事が昔は好きだったという事が事実だとしても、こうはっきりと自分で言うと少し恥ずかしくなってくる。


「で、今はどうなんだ、今も好きなのかい?」

「それは、どうなんだろうな……」


 自分でも思っていたことだ、『昔は好きだった』ただそれだけの関係で、今は新しい家族だということで、好きだったとしても、好きになってはいけないという関係性になったことも、俺を悩ませる要因でもあるのは確かだ。


「ホント、いつも俺は普通の人を好きになれないよ……」

「なんだいそれ」


 晴希は少し笑いながら言ってくる。


 ホント、今日からどうするかな……。


「兄さん、そろそろ帰ろ~」


 柚葉ゆずはが鞄を手に、横に立っていた。


「そうだな、そろそろ帰るか」


 椅子から立ち上がり、鞄を持つ。


「じゃあね、ユウと柚葉ちゃん」

「おう、じゃあなハル」

「さようなら」



※  ※  ※



 どうしたもんかな、いつからかは分からんがいつかは恵たちと一緒に住む事になるはずだ、そんな時俺はどうやって恵と接すればいいんだろう……。


「そうだ兄さん、醤油がそろそろ切れそうだからスーパー寄っていこ」


 はぁ~、どうしよう。


「兄さん!」

「ど、どうしたんだよ」


 急に柚葉が耳元で大声で叫んできて、思考が吹っ飛んだ。


「無視しないでよ……」


 柚葉が頬を膨らませながら言ってくる。


「ごめんごめん」

「もう、どうしたの兄さんぼーっとしてたけど」

「いや、何でもないよ、でさっきなんて言ってたんだ?」

「醤油がそろそろ切れそうだからスーパー行こって言ったの」

「そっか、じゃあ行くか」




 柚葉と学校の帰り道にあるスーパーにやってきた。


「兄さんは醤油取ってきて」

「確か、キッカーマンの醤油だよな」

「うん、そうだよ」

「了解」


 そう言って、醤油があるコーナーに向かう。

「えーっと、おっこれだ」

 キッカーマンの醤油を手に取る。


「あれ、祐斗くん?」

「ん?」


 声をかけられて、顔を上げると、恵の母の明希さんが目の前にいた。


「あ、明希さんこんにちわ」

「ふふ、そんなにかしこまらなくていいのよ」


 明希さんは、優しく微笑みながら言ってくる。


「そうですか」

「祐斗君は1人なの?」

「いえ、柚葉と一緒です」

「そうなの、仲がいいのね」

「恵さんは、来てるんですか?」

「来てないの、今日は何か用事があるみたいだから」

「そうですか、では柚葉が待ってるので行きますね」

「そうね、じゃあまたね」

「はい、また」

「あ、そうだ恵とまた仲良くしてあげてね」

「あ、はい分かりました」


 そう言って、明希さんと別れる。


「醤油ってこれであってるよな」

「うん、ありがと」


 明希さんと別れてから、レジに並んでいた柚葉に醤油を渡す。


 レジを済ませてスーパーを出る。


「そうだ柚葉、今日はいつもより買ったもの多くないか?」

「あれ、兄さん聞いてないの?」

「ん? 今日なんか、あったか?」

「今日、明希さんたちが家に来るんだよ」

「え? 明希さんたち家に来るの」

「そうだよ、というか今日から明希さんたち私たちの家に住むらしいよ」

「マジで?」

「うん」


 いつかはそんな時が来るとは思っていたが、まさかこんなにも早く恵が家に来るとは思っていなかった。

 緊張と不安から、少し鼓動が早くなる。


 本当に、最近は再婚やら再開やらと自分の周りがすごく変化し始めている気がする。

 これ以上何もなければいいんだが。



※  ※  ※



「「ただいま~」」


 柚葉が、家に入るのを後ろから見ながらついて行く。

 まるで保護者のような気分だ。


「そうだ、明希さん達が7時頃に来るらしいから部屋とか片付けておいてね」

「わかった」

「よし、今日はいつもより本気でご飯をつくるぞ~!」

「がんばれ~」

「うん! 楽しみにしててね兄さん」


 こうやって柚葉と、何気ない会話をしている時が1番落ち着いて楽しく感じてしまう俺はシスコンなんだと思ってしまう。

 でも、シスコンって妹に優しくしてるからいいと俺は思っている。


「よし、変な事1人で考えてないで部屋の片付けするか」


 そう思って部屋の扉を開けた、この家のすべての部屋を……。


「……って、どこも汚いとこなんてないじゃねぇか!」


 そうだ、よくよく考えれば分かる理由だった、家の妹柚葉さんはすごくきれい好きだったという事だ、ほぼ毎日すべての部屋を掃除しているためこの家は常に綺麗という、柚葉さまによって、この家は徹底された綺麗さを保っているのだ。


「柚葉、お兄ちゃん何かすることある?」

「特にないから、兄さんは休んでていいよ」

「そう……」


 この状況で休んでていいよ、と言われるのは兄として少し悲しかった。


「仕方ない、やることないって言ってるし少し、休もう」


 最近の身の回りの環境や状況変化のせいでか、すごく疲れている気がした。

 少しだけソファーに寝っ転がるだけだったのに、予想以上の疲労から、すぐに眠りについてしまった。




 香ばしい匂いが鼻孔びこうに入り込んできて目が覚める。

 脳の処理がおぼつかない状態で体を起こした。


「今、何時だ……」

「今は、ちょうど7時半だね」


 今喋った声の主の方向へ顔を向けると、そこには明希さんが座っていた。


「す、すいませんつい寝ちゃってて」

「いいのよ気にしなくて、ごめんなさいね起こしてあげればよかったんだろうけど、あまりのも気持ち良さそうに寝ているものだから」


 自分の口元に液体のようなものがついている感覚があり、ティッシュを取って口の周りについていたよだれを拭き取る。

 基本寝てもよだれを垂らさないのだが、よっぽど自分が疲れていた事を知った。


「あ、兄さんちょうどよかった起きたんだね、もうすぐご飯だから」

「分かった」


「あ、そうだ祐斗ゆうと君、恵が上の階にいるはずだから少し呼びに言ってくれない?」

「恵さんをですか?」

「そう、おねがいできる?」

「分かりました」

「ありがとね」


 そうあっさりと了解してしまったが、ここに来てよくよく考えると、再開してからの初めての2人きりでの会話になるんじゃないか。

 緊張から、心臓の鼓動が2階にあがる階段を上るたびに早くなる。


「恵さん、ご飯ですよ~」


 廊下から声をかけてみるが反応がなかった。

 不思議に思って周囲を見回すとなぜか1室の電気がついていた。


「まさかな……」

 いるはずがないとは思うが、電気がついていたのは俺の部屋だった。


 ゆっくり扉を開くと、ベットの上に仰向けになって寝ていた。


 なんで、恵が俺のベットで寝てんの?

 どうしてだ、柚葉の部屋と間違えた、それとも純粋に俺の部屋だと分かった上で入ったのか、でも実際そうだとしても理由が分からない。

 思考がフル回転して答えを導きだそうとしたが全く分からなかった。


 おそるおそる恵に近づく。


 こいつ、やっぱ結構綺麗な顔してるよな、この前見た時もかなり綺麗だったが、こう近くで改めて見ると、長いまつげに、桜色の綺麗な唇なんかは同じ人間とはまるで思えない。


 恵は学校からそのままこちらに来たのだろうか、制服姿のままで眠っている。


「それにしてもこいつ、さすがにこの寝方は無防備すぎないか」

 恵はワイシャツの上ボタンが2つが外され、あと少しズレると下着が見えてしまうようなカッコで寝ていた。


「あ、そうだご飯だから呼びに来たんだったなお~い、恵さ~ん」


 本来の目的を思いだして、恵に声をかける。


「ん~」

「あの、ご飯ですよ」

「そうなの?」


 恵は目を開けて体を起こすとこちらに顔を向けてきた。

 すると、みるみる内に恵の顔が赤く染まりだした。


「な、なんであんたがここに」

 恵は自分の体を腕で包むと、こちらを少し目を少し潤ませながら見てくる。

 なるほど、俺と分からずに返事してたのね。

「私に何もしてないでしょうね!」

「してねーよ」


 思わずタメ口になってしまった。

 そう、何もしていないのは確かだ、全くこいつを呼びに来たのが俺のような人間であった事を逆に喜んでもらいたいぐらいだ。


「で、なにかよう? それに、ここ妹ちゃんの部屋でしょ」

「はぁ~、だから俺はお前をもうそろそろご飯だから呼びに来た、そして付け加えればここは俺の部屋だ」

「え、ここ、あんたの部屋なの?」


 恵は周囲を見回すと、納得したような表情をする。


「ほんとね、よく見たら全く女の子の部屋っぽくないわね、それでも男子の部屋にしては綺麗ね」

「まぁ、妹がほぼ毎日掃除してくれるからな」

「へぇ、そう」


 恵は思い出したようにベットから出る。


「そうだ、もうご飯なんでしょ、早く行きましょ」

 そう言って恵は部屋から出ていった。


「俺、あいつと案外普通に喋れてたな、これならなんとかやっていけるかもしれないな」

 なんとなく今の会話で、『好きだった人』から『家族』という関係性になるのは案外簡単かもしれないと心なしか思った。


 それにしても恵は、俺の事覚えてるのか?。


「いや、昨日会った時『誰?』みたいな感じだったし、覚えてないだろ、それにあれはほぼ俺1人の思い出だしな」

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