幼馴染みとの再会は親の再婚だった

白風にろ

第1話もう少し普通の再開できません?

 俺にとって、家族にとって1つの転機であったあの時の事は今でも思い出せる。

 白い壁に囲まれた病院の1室での出来事を。

 目を閉じて静にベットで眠っている母を見ながら俺と妹は手をつないだ、父に告げられた地獄に行くことにも似たような告白。


「母さんが遠くへ行ってしまった」


 あのときの父の言葉は、子供にショックを与えすぎないようにという父の配慮だったんだと思う。

 でも俺はその言葉で理解した、母は『亡くなった』、もう自分たちの前にいてくれないのだと。

 それは、妹も理解していたようだ。

 目からは涙が溢れ頬をなぞり床に落ちていた。

 そして俺も兄として我慢していた涙も、父に「我慢しなくていいんだぞ」と言われ、我慢していた涙も目からどんどん溢れてくる。

 父も悲しいだろうに俺たちを体に引き寄せ、2人の頭をなで続けた。

 その日はずっと泣き続けた、体から水分が無くなるんじゃないかと思うぐらいに。


 それからの数日も母の事を思い出すたび泣いていた。

 そしてある日の公園で1人で泣いていた俺は運命に出会った。


「そんなに泣いてどうしたの?」


 振り向くと声の主はすぐに分かった、艶やかに光る長い金色髪をしたの自分と同じ歳くらいの少女だった。

 俺は彼女を見た瞬間心が暖かくなり、涙が少しずつ落ち着いていった。


 そして俺は、あったばかりの彼女に『恋』をした。


 俺は彼女に母が死んだことを彼女に話した。

 彼女は俺の話をずっと聞いてくれた。

 悲しかった事、つらかった事、すべてを彼女に話した。

 彼女はすべてを優しく受け止め聞いてくれた。

 

 その後のことはほとんど覚えていないが、覚えていることは。 

 俺と彼女はその後よく一緒に遊んだということ。

 そして、1年後に父の転勤で俺たちが離れると伝えた時彼女が泣きながら「また会えた時は……」そう別れ際に何か言っていたが、最後の方に何を言っていたのかは覚えていない。


 あと、その彼女の名が一ノ瀬恵≪いちのせめぐみ≫だということだけだ。


 ※ ※ ※


 6時になりスマホのアラーム音が部屋に鳴り響き、脳が少しずつ覚醒していく。

「兄さん、早くアラーム止めて~、うるさい~」

 妹の柚葉≪ゆずは≫が毛布に包まり耳を塞ぐ。

 そう言われて俺はアラームを止める。

「それより柚葉、お前また人のベットに勝手にはいって……」

「ん~いいでしょ、お兄ちゃん?」

 柚葉は布団からひょこっと顔を少し出すと口元に布団を当て、硝子玉のような瞳を微かに潤ませ上目ずかいに言ってくる。

「はぁ~仕方ないな分かったよ」

「やったぁ!」

 自分でも思う、俺はかなり柚葉に甘いのだと、でも仕方ないと思うのだ、あんな表情で言われれば誰だって許してしまうだろう。

「でも、もう朝だから起きろよ」

「じゃあ兄さんが起こして~」

「はぁ~仕方ないな」

 俺は柚葉の肩をつかみ上半身を起き上がらせる。

「ありがと兄さん」

 眠たげな目に、服がずれて右肩が見えている柚葉の状態はすごく無防備で、兄としてはすごく心配だった。

 すると柚葉はゆっくりと起き上がりベットから出て扉を開く。

「兄さん、朝ご飯の準備しておくから着替えたら来てね」

「あぁ、分かった」

 俺は柚葉に言われたように制服に着替えてリビングへ向かう。

 するとリビングには父がもう朝ご飯を食べていた。

「あ、兄さん早く座って」

 柚葉の隣の椅子に座る。

「「いただきます」」

 こんないつもとたいして変わらない日常が始まろうとしていた。


「父さん再婚するから」


「「へ?」」

 俺と柚葉は2人して変な声を出してしまった。

「いま、なんて?」

「だから、父さん再婚すんの」

 何この人、『醤油とって』ぐらいの感覚ですごいこと言うな。

 それにしても意味が分からなかった、父さんが再婚? 誰と、どんな人と? 頭の中で整理がつかないままいろんな事が頭の中に浮かぶ。

「そ、そっかおめでと」

「どんな人なの?」

 柚葉が俺の気になっていた事を父に聞く。

「同じ会社の人だよ」

「そうなんだ」

「それとな、その人は明希≪あき≫さんって言うんだけどな1人、娘さんがいるみたいだからよろしくな」

「わ、わかった」

 その娘さんとやらは何歳ぐらいの人なんだろか。

「その人は何歳なの?」

 妹が、また俺の聞こうとしていた事を父に聞く。

 え、柚葉さん俺の心の中見えてんの?

「確か、お前たちと同じだったはずだぞ」

「そうなんだ」

「それで、急なんだが今日の夜、明希さんたちにあってもらうから」

「なっ、急にそんなこと言われても」

「なんだ、用事でもあるのか? 彼女か?」

 ガチャン! 柚葉が茶碗を床に落としてしまった。

「だ、大丈夫か!?」

「う、うん大丈夫だよ、それより兄さん彼女いるの?」

 柚葉が目を潤わせながら聞いてくる。

「まだいない」

 そう、これは彼女いない男子にとって最大の逃げ言葉、未来に彼女がいるという想定で話す事によって傷ついた心をカバーする魔法の言葉を俺は使う。

 すると柚葉が顔をぱっと明るくした。

 柚葉よ、その反応は兄の心を酷く削っていることを知ってくれ。

「だよね、だよね! 兄さんに彼女いないよね」

「なんでそんなにうれしそうなんだよ」

「べっつに~、私茶碗片付けてくる」

「気をつけろよ」

「で、話がズレたが今日明希さんと会うからよろしくな、じゃあ父さん会社行ってくる」

 そんなこと、急に言われてもな……。

 俺の頭の中にさっきからあるのは亡くなった母のことばかりだ。


※ ※ ※


 学校が終わり、家で柚葉と毎日恒例のリラックスタイムを過ごしていた。

 これは特にエッチな意味ではなくただ背中をくっつけ自分の好きなことをするという、ごくごく普通の時間なので変な勘違いはしないでほしい。

「ねぇ~兄さん、ファミレスって何時に行くんだったけ?」

 俺の背中にもたれかかりながら本を読んでいた柚葉が読書中に珍しく話しかけてきた。

「たしか、6時集合だからもうそろそろ出ないとな」

 父の再婚相手の明希さんと合うため、ファミレスに来てほしいと父に言われていた。

「そっか~、どんな人なんだろうね」

「そうだな」

 柚葉も父の再婚には賛成しているようだが、やはり俺と同様新しく家族になる人がどんな人なのかは気になっているみたいだった。

「そろそろ向かいますか~兄さん」

「そうだな」

 「よいしょ」と言ってソファから2人同時に降り、軽く身支度を済ませて家を出た。


※ ※ ※


 待ち合わせ場所のファミレスに到着した。

 中に入ると父が「おぉ~い、こっちだぞ~」と言って手を振っていた。

 父の座る席に向かう、席に近づくにつれ緊張し鼓動が早くなる。

 父の席に着くと2人の女性が座っていた。

「2人共早く座れよ」

 と父が椅子を手でたたく。

「初めまして、一ノ瀬明希といいます」

 まるで母親とは思えないような幼い顔立ちで、高校生か大学生ぐらいに見える美人な女性だった。

 父さんこんな人とよく知り合えたな。

 だが、そんなことよりすごく違和感だったのは隣に座っている娘さんの方だった。

 クールな目元と筋の通った鼻筋、同じ人間だとは思えないような美少女だった。

 そして何より目にとまったのが長く伸びた金色の髪だった、まるであのときの彼女のような、それに名字まであの彼女と一緒って……、と思ったがそんなことないだろと自分に言い聞かせる。

「ほら、挨拶しなさい」

 明希さんが挨拶するように娘さんに告げる。

「初めまして、一ノ瀬恵です」


「えっ」

「ど、どうしたの兄さん」

 つい声に出てしまった、みんなが俺の事を見ていた。

「すいません、変な声だして」

 一ノ瀬恵って、あのときの……。


 それから30分ほどファミレスで話していたが、あまりのとんでも展開でほとんど何を話していたのか覚えていなかった。


「それじゃあまたね柚葉ちゃん」

「あ、はいまた今度」

 と、明希さんたちが駅の中へ入っていった。

「兄さん大丈夫? ずっと上の空だったけど」

「なぁ柚葉、俺が昔話してた女の子の話覚えてるか」

「あのお母さんが亡くなった時の?」

「そう、そのおれが話してた女の子」

「それがどうかしたの?」

「さっきの恵って人、多分俺が昔あった女の子だと思う」

「ホントに!? それが本当だったらすごい奇跡だね」

「ホント、すごい奇跡だよ」


 奇跡すぎて怖い、どんな確率だよって思うぐらいだ、でも彼女とまた会えたことはすごくうれしいと思う。

「でもなぁ~」

「どうしたの? 兄さん」


 今俺は心からこう叫びたい、『もう少し普通の再会ってできなかったの?』と。

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