3話 変化
俺は変わらないと思っていた。
変わってしまったら、それは自分ではなくなってしまうから。
でも、違った。
今、生きていることがその証明だった。
自分を示すのにそれは、なんの意味も持たないことに気づいてしまった。
それが成長だと割り切れなかったことを青ざめる程覚えている。しかし、彼の言葉で見出され、それに期待が持てるようになってしまった。いつか客観視をして君の死体みたいに腐らしてしまうのが容易に想像できるのに。
これほどの悪臭が漂うなら、燃やしてしまえばよかった。
彼は俯瞰して観てしまったから死んだのだ。ずっと主観に浸かっていればよかったんだ。そうしたら幾分か楽な方に流れていたはずだ。
悔しくて、悔しくてたまらない、いつもこうだ。
ひどくつまらない人生を送っている、くだらない劣等感におしつぶされる。こんな表面的な言葉でさえも自分の核心に届きうる。
やればよかったんだ、そう思いながらも時間が進んでいく。
「もし、誰かを殺したいほど憎んだら僕で発散してほしい」
ふと、彼が言ったことを思い出した。あの時は彼の俺に対しての自己犠牲の精神をきれいだと思ってしまった。今となっては、汚れてしまった言葉。
結局、死に場所を探しているだけだった。
こうして最悪な決断をしてしまったのなら本当に殺してしまえばよかった、すべてが無駄になっても。
過去に浸ろうとして彼との思い出を想起しても無駄だった。
彼の左の頬が吊り上がった気色の悪い笑みが言葉では言い表せるのに全く想像できない。何度も見ているはずなのに、彼には不釣り合いすぎて同一人物だとは思えなくなってしまった。
すべてが虚無だと悟ったつもりになり経験した喜びも楽しさも、そして悲しみでさえ汚してしまった。次第に刹那の感情にもケチをつけるだろう。自分がつまらなくなってしまっただけだといつになったら気が付くのか。
もう待つだけはやめよう
「なんだぁこれ、お前がやったのか」
案の定、小人が入ってきた。鍵を閉めていたはずなのにやっぱり無意味だった。
「ひでぇ匂いだな、そろそろ近くの住民にばれるんじゃねぇか。まぁ、だから来たんだけど」
小人はその小さな体には釣り合わない大きな顔を揺らして笑う。
そいつはその肉塊を見て気が付いた。
「自殺か」
ニヤニヤと俺の方を見ながら言った。
「せっかく創ってやったのにこれか、お前はどうやら他人に生の根幹を託していたように見える。おそらくだけどそれが原因だな。まぁ、僕にはカンケーねぇけど」
耳障りな声、癪に障るしぐさ、目を背けてしまうほどの気持ちの悪い表情。
もう何もしないでほしい。早く消えてほしい。
「これはもういらないよな」
小人はその肉塊を簡単に南側に投げ急に現れたでかい鳥に食わせた。その鳥は左目がなかった。
「これも返してやる……あー、あー、やっぱり俺にはこれがいい」
僕の声で話し始めた。
「それじゃあ、帰るわ俺。また気が向いたら呼べよ、今度は思想がほしいな」
満足そうに笑い、鳥に乗って出て行った。
嫌な予感がした。
そうだ全部僕のものだったんだ、耳障りな声、癪に障るしぐさ、目を背けてしまうほど気持ちの悪い表情。
全部、僕のものだったんだ、この世界に何も残せないちっぽけで春の虫の声にでさえ淘汰されてしまうほど脆弱な僕のものだったんだ。
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