第1.5話 テンプレすぎる悩み

 逃げるように私は小説を書いた、もちろん文才なんてたいそうなものはなく今を忘れたいがためにペンを握った。何も達成しなかった私はその感覚だけでも味わいたかったのかもしれない。

 十代の終わりが差し迫っている夏の夜。私はすべてを手放した、自分の自尊心なんてくだらないものを守るために。こうでもしないと足が縺れて前に進めなかった。そして、いつかはその自尊心ですら捨てる。

 私には二、三歳年の離れた妹と兄がいる。私とは比べ物にならないくらい優秀な二人。

 勉強的な面でも彼らはもちろん優れていたが、思想的な面を見ても彼らは私なんかよりも完成していた。無論彼らは私を見下したりなんてしなかった。

 ここで当然のように発生してくるのが格差へ対する意識である。しかし、私は他人の評価なんてどうでもよかった、どんなに人が私と兄妹の優劣を指摘してもまたっく気ににも留めなかった、それが肉親であってもだ。でもこのギャップを理解しながらも排水のように流してしまった私がどうしようもなく憎かった。

 彼らはピアノができる。

 私にはできない。

 彼らは数学ができる。

 私には理解ができない。

 彼らは読解力がある。

 私にはとてもあるとは言えない。

 彼らには才能があった、私は自分の才能でさえ探しはしなかった。

 今考えると、彼らの才はそれほど優秀なものではなかったのかもしれない、それでも私の盾をその矛で壊すにはさほど時間はかからなかった。

 つもりに積もった私はとうとう口に出してしまった。

「シにたい」

 小学校4年生塾帰りの夜の車の中だった。

 母の好きな宇多田ヒカルの曲がお経に聞こえたのはあれが最初で最後だった。

「何言ってるの‼」

 母は怒るとも悲しいとも何とも言えない顔でハンドルを左に思いっきり回し、また右へハンドルを回しバランスをとった。つまり何を彼女はしたかったというと私を脅したのである。

「そんなことしのちゃんがゆうなら私だって死にます!」

 彼女は前を見ながら言った。

 左も右も田んぼ。そこに落ちたってケガだってしない。

 そんなことは二人ともわかっていた。

 でも彼女は言わないといけなかった、私の言葉の答えなんてない。でも、それでも。

 母は泣き、私だって泣いた。窓を閉めてでも聞こえるカエルの鳴き声が頭の中で反響し心地よかった。

 私と母はそのあと何も話さなかった、何か話していたら答えは出でいただろうか?母と私はひどく似ていた。


 私は死を生につなげたのはいつからだったのだろうか。


 

 

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