四巡目

【四回目・俺】

 俺はのそりと上体を起こした。

「ああん……?」

 先ずは状況を把握しようと、部屋の中を見回した。


 フタの開いたプレゼントボックス、空になった透明の液体が入っていたコップ──。

「……あぁ。まぁまぁってところだな……」

 クックック、と俺は口元を歪ませて笑った。

 立ち上がると、その他二つの液体が入ったコップを飲み干す。

「どれも単なるジュースだよ、ばぁか!」

 ケラケラと笑った。


──実に楽しい遊びである。

 見えない敵と戦うというのは、スリルがあって面白い。


 元来、人付き合いが苦手な俺は家の中に引き篭もっていた。

 両親も、マンションを一棟残して他界してしまった。楽器も演奏可能の、防音設備が整ったマンション──俺は、その上階に一人であった。

 俺が引き篭もっているのは一部屋ではない。このマンション一棟に引き篭もっているのだ。


 遊び友達もいないので、独りで遊ぶ事しかできない。しかし、独りで遊ぶというものにも限界がある。自分の予想の範囲内でしか物事が行われないから刺激など皆無である。

 意外性というものがなくて退屈だ。


──独りでは詰まらない。

 詰まらない。

 詰まらないなら、面白くすれば良い──!

 遂に、俺はその領域に達した。

 独り遊びを極めてしまったのだ。


 他人と関わることも出来ない俺が辿り着いた独り遊びの頂──それは、別人格を作って一緒に遊ぶということだ。

 誰かと遊ぶのが嫌なら、自分と遊べば良い。


「ハッハッハッ!」

──実に愉快である。

 俺は部屋の隅から小型のモニターを取り出して、操作をした。

 映像が流れる──。

 部屋のあちこちに仕掛けた監視カメラの映像が、そこに映し出されていた。

 二人がどうやって遊んでいたか──これを見れば一目瞭然である。


「……フッ! 馬鹿が……」

 扉に仕掛けられた針に迂闊に触れてしまう、無様な自分の姿を見て笑いが込み上げてきたものだ。


──彼らと遊ぶのは、実に楽しい。

 自分の予想に反した行動を彼らは取ってくれる。

 時には、こんなお間抜けな行動すら、彼はとってくれるのである。

 段々と俺は、別人格たちに興味を抱いていった。

 彼らは──他の人格たちは、何処まで賢いのだろうか──そんな疑問が頭に浮かんだ。

 それが無性に気になって、試したくなった。


「勝負ありだな……」


──この密室で繰り広げられる俺たちの遊びを、邪魔をする者は誰もいないのだ。


 例え此処で怪我をして死んだとしても、誰も駆け付けてはくれないのである。

 閉ざされたこの密室空間こそが、誰にも介入されない俺の憩いの場所であった。


「三番と八番じゃ、やっぱり三番の方が一枚上手か。……さぁて、次はどうやって遊ぼうかなぁ……」


 俺は不敵な笑みを浮かべ、次の俺自身との遊びの準備に取り掛かるため部屋を移ったのであった。

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知らない誰かがここに居る 霜月ふたご @simotuki_hutago

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