異世界という名の楽園を 〜チートスキル蘇生を獲得しましたがステータスが既に異世界人を超えていたので使う必要もありません。美少女達を守り抜き楽園を築きました〜

@kalupisu

第1話


 俺は空を見上げた。空は暗く今にも雨が降りそうだ。俺は柵から身を乗り出して手を伸ばした。憂鬱とした気分を晴らすためにわざわざ高いところに来てみたのに部屋の中とは何も変わらない。周りにはほとんど人がいない。平日の昼間にわざわざここに来る人はいないのだろう。なんとなく学生証を取り出してみたが少し折り曲がっていた。まあもう使うこともないだろう。俺はそれを捨て去りたい気分になった。


 目を瞑っても瞼の裏から明るさが感じられた。いつものようにため息をついていると俺は突然浮遊感に包まれた。目を開くと俺は転落していた。目の前に木が迫っていた。俺にはどうすることもできない。叫び声さえもあげられなかった。


 俺は全身の痛みで目を覚ました。ここは天国かそれとも死に損なったか。とにかく体を起こした。寝違えたように首が痛い。そしてなんとなく頭がぼんやりとする。


 周りを見渡すと俺は日の差し込む場所で寝ていた。ここは森だろうか。体が痛いのは地面で横たわっていたからってことだろうか。


 立ち上がり砂を払った。俺が展望台から落ちているのならばこんな森まで転がるなんてことはないだろう。


 それにけが一つしていない。山の展望台から落ちて俺は死んだのか?もしそうだとしたら心残りを作るなんてことができなかったことを喜ぼうか。


 ここはどこかってことを考えるにも木が生えているだけか。小鳥の声も聞こえるか。俺は考えた。その結果もっとも自分にとって都合のいい解釈を思いついた。


「よっしゃ。ここが異世界か。いやたとえそうでなくてもそう仮定しよう。まず村とか探すのが定番だよな?」


 俺は立ち上がり砂を落として森の散策をはじめた。鼻歌を歌いながら散策をしていたがいくら歩いても何も見つからないのでだんだんとどんよりとした気分になってきていた。高揚した気分だって時間と共になくなっていく。枝を投げてみて向いた方向に行ってみたり風の吹いてきた方向に歩いてみたりもした。


「自由に歩けるってのはいいんだがrpgだとすればリスポーン地点のマップがここまで複雑なんて欠陥じゃないのか?」


 俺は長時間一人で歩いていたためか周りの音に非常に敏感になっていた。一切変わらない景色を見ていたら自分以外の足音が聞こえた。


「やっとエンカウントか。最初だからケルベロスあたりがいいんだけど……」


 俺は構えを取った。昔体験教室みたいなやつで柔道を習ったが魔物とかそういう相手に聞くとは思えない。

 まあチートでもなんでもあればどうにかなるだろうと楽観的に考えた。息を潜めて前を見ていたが徐々に足音は大きくなり目の前に現れたのは騎士だった。


 俺は本当に、本当に少しだけ緊張していたが現れたのは魔物でもなく盗賊でもなく鎧を着た品行方正そうな騎士だったことに安心した。


「ああ。騎士さんでしたか?お仕事お疲れ様です。そこで一つ質問なんですが村とかあります?」


「何者だ?」


 俺が騎士の前に行くと彼は剣を抜いた。


「えっと怪しいものじゃないよー。というかただの一般人、吟遊詩人みたいな?この森に迷い込んだってわけ。」


「ふむ。では身分証を見せろ。近くの町まで案内してやろう。この村で天使族を見かけたとの情報があったのだ。」


 剣を鞘に収め俺の前に立ち身分証の開示を求めてきた。


「身分証?えっと普段外行かねぇから補導されたり警察にお世話になったことはないけど学生証なら携帯してるぜ!あの時捨てなくてよかったぜ。」


 俺は学生証を取り出して渡した。


「これが身分証?何も書いてないじゃないか!他にはないのか。」


「ほらこれが俺の名前で顔写真、後年齢とかその他諸々。」


「もしこれが身分証だと主張するならば私はお前を身分詐称で捕まえることになるな。」


「聞きたくねぇけどもし出さなかったら?」


「その場合は王令に従わないということで少しきてもらうことになる。」


 俺はどうするかと考えた。俺の世界の身分証が通じないっていうなら手詰まりだ。戦ってみるか?魔法とか有ればなんとかなるかも。


「そもそも身分証ってのはなんのために必要なんだ?」


「今国は緊急事態だ。国内にいる敵対種族を炙り出す必要がある。」


「っていうかその説明口調って元から?だとしたら直さないと人生つまらなかったりだとか?」


 俺はこのまま軽口を続けて誤魔化そうとしていたが騎士は剣を抜いて今にも俺に飛びかかろうとしていた。流石に痺れを切らしたと言ったところだろうか。だが異世界に来て初っ端から補導なんて食らってたら面倒すぎる。ここは魔法だ。うん。想像できたぜ。


「ファイアーボール!!」


 俺は手を前に突き出して大声で叫んだ。その瞬間に騎士は大きく右によけ回り込んできた。一方俺の魔法の方はそもそも発動していない。呪文でも間違えたのか?


「呪文は知っているが魔法の使い方は知らないのだな。とりあえずついてきてもらおう。」


 一気に距離を詰めてきた騎士は俺の首に向かって剣を振おうとした。俺は咄嗟に手で守ろうとし左に避けようとしたが相手は剣を持っている。それに練度も桁違いだったのだろう。俺は到底勝つなんてことはできなかった。蹂躙と言えばいいのだろうか。


 俺は展望台から落ちたと思えば次は首が飛ぶのかと思ったが剣は俺の首、いや手にさえ触れなかった。騎士の剣はもう一人の剣によって弾かれていた。


「うおっ?」


 俺は転がりながら騎士の方を見た。そこには羽を生やし剣を両手で握りしめて立っている女性がいた。俺は女神か何かかと錯覚した。


「君も彼の仲間かい?今から私は王令に従い君達をここで殺害する。」


 弾かれた剣を俺とその女性に順番に向けてから切り掛かってきた。俺ではなく女性の方を狙うのか。ここに飛びこむのは無理だろう。俺はただ見ていることしかできなかった。


 素人目で見ると騎士の方が押されているように見える。お互いに飛び回り剣同士が当たるたびに火花が散った。


「はっっっっっ!」


 木を蹴りその反動で攻撃を行なった女性は騎士の剣を弾き飛ばした。そのまま剣を横にし騎士の首元に叩きつけた。


 その勢いで騎士は気絶した。あの屈強そうな騎士の男を即座に倒し切っている。彼女はどうして俺を助けたのだろうか?


「大丈夫?あなたも逃げてきたのね?」


 彼女は俺の方を向いた。赤い髪が風になびき緑の澄み切った瞳が俺を見ていた。


「逃げてきたってよりは正確に言えば迷い込んだんだけど。何はともあれ先程は助けていただきありがとございます?」


「別に感謝の気持ちとかはいらないからね。私も大変だったし。もし良ければ少しの間泊まって行ってもいいけど……」


「話の筋が見えねぇ。君も身分証を無くしたってことか?」


「え?」


「あえ?」


 彼女はキョトンとしていた。


「身分証がないって本当に持ってないの??」


「いやだからそうじゃないのか?ほかに理由でもあるってわけでもないし。俺は村を探そうとか思ってただけで。」


「えええええ?もしかしてあなたただの一般人なの?」


「つまりその勘違いされてるってことか?美少女に俺は好意で助けられたと思い込んでだけか。」


 俺は切り株に座りため息をついた。俺は彼女の方を見た。さっきまでの表情とは変わり俺の方を向いて今にも逃げそうな顔をしていた。


「いや、すまん。何か言って傷つけたなら謝る。俺を助けてくれた恩人だし何か言ってくれればその通りにするからさ。」


「私のことを見ても何とも思わないの?」


「可愛いとかそういうことか?」


「本当になんとも思わないの?」


「本当にわからねぇ。」


「そ、そうなのね。もしかして世界の反対側から来たとか?」


「世界の反対側って……ここがブラジルってならそうだけどど。とにかく俺の考えなら今ここからどうやって村まで行くのかってことだ。」


「ならこの翼を見ても何も思わないのね。」

 彼女は少し声のトーンを落として言った。


「翼を見て最初に思ったのは女神みたいだなって思った。何というか俺の救世主だったし。」


「女神なんかじゃないわ。私は天使族なんだから。」


「天使とか神のこととかは無宗教を貫いてるからわからねぇけどそんな顔をする必要はないんじゃないのか。」


 俺は暗い顔をした彼女に俺は励ましの言葉を投げかけようとした。


「そうかもしれないけど……どうして私にそんなことを言う必要があるの?私は忌み嫌われた天使族なのに。」


 俺は何も言えなかった。彼女は涙を流した。俺からは理由がわからない。彼女が泣いている理由が。天使族は忌み嫌われているのか?だからこそ騎士は俺らに攻撃してきたのだろうか。俺は彼女を笑顔にしたいと思った。異世界に来て気分が高ぶっていたからなのかもしれない。少しでも力になる言葉を伝えたいと思った。


「その天使族のことに関して悲しむっていうならそれは君の責任じゃない。隣人を自分自身のように愛せって言葉がある。憎む必要はないだろうし恨む必要もない。生きていることこそを喜ぶべきだって言いたい。」


「私は信じるわ。ありがとう。少し気分が良くなったわ。確か村に行きたいんだっけ?案内するわ。」


「大丈夫って言いたいところだがカッコつけたこと言っといてあれだけど正直人生の指標が一切立ってねえ。本当にありがとう。」


「そんなに感謝の気持ちを伝えなくてもいいわ。それより村に行ってからどうするか考えないと。」


「ああ、そうだなっていうかそれは俺が考えることだ。冒険者ギルドとかが定番なのかなあ。」


「ところで君も普段はどうしているんだ?いや町に住んでるとかだと危険じゃないのか?襲われたりだとか……」


「私は街に住んでないわ。この森で暮らしてるから。」


「なるほど?というか俺にそんなこと話していのか?よくわからないけど告発とかする可能性もあるし。」


「もう信じるわ。限界だから。」


「ん?」


「なんでもない。早く行かないと日が沈んじゃうわ。私は村までは行かないから暗くなったら村まで行かないわよ?この森には魔物もいるから離れると危険だからね。」


 彼女は俺の前を走った。手を振り俺を呼んだ。今は昼だろうか。俺も葉を掻き分けて移動した。


「魔物って言うのはどういうのがいるんだ?」


「あそこみたいな変な窪みの中にはエーラという魔物がいるわ。踏み込まないでね?エーラ一体一体は弱いけど一気に襲ってきたら到底勝てないわね。この先は崖だから回り込んでいくわよ?」


「ところで後どれくらいなんだ?足がだんだん辛くなってきたみたいな?部屋に引きこもってたことが裏目に出たというか。」


 俺は彼女に声をかけた。


「ん?どうした?」


 俺は彼女の方を向いた。彼女は口から血を吐き胸からは剣が差し込まれていた。地面には血が滴っている。声を出そうとしているが息もままならない様子だ。両目は俺ではなく空を見ている。焦点の定まっていないその赤い瞳は彼女が致命傷を負っているということを簡単に示してくれた。

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