第26話 第九章 新たな脅威2
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惑星探査員、ロウリー・ジマーの目の前に置かれているのは、見るも無残に破壊された、軍用飛行艇の残骸の一部だった。この世界に持ち込まれ、何度かこの世界の生物を生け捕った挙句、事もあろうにこの世界の自然を焼く暴挙に出た、不法侵入者達の飛行艇だ。とんでも無法をやらかした飛行艇だが、その報いは大きいものだったといえるだろう。なにしろ巨大な倒木に機体をぶつけられた上に、
とてつもない数の鳥の群れに突っ込んでしまったのだから。緊急時のジェット噴射でようやくこの樹海からと飛び出せたものの、西の方角にある禿山に追突し、一貫の終わりとなったのだから。飛行艇の残骸の中で、ようやくロウリー達の活動拠点に持ち帰れたのは、焼け残って黒い鳥の羽根などがこびりついた、マスクをしていても嫌な臭いが鼻に着く金属の塊だ。
禿山にあがる炎をロウリーの仲間が見付け、人工降雨の措置で炎を消し、乗員の救助に向かったものの、乗っていた不法侵入者たちは、すでにくたばっていた。その後ロウリー達がやったのは、飛行艇の残骸をロウリー達の活動拠点がある、北の果ての砂漠地帯に、地元民に気付かれぬように持っていく事と、不法侵入者達の身元を特定することだった。そしてその結果、見えてきたのが不法侵入者対策の不備と、不法侵入者を操るやつらの尻尾だったのだ。軍用飛行艇でこの世界に不法侵入してきたのは、兵士崩れのならず者ものだった。彼らは表向きには危険な仕事を請け負う何でも屋を装いながら、影では違法すれすれの仕事を請け負っていて、ついには保護の対象となっている星の不法侵入に手を出したのだ。軍用飛行艇を手に入れるだけの財力のある人物の手助けを受けながら。しかも何故かこの世界のある星の警備は手薄なまま放っておかれていて、不法侵入しやすい状況だった。
「まったく、何とも派手なバードストライクですね」
横から突然話し掛けられ、飛行艇の残骸の前に立っていたロウリーは声の主に顔を向ける。話し掛けて来たのは、ロウリーと同じように惑星探査員の制服とマスクをした、ロウリーの部下の青年だった。
「ようやく不法侵入者達が残したメッセージの解読に成功しました。ほら、これです」
部下の青年はロウリーに報告すると、手に握っていた小型コンピューター端末を掌の上で作動させる。
「これが、不法侵入者達が残したメッセージだな」
部下の青年が非常に小さな箱の形をした端末を掌の上でつつくと、小型端末の上に文字が浮かび上がる。ロウリーは部下から小型端末を受け取ると、メッセージの内容を読み始める。時々浮かび上がる文字に手をかざし、文字をスクロールさせながら文章を読んでいくと、それが自分の身元を明かさずに不法侵入者を操っている人物からの、不法侵入者への指令であるのがわかった。
その指令によると、不法侵入者達はこの世界の生き物を生け捕る為に、違法に手に入れた軍用飛行艇と共にこの世界に送り込まれたものの、巨大な鳥に乗る人間達によって計画は失敗していた。そこで不法侵入者を送り込んだ連中は、計画を生け捕った生物を違法に売り渡す事から、この世界の環境を破壊する事に切り替えていた。この世界の自然環境を破壊し、守るべき自然環境が失われた世界にする為にだ。この世界の自然環境が壊されたと断定されたら、おそらく何処かの惑星開発会社が、この世界の開発に乗り出してくるはずだ。おそらくそれは、この世界の環境を壊そうとした奴らと繋がりのある連中だ。しかしこの汚い繋がりは、見事に隠されている。
困った事だ。この世界には、遥か昔にこの世界に漂流してきた人類の子孫が、独特の社会を築いていると言うのに。
「おそらく、目的を生物の生け捕りから近況破壊に替えたというのは嘘でしょう。初めからこの世界の環境を壊すのが目的で、ならず者達をより危険な行為である環境破壊に誘い出す為に、まずこの世界の生き物の生け捕りを言い出したのでしょう。ただ生き物を生け捕るだけなら、軍用飛行艇なんていりませんよ」
「確かにそうだな」
部下が指摘した事は、ロウリーも薄々感づいていた事だ。それにしても特殊な保護かにある星の環境を壊す為に、軍用飛行艇を手に入れる連中は、どんな奴らなのだろうか? おそらくそいつの正体は、残骸となった軍用飛行艇の出どころを洗っていけば、いずれは明らかになるだろう。この鳥の羽根にまみれた残骸は、重要な悪事の証拠品なのだ。だが悪人を捕まえる仕事は、惑星探査員の仕事ではなく、星間警察の仕事だ。
早く正体を知って惑星探査員なりのやり方で、この悪事の張本人を追いつめてやりたい。だがその前にこちらには、まずやらなければならない仕事がある。
「さぁ、キャンプに戻って、早くこの事件の報告書を作成しよう。報告書で監視体制の不備を改善するよう、思いっきりせっつかないとなる今後の為に」
「はい」
ロウリーは、掌の小型端末を止めると青年に返すと、軍用飛行艇の残骸にカモフラージュガバーを掛ける。カモフラージュカバーを掛けられた飛行艇の残骸がカバーの効果によって完全に姿を消すと、ロウリーと部下の青年は、カモフラージュカバーと同じ原理で隠されている活動拠点に入っていった。
奇妙な飛行物体の事件の後、深緑にある鳥使いの村は平穏を取り戻していた。とは言っても、新たな飛行物体を警戒しての樹海の見張りは続いていたし、事件の後始末も残っている。しかも奇妙な飛行物体の事件は、新たな問題を起こしていた。飛行物体が出現した草原地帯に住む狩猟民の一部が、とうとう樹海の外を目指し、移動し始めた。奇妙な飛行物体が再び草原を焼こうとしたのを見た狩猟民達が、どうしても飛行物体に復讐したいと言い張り、ついに旅立ってしまったのだ。鳥使い達は樹海の外へと移動する狩猟民の追跡も、担わねばならなかった。鳥使いの村ではてんやわんやの日々が続き、その中でモリオンは一人前の鳥使いと宣告されるのを待っていた。だが一人前と宣告される前に、嬉しくない知らせがモリオンの耳に入る。ジェイドが管理していた果樹の林を移住してきた狩猟民に任せ、瞳の湖を離れて行ったという知らせだ。ジェイドが再び放浪を始めたと言う知らせに、モリオンの心は落ち込んだ。やはりジェイドは、村には帰らないつもりなのだろうと思って……。そんな時、モリオンに村の長老達から、急いで長老達が話し合いをする会議の間に来るよう、呼ばれたのだった。
幾つもの階段と廊下を通り、会議の間に向かう間、モリオンはずっと緊張していた。会議の間は長老や村の重要人物が重要な話し合いをする場所だ。普通モリオンのような、若手鳥使いが呼ばれて来る場所ではない。会議の間で長老達から、一人前の鳥使いになったという宣言をされるのだろうか? だが一人前になったという宣言なら、どこででも出来るはずだ。長老の一人が若手鳥使いに面と向かい、だれそれを一人前の鳥使いと認めると言えばいいのだから。会議の間で悪い知らせが待っていなければいいのだが……。大きな不安を抱えながらモリオンは、会議の間の扉を開け中に入る。中には広間の中央に設えた大きな丸いテーブルがあり、そこに長老達が座っている。
「モリオンが参りました」
会議の間の中央に設えた大きな丸いテーブルに着く長老達に、モリオンが一礼すると、早速、長老達の取りまとめ役をしている長老クリスタが、モリオンに声を掛けて来た。
「いらっしゃい、モリオン。空いている席に座って」
「はい」
モリオンはクリスタに言われるままに、クリスタの席の向かい側の椅子に座る。
「此処に座ってもらったのは、貴方に聞いてもらう話があるからです。そしてその話を聞いて、貴方にある事を決めてもらいます。まずあなたに、良い話と悪い話の両方をしますね。」
モリオンか席に着くと、クリスタはさっそくモリオンに重要な話を始める。
「まず良い話から私達は貴方を、一人前の鳥使いと認める事に決めました。あの飛行物体の動きを止めたあなたの働きは、見事でした。よくやりましたね」
「本当ですか! 有難うございます」
待ち望んでいた話に、モリオンは思わず椅子から立ち上がってクリスタに聞き返しそうになり、慌てで椅子に腰を下ろす。
「本当ですよ。ただ一人前になる前に、やってもらいたい仕事があります」
クリスタはモリオン微笑みかけながら、話を続ける。
「此処からが悪い話なのですが、どうやら樹海を出た狩猟民達が、イナの村に向かっているようなのです」
「えっ……」
恐れていた事態が起こり、モリオンは背筋が凍るのを覚えた。
(よりによって、イナの村に向かっているなんて……)
モリオンは、昔イナにいる母から聞いた、走鳥に乗ってイナを襲った人間達の話を思い出していた。イナの村人達は、鳥に乗った人間達に襲われてから、鳥を嫌うようになったのだ。もし鳥嫌いのイナの村人達が、走鳥に乗った狩猟民達とぶつかってしまったら……考えるだけでもぞっとする。あまりの事に黙ってしまったモリオンに、クリスタは話し続ける。
「困った事になったけど、まだ時間はあります。樹海を出た狩猟民達を追跡している鳥使い達によると、彼らがイナに到着するには、まだ時間が掛かりそうとこと。ベヌゥに乗れば狩猟民達よりも先に、イナに到着できるはずです」
クリスタの話を聞き、モリオンは長老達の考えを感じ取る。狩猟民とのもめ事を防ぐために、長老達はモリオンをイナへ行かせようとしているのだ。
「もう貴方は判っているでしょうけど、私達は貴方に、イナに行ってもらうつもりです。イナで生まれ育った、貴方の力が必要だから。勿論、ベテラン鳥使い達と一緒に。貴方とイナへ行く鳥使い達は、私達が選びます。よろしいね」
「はい」
念を押すクリスタに、モリオンは力強く答ええ、クリスタに自分のり決心を伝える。
「よく決心してくれましたね、有難う。でもイナに行く準備を始める前に、この記録を呼んでもらいたいの。つい最近、村の記録の整理をしていて見つけた記録です」
クリスタはテーブルの上に無造作に置かれた紙の束を手にすると、モリオンの前に押し出した。古びた神に書かれた、鳥使いの村の記録だ。
「さぁ、読んでみて。ここに書かれているのは、貴方にとっては重要な出来事だとおもうから」
クリスタに促されモリオンは紙を手にすると、鳥使いの修行をしていて覚えた文字を読み始めた。
古ぼけた紙に書かれていたのは、かつて鳥使い達が巻き込まれた、ある事件についての記録だった。それも樹海の外にある村で、鳥使い達が襲われた事件の記録だ。記録によると鳥使い達がその事件にあったのは、樹海から離れた丘陵地帯にある村だという。間違いなく、モリオンが育ったイナの村だ。しかもこの事件があった時の鳥使い達も、樹海の外に出た草原の狩猟民を、樹海に戻そうとしていたのだ。
この事件が起こった冬は、周辺部にある草原地帯で狩猟民達が狩る生き物に、大規模なはやり病が襲っていた。逸り病で獲物が激減した狩猟民達は狩猟で食べていけなくなり、草原地帯での生活を難くさせられていた。そしてついに狩猟民達の一部は樹海を離れ、あちこちで生き物を狩りながら大型の走鳥に乗って移動を続け、樹海とイナの丘陵地帯との間にある森を抜け、ついにイナの丘陵地帯へ辿り着いたのだった。
狩猟民達がイナの丘陵地帯にやって来ると、当然ながらイナの村人と狩猟民との紛争が起こり、イナの村は大混乱に陥った。狩猟民達はイナの丘陵地帯やその周辺で好き勝手に狩りをし、イナの村人が狩りの対象にしていた生き物を取り尽くしたばかりが、村の畑や果樹の林に走鳥で侵入し、荒らしまわったという。イナの村人と狩猟民との争いは十日間あまりも続いたが、ベヌゥに乗って狩猟民を追跡してきた鳥使い達がイナの上空に現れた時、突然終わりを告げた。
鳥使い達はイナの村から離れた果樹の林にいた狩猟民達を見付けると、狩猟民達の真上を掠めるように飛び、狩猟民達に樹海へ戻るよう説得する。だが狩猟民達が乗る大型の走鳥は、鳥使い達が乗るベヌゥを見た途端、怯えて暴れ始める。そして自分達が乗る走鳥に振り回された狩猟民達は、ベヌゥによってと樹海の方角に追い立てられていく走鳥と共に、イナを離れて樹海へと戻っていった。
これでイナの村を襲う狩猟民の問題は終わったかに見えた。しかし本当の悲劇が起こったのは、この後だった。狩猟民達をイナから離れさせた鳥使い達は、その足で狩猟民がイナを出た事を伝える為に、イナの村に向かう。イナの村と鳥使い達とは交易を通じてお互いを知っているはずだったのだが、事件は起きてしまった。なんと鳥使いがイナに侵入した狩猟民を追い立てていくのを見ていなかったイナの村人の一人が、イナを襲った狩猟民達を鳥使いの仲間だと勘違いし、イナの広場に降り立った鳥使いの一人を刃物で襲ったのだ。
ベヌゥから降りて村人達に話し掛けようとした鳥使いを襲った村人は、さらに広場に止まっていたその鳥使いのベヌゥに襲い掛かかり、さらなる悲劇が起こる。パートナーの鳥使いが村人に襲われ、同じ村人に襲われそうになったベヌゥは、たちまち怒りの形相に変化すると、刃物を持った村人達に襲い掛かった……。
この事件の結末は最悪だった。普段のベヌゥは草食の性格の大人しい鳥だが、ひとたび怒りの形相になると、誰も手が付けられなくなるほど、凶暴で凄まじい性格になってしまう。結局この事件では、イナの村人に切り付けられた鳥使いと数人のイナの村人達が犠牲になり、パートナーを失い怒りの形相になったベヌゥは、なんとか樹海に戻っていったものの、正気を取り戻す事無く樹海の空をあても無く飛び続けた果てに、姿を消してしまったと言う。
紙に書かれた昔の記録を読み終わると、モリオンは紙の束をゆっくりとテーブルの真ん中に置くと、長老クリスタに向かい、そつと礼をする。クリスタが見せてくれた記録は、モリオンにとって心が苦しくなるような記録だった。かつて自分が生まれた村で、ベヌゥによる悲しい事件が起こっていたとは……。怒りの形相のベヌゥの力は、かなりな破壊力を持っている。イナで起こった事件がどんなに悲惨な出来事だったのかは、普段からベヌゥに接していれば、簡単に想像できる事だ。記録を読み終わって溜息をつくモリオンの意識に、怒りの形相のまま空を飛ぶベヌゥの姿が浮かんできた。
パートナーを失い、怒りの形相から抜けられぬままのベヌゥは、凄まじくも悲しげな鳴き声をあげながら、狂ったように空を飛び回っている。ベヌゥのこのような姿を見たイナの村人達が、ベヌゥに強い恐怖心を持ったとしても仕方がないだろう。ベヌゥどころかという鳥が嫌いになったとしても、不思議ではない。しかしこの事件をきっかけにイナの村と鳥使いとの繋がりが切れてしまった事は、双方にとって残念な話だ。鳥を嫌うイナの村人の事を思って俯くモリオンに、クリスタが再び声を掛けて来た。
「この記録はね、記録が掛かれた紙を補完する部屋の片隅に置かれていたの。最も片隅と言っても、探せば見付けられる場所に置いてあったわ。それなのに誰も、この記録に気付かなかいでいた……。おかしいでしょ、隠されていたわけでもないのに、長い間記録の存在に誰も気づかなかったなんて」
クリスタは記録を書いた紙の束に片手を置いて、モリオンに語り掛ける。
「でもこの記録が見つかったおかげで、これから何をすべきかがわかりました。何としても狩猟民がイナに侵入するのを、鳥使い達が阻止するのです。そして鳥使いがイナの敵ではないのを、イナの村人達に示すのです。皆さん、協力していただけますね」
クリスタの言葉にデーブルに着く長老達全員が頷きモリオンも頷いてクリスタへの同意を現す。クリスタは狩猟民のイナへの移動を、イナと鳥使い達との関係を修復する機会にしようとしていた。そしてモリオンはこのクリスタの企てへの協力を、クリスタに約束したのだった。
「さてモリオン、貴方には今此処でやってもらいたい事があります」
クリスタの言葉に、会議の間に集う長老達の視線が、一斉にモリオンへと集まった。蜂してクリスタはモリオンに、この場で何をやらせようとしているのだろうか? 長老達は注目している。
「今すぐイナにいる貴方のお母さんの意識に、狩猟民達がイナに向かっている事を伝えてほしいの。貴方とお母さんとの間には、イドのような力が働いていると言っていたわね」
「はい、やってみます」
モリオンはクリスタにいわれるまま、長老達が見守る中で、意識を故郷の母の意識に向ける。
モリオンは久しぶりにイナにいる母と意識を通じ合わせ、お互いの無事を確かめ合った。モリオンは母が元気にしているのを知ると、すぐに樹海を出た草原の狩猟民がイナに向かっている事を伝える。と、すぐに、母の驚きがモリオンの意識に伝わる。
「母はかなりびっくりしていて、かつて起こった様な悲劇が起きるのを心配しています」
モリオンは母の意識から伝わってきた事を、そのままクリスタに伝える。
「そりゃそうでしょう。かつてイナに悲劇をもたらしたのと同じ状況が、再現されたのですから。モリオン、お母さんに伝えて。イナの指導者である貴方が、ベヌゥ達がイナの空を飛び回るのを許可してくだされば、鳥使い達は必ず狩猟民達の侵入を防いで見せますって」
「はい」
モリオンはすぐにクリスタの言葉を母に伝え、母の返事を待つ。母は狩猟民の侵入を鳥使い達の力を借りて阻止していいものか、迷っていた。イナの村では、鳥使い達がイナの空に現れたヤミガラスを追い払った事がある。しかし今度の場合は狩猟民を追うために、ベヌゥ達は低空を飛ぶのだが、それには人間を脅かすように低空を飛ぶベヌゥ達が、イナの村人達に必要の無い恐怖を感じさせる恐れがある。しかし最後に母の意識は、鳥使い達の力を借りる決心を、モリオンに伝えていた。鳥使い達への、ある要望と共に。
「母は、ベヌゥ達がイナの空を飛ぶのを許すと伝えてきています。鳥使い達の力をお借りしますと……」
「本当ですか?」
モリオンが母の決心を伝えると、クリスタはすぐに聞き返す。
「はい。それからもう一つ、鳥使い達にお願いしたい事があるそうです」
「えっ、何を?」
怪訝そうな顔をしたクリスタに、モリオンは母からの要望を、正確に伝えた。
「母は、赤熱と言う流行り病の薬を持ってきて貰いたいと伝えています。数日前から赤熱がイナの子供達に流行り、このままだとあと四、五日すれば、大流行になるだろうとのことです」
「それは大変……よろしい、幸い赤熱の薬は十分にあります。すぐに薬を用意したら、明日には出発できるでしょう」
「有難うございます!」
クリスタの素早い判断に、モリオンはクリスタに向かって頭を下げて最大限の感謝を現し、すぐ故郷の母にクリスタの判断を伝える。
「母は長老クリスタに、感謝を伝えてほしいと言っています。そして必ず私達がイナに到着するのを待っていると。私達が武士イナに到着したら再びイナと鳥使いとの追う理由を再開しましょう……これが母から地養老クリスタへの伝言です」
モリオンが伝えるイナの賢女からの伝言を聞き終わるとクリスタは大きく息を吸い、モリオンを見つめた。母からの伝言は、クリスタの心に響くものがあったらしい。
「まだ若手の貴方には大変な仕事になると思うけど、頼みますよ。さぁ、早く準備に入りなさい」
長老クリスタは改めてイナ行きをモリオンに命じ、モリオンはそれをしっかりと受け止めた。
「はい。必ず、この仕事をやり遂げてみせます」
モリオンは会議の間にいる長老達に向かって大声で宣言すると、一礼してから会議の間を後にした。
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