第25話 第九章 新たな脅威1
第九章 新たな脅威
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鳥使い達が格闘した火災の炎は、豪雨とともに消えさったものの、草原の狩猟民に多大な被害を与えていた。幸い狩猟民にも消火作業をした鳥使いやベヌゥにも、若干の負傷者はでたものの、犠牲者を出す事は避けられていた。しかし狩猟民達が生活の為に狩りをする狩場の殆どは炎焼き尽くされて狩猟が出来なり、狩猟民達は草原からの移住を迫られている。生活に困った狩猟民達の一部は、樹海周辺部を出て新しい居住地を探そうとしている。だがこれには、大きな問題があった。樹海周辺部を出た狩猟民達が樹海周辺部と隣接する町に入ったりすると、面倒が起こる可能性があるのだ。草原の狩猟民と樹海の外の町の人間とでは、ものの考え方や生活習慣などが、あまりにも違い過ぎている。果たして狩猟民達を樹海の何処に、移住させればいいのだろうか? 頭を抱える鳥使い達になんとジェイドが、ある解決策を鳥使い達に伝えてきた。ジェイドがいる、瞳の湖へ狩猟民を移住させるという解決策だ。ジェイドしか人間の居ない此処なら、狩猟民達は自由に狩猟が出来るし、ジェイドが世話をしている果樹の実を食べる事も出来る。鳥使い達は、早速狩猟民達に瞳の湖への移住を持ちかける。ところが狩猟民達と移住の話をしている中で、鳥使い達は重要な情報を狩猟民たちから聞き出した。樹海の外から飛んできた奇妙な飛行物体が草原地帯に現れ、火を噴くのを見たというのだ。
草原地帯に火事が起こった夜、夜行性の生き物を狩っていた狩猟民達が、樹海の外から飛んできた飛行物体が、草原に向かって火を噴くのを見ていた。命からがら火事から逃れた狩猟民によってもたらされたこの話は、瞳の湖への移住を検討していた狩猟民達に大きな波紋をもたらしていた。狩猟民達の中でも血気盛んな若者たちが、樹海の外まで君用な飛行物体を追っていこうと仲間に呼び掛け、火事を起こされた事に怒った狩猟民達の一部は、その呼びかけに応じようとしていた。
「俺達は火災を起こした奴を許さない。何処までも追っかけていき、とっちめてやる」
鳥使い達は怒りを露わにする狩猟民達と根気強く話し合い、瞳の湖への移住を根気強く促す。鳥使い達はまた飛行物体がやって来て火事を起こそうとしたら、絶対に阻止してみせると約束したうえで、瞳の湖への移住を説得する。
「よし、貴方たちがそこまで言うのなら、瞳の湖とやらへ行ってみよう」
粘り強い鳥使い達の説得に、やがて狩猟民達も少しずつ応じ始め、火事から一か月後には、大半の狩猟民が瞳の湖へと移動していく。草原地帯に残ったのは、あくまでも火災を起こした飛行物体と戦おうとする戦士と、病気や高齢などでなかなか移動できない人達だった。鳥使い達は狩猟民達が移動している間も草原地帯の見張りを続け、残された病人や高齢者に必要な医薬品を届けていた。そして瞳の湖への移動を希望する狩猟民達を一人ずつベヌゥに乗せ、瞳の湖まで移動させた。鳥使い達には気の抜けない日々が続き、当然ながらモリオン達若手にも、忙しい毎日が続いていた。
若手鳥使い達は普段の仕事の加え、樹海周辺部の見張りにも駆り出されていた。更にモリオンには、草原地帯や瞳の湖にいる狩猟民達に、必要な薬を届ける仕事がある。大変な日々が続いてはいたが、その間奇妙な飛行物体は姿を現す事は無く、もう飛行物体は姿を消したとも思われ始めていた。もう少しで、樹海周辺部の見張りから解放されるかもしれない。鳥使い達は日に日にそう考えるようになっていた。ところが……。
その日、モリオンは朝から先輩鳥使い二人と一緒に草原地帯に行き、草原地帯に残る狩猟民達に、持参した薬の使い方を、狩猟民の治療師に説明していた。モリオン達が草原地帯にいる間は、バートナーのベヌゥ達は草原地帯にある林の中に姿を隠している。狩猟民か乗る大型の走鳥を驚かせないためだ。狩猟民の走鳥には何故か、ベヌゥを見ると慌て惑う習性がある。それに狩猟民の走鳥達は、火災の時に草原に放され、何とか火災から逃れた経験をしているので、神経質になっている。ベヌゥ達の姿は見えないようにして、面倒を避ける必要があった。
真昼の太陽がピティスと共に輝く空の下で、モリオンは狩猟民の治療師に、手にした薬の効能と使い方を説明する。一通りの説明をして薬をまだ若い女性の治療師に渡した時、突然林に隠れていたベヌゥ達が鋭い鳴き声を上げ、林から空へと飛び出した。ベヌウ達は警戒の声で鳴きながら空を旋回し、ベヌウに怯えた狩猟民の走鳥達は、短い翼をばたつかせながら暴れまわり、狩猟民達を振り回している。
[どうしたの、ジェダイド]
モリオンはすぐにイドでジェダイドに呼び掛け、何が起こったのかを探る。
[えっ、まさか……]
警戒の声を上げながら飛び回るベヌゥ達の意識は、奇妙な飛行物体の再来を、モリオンに伝えている。樹海周辺部の上空を飛び、草原地帯に入ろうとする奇妙な飛行物体の姿が、モリオンの意識に伝わってきた意識に現れた飛行物体は確実に、こちらに向かっている。と思ったら、草原の彼方にある森の向こうから、奇妙な飛行物体が現れた。樹海周辺部の町から帰る途中で見たのと、殆ど同じ飛行物体だ。
「早く、安全な場所に逃げて。あれは私達が食い止めるから」
飛行物体に出現に驚いた狩猟民の治療師は、モリオンの忠告を聞くとすぐに草原に立ち並ぶ移動式住居へと走っていく。
「ジェダイド!」
狩猟民の治療師が身を隠したのを見届けると、モリオンはジェダイドを呼ぶと地面に着地させ、素早くジェダイドの背中に乗ると、ジェダイドは再び空へと戻っていく。モリオンとは別の場所で狩猟民と移住の話をしていた先輩鳥使い達も狩猟民に逃げるように伝えると、それぞれのパートナーを呼びだして飛び乗ると、飛行物体を迎え撃つべく飛び立った。
鳥使い達を乗せた三羽のベヌゥは空に舞い上がると、こちらに近づいて来る奇妙な飛行物体に向かいっていく。だが飛行物体の速度は速く、近づこうとするベヌゥ達を引き離し、深緑へと飛んでいった。
[だめだ。追いつかない]
ベテラン鳥使いが悔しがっているのが、イドを通じてモリオンに伝わって来る。このままでは奇妙な飛行物体に追いつけない。でも追跡を諦めるわけにはいかなかった。鳥使い達はイドを使って鳥使い達全員に、自分達の加勢に来るように呼び掛ける。しかしその間にも、奇妙な飛行物体は深緑へと近づいていく。しかしベヌゥ達の速度では、何とか飛行物体の後追うのが精一杯だ。それに鳥使い達は今までは鳥使い達に見つかると逃げていた飛行物体が、ベヌゥ達を振り切って深緑へと突き進むのに、戸惑っていた。
[これまではこっちが追いかけようとしたら逃げていたのに……何をしたいのだろう]
戸惑い、混乱する鳥使い達の意識が、モリオンの意識を掠めていく。しかしその一方で加勢に来てくれた鳥使い達を乗せたベヌゥが奇妙な飛行物体の前に姿を現し、モリオン達を勇気づける。
加勢に来てくれたのは、たまたま草原地帯の近くを見張っていた、五人の鳥使いとそのパートナーのベヌゥ達だ。飛行物体はベヌウ達によって、前後を挟み撃ちにされた格好になっていた。しかそれでも奇妙な飛行物体は深緑にむかつて進もうとし、加勢に来てくれた鳥使い達は、自分達よりも低い位置にいる飛行物体目がけ、次々と急降下していく。ベヌゥ達は飛行物体目がけて急降下すると、次々とその鋭い両足の爪で飛行物体を叩きつけ、上昇して飛行物体から離れる。だがベヌゥ達よりも大きな飛行物体はベヌゥ達の攻撃にもびくともせず、反撃してきた。飛行物体は突然、前の部分に円筒形の突起物を突き出すと、その先から火の玉を噴き出し、ベヌゥ達を襲う。思わぬベヌゥに騎乗する鳥使い達は素早くベヌゥに指示を出し、火の玉をかわした。そしてベヌゥ達の真上を掠め飛んだ火の玉は空中で姿を消し、火災にならずにすんだ。しかし火の玉に襲われたベヌゥの一羽が頭の羽根を逆立て、怒りの形相へと変化してしまった。怒りを露わにしたベヌゥは、騎乗する鳥使いの指示を無視して、奇妙な飛行物体に飛びかかり、足の爪で飛行物体後部にある尻尾のような構造物を、へし折らんばかりに掴んだ。さすがの飛行物体も行かれるベヌゥの攻撃を受け、その身体を大きく揺らした。しかし飛行物体は二、三回大きく揺れたところで、再び火を噴き、ベヌウ達を振り切った。
「危ない!」
飛行物体が吹いた火がベヌゥと騎乗する鳥使い達を襲うのを見たモリオンは、おもわす悲鳴のような声を上げる。ベヌゥや鳥使い達が、炎に吹き飛ばされたのかと思ったのだ。だがベヌゥと鳥使い達はすんでのところで、炎に吹き飛ばされるのを免れていた。ベテラン鳥使い達を乗せたベヌゥのうち二羽は、飛行物体から離れると姿勢を元に戻し、再び飛行物体を追跡する。だが残りの一羽、憤怒の形相で飛行物体に飛びかかったベヌゥは吹き飛ばされて急降下していく。だが騎乗している鳥使いは気を失いはしなかった。傷を負いながらもしっかりと操作綱を握り、イドでパートナーに呼び掛け続けて正気に戻し、住んでのところで墜落を免れ、草原に着地して蹲った。
[私にかまわないで行って。また火を噴くかもしれないから]
[わかった。気を付けて]
傷付いて蹲るベヌゥから降りたベテランの女性鳥使いは、自分に構わず飛行物体を追うようにイドで仲間達に伝え、モリオン達はそれに応えて、奇妙な飛行物体を追い続ける。
(やはり、草原地帯を焼いたのはあいつだったのね)
飛行物体が火を噴き、ベヌゥに傷を負わせるのを見たモリオンは、この奇妙な飛行物体が草原を焼いたのだと確信していた。モリオンだけでなく、他の鳥使い達もそう確信し、深緑に向かって飛ぶ飛行物体を追っていた。もうこれ以上、飛行物体に火を噴かせるわけにはいかない。鳥使いとベヌゥ達は懸命に飛行物体を追うものの、飛行物体は少しずつ速度を上げ、ベヌゥ達を引き離す。しかし飛行物体が草を離れ、背の高いに樹木の森に入ったところで、深緑の方か、新たなベヌゥの群れが現れた。
新しく現れたベヌゥの群れは、二十羽近くもいる大きな群れだ。この群れも飛行物体よりも高い位置に姿を現すと、一斉に飛行物体目がけて降下し、飛行物体の上空と前後左右を塞ぐ。ベヌゥ達は奇妙な飛行物体の行く手を塞ごうとしていたのだが、飛行物体は垂直に急降下するとベヌゥ達の下をすり抜け、森の木々の間を縫うように飛んでいった。
[くそっ、なんてやつだ]
鳥にはできない動きをする飛行物体に逃げられた鳥使いのイドでの呟きが、鳥使い達の意識に伝わっていく。しかし樹海の樹木の間を飛び回るは、ベヌゥ達の得意技だ。ベヌゥ達は飛行物体後を懸命に追い、さらに加勢に来た鳥使いのベヌゥ達と共に、飛行物体を樹木と間か狭まっている場所へ追い込んだ。しかし奇妙な飛行物体は、前方の火を噴く穴を開けている。
[また火を噴くみたい。気を付けて]
鳥使いの一人が仲間に警告し、飛行物体の前にいるベヌゥ達は上昇して飛行物体から少し離れ、モリオンとジェダイドは飛行物体の後ろに下がった。
(このままじゃ、この森が焼かれてしまう)
森の木々が飛行物体から放つ炎で焼かれる姿を想像し、モリオンは背筋を凍らせる。もうなにも出来ないのだろうか? 絶体絶命だ……だがその時、イドで呼びかける者があった。
[モリオン、飛行物体の横にある樹を見ろ、倒れそうだろ]
ジェイドが、モリオンにイドで呼びかけていた。ジェイドは鳥使いやベヌゥ達の意識と繋がり、モリオンにある事を教えていた。今にも火を噴こうとする飛行物体の横に、虫食いだらけの樹があるのだ。ちょっと力を加えれば、簡単に倒れるかもしれない。
[有難う、ジエィド]
モリオンはイドでジェイドに感謝を伝えると、ジェダイドと共にすぐさま行動を起こした。
[ジェダイド、あの虫食いだらけの木を倒して!]
虫食いだらけの樹を指で指し示した後、モリオンは操作綱をしっかり握り、ジェダイドに指示を出す。そしてモリオンの指示を理解したジェダイドは、虫食いの樹へと真っ直ぐに飛ぶと両足で虫食いの樹を蹴り飛ばし、素早く上昇する。
[よし、上手くいった]
ジェダイドに蹴飛ばされた虫食いの樹は、音をたてて傾き始めると、奇妙な飛行物体めがけて倒れていく。虫食いの樹は飛行物体を直撃すると土煙といやなに匂いを周囲にまき散らしながら、地面に倒れていった。
「やった……」
倒木がまき散らした埃にせき込みながら、モリオンは消えゆく土煙の中から現れた奇妙な飛行物体の姿を見る。
虫食いの樹は、奇妙な飛行物体に大きな傷を負わせたようだ。胴体には大きなくぼみが出来ているし、円盤部分には裂けがあり、円盤の中で回っているものの回転も不規則になっている。しかしぼろぼろになってもまだ、奇妙な飛行物体は飛び続けようとしていた。飛行物体は森の樹木の上まで上昇すると、そりまま前に進もうとする。だが飛行物体が森の樹木の上を飛ぼうとしたとき、黒い塊が不気味な声と共に森の樹木から現れ、飛行物体を覆った。樹木に潜んでいたヤミガラスの群れが、飛行物体が起こす風に揺れる樹木から飛び出したのだ。
群れを成して生き物を襲う猛禽であるヤミガラス達は、次々と奇妙な飛行物体にぶつかっていき、その中のあるものは円盤部分に飛び込んでいく。そしてヤミガラス達を吸いこんだ円盤部分は動きを止め、飛行物体は下へと真っ直ぐ落ちていく。
[今だ、捕まえろ]
落下する飛行物体を見た鳥使い達は、ベヌゥ達を落下する飛行物体の上で旋回させる。飛行物体が森の樹木の上に落ちたら、すぐ捕まえられるように。しかしもう少しで墜落と言うところで奇妙な飛行物体は、突然胴体の後部から爆発的に火を噴き、飛行物体に群がるヤミガラス立を吹き飛ばしながら、飛び上がっていく。吹き飛ばされたヤミガラス達は散り散りばらばらになりながら飛び去っていき、高く飛び上がった奇妙な飛行物体は吹き飛ばされるように、樹海の外へと飛んでいく。凄まじい爆音を残して。その爆音に驚いたベヌウ達は、鳥使いを乗せているのを忘れて飛び回ろうとした。
[だめ、落ち着いて!]
鳥使い達は急いで操作綱を握り、イドでベヌゥ達に呼び掛けながら、ベヌゥ達を落ち着かせようとする。モリオンもジェダイドを落ち着かせようと、懸命にジェダイドの意識に呼び掛ける。
[もう、あの飛行物体はいなくなったのよ。ほら見て]
モリオンかジェダイトの意識を周囲の様子に向けさせると、ジェダイドは落ち着きを取り戻した。他の鳥使い達もそれぞれ自分のパートナーを、落ち着かせるのに成功したらしい。ベヌゥ達は何事もなかったかのように鳥使い達を背に乗せ、樹海の上空を旋回している。奇妙な飛行物体が姿を消し、ヤミガラス達もいなくなって樹海はと静けさを取り戻してはいたが、飛行物体と退治した三十羽近くのベヌウとその鳥使い達は、すっかり疲れ切っていた。鳥使い達は森の大きな木の枝にベヌウ達を止まらせると、休息を取ながらこれからどうするのかを、イドを通じては話し合いを始めた。
鳥使い達が真っ先に話し合ったのは、負傷して草原地帯に残っているベヌゥと、そのパートナーである女性鳥使いを、鳥使いの村まで移動させる方法についてだった。幸いにも負傷したベヌゥは全く飛べない状態ではなく、パートナーの女性鳥使いもかすり傷を負っただけなのが、イドで伝わってくる。他の鳥使い達に見守られながらなら、ゆっくりとでも村まで飛べるだろうということで、モリオンと二人のベテラン鳥使い達が、負傷したベヌゥと女性鳥使いに付き添いに決まり、他の鳥使い達の大半は、奇妙な飛行物体の被害の調査に当たる事となった。そして残りの数人の鳥使い達が、樹海の外に消えた飛行物体の追跡を、自ら申し出たのだった。彼らは飛行物体を逃したのを後悔していて、危険だという仲間の声や、村の長老達のイドでの忠告にも耳を貸さないでいる。
[仕方がない。気を付けていくんだぞ]
結局、長老達が飛行物体の追跡を認め、追跡を希望していた鳥使い達は、樹海の外へと飛び立ち、彼らにつづいて他の鳥使い達もそれぞれの役目をはしに飛び立った。モリオンも負傷したベヌゥと鳥使いに付き添う役目を果たすべく、ジェダイドと共に、夕暮れが迫る草原に向かった。
モリオンが負傷したベヌゥ達と鳥使いの村に帰った時には、もう翌日の朝になっていた。本来ならもっと早く帰れるのだが、負傷したベヌゥの為に何度も休憩を取ながら帰ったので、帰りが遅れてしまったのだ。モリオン達が鳥使いの村に着くとすぐに、負傷したベヌゥに乗っていた女性鳥使いは、怪我の治療師の診療所に向かう。そして負傷したベヌゥの方は、ベヌゥの離着陸場に待ち構えていたベヌゥの治療師達が、早速ベヌウの治療に当たる。ベヌゥの治療の専門家であるベヌゥの治療師達は、てきぱきと負傷したベヌゥの火傷を診察し、火傷に何種類かの塗り薬を塗っていく。モリオンはジェダイドの騎乗具を外してジェダイドを自由にすると、ベヌウの治療師たちの横でベヌゥが負傷した経緯や、これまでに事をベヌゥの治療師達に説明する。しかしベヌゥの治療師達は、火を噴く飛行物体がベヌゥに火傷を負わせた事を、信じられないでいた。しかし治療を続けるうちに、ベヌゥの火傷が普通の火事の火傷とは違うのに気付き、治療師達はモリオンの説明に納得してくれた。
「確かにあの傷の様子からすると、恐ろしい力を秘めたものが、鳥使いのベヌウを襲ったのは間違いないだろう。この火傷は、普通じゃないから。まぁ、後は私達に任せて」
ベヌゥの治療師が自分の説明に納得し、事態を理解したのを見たモリオンは、離着陸場の床に置いていた騎乗を持ち上げると、ベヌゥの休憩用の洞窟に入り、そこから地下の食堂に向かう。食堂では多くの鳥使い達が、今度の事件について話し合っていた。
食道での鳥使いの話からは、すでに樹海周辺部にいる鳥使い達からの情報が、幾つか村にいる鳥使い達に伝わっているのが解かった。食堂で聞いた話では、奇妙な飛行物体が最後に火を噴いた場所を調べていた鳥使い達からは、飛行物体と衝突したヤミガラスの羽根と一緒に、者の樹が黒く焼け焦げているのが見つかった事が伝えられてきた。飛行物体が吹いた火で焼かれたものの、本格的な火事にはならずに済んだものらしい。鳥使い達はまた火事に合わなかったことを感謝し、心の中で喜んだ。しかし奇妙な飛行物体を追って樹海を出た鳥使い達からは、飛行物体を見つけられなかったという知らせが、イドを通じて届いていた。飛行物体を追跡した鳥使い達は、飛行物体が飛んでいった西に向かって飛んでみたものの飛行物体は見つけられず、西の禿山と呼ばれる生まで来たところで猛烈な雨に会い、そこでの捜索を諦めたのだ。しかし雨が止んだ後で西の禿山を見ると、禿山に大きな、何かが燃えた後があったという。奇妙な飛行物体は、西の禿山で燃え尽きたのだろうか? 真相が判らないまま飛行物体を追跡した鳥使い達は鳥使いの村に帰り、奇妙な飛行物体の騒動は終わりを告げる。だがこの騒動は、モリオンの周りに大きな変化をもたらした。虫食いの樹を倒して飛行物体の動きを止めたことで、モリオンは鳥使い達から一目置かれるようになったのだ。近くモリオンが、一人前の鳥使いになると話す者もいる。嬉しかった。そしてモリオンは、虫食いの樹を飛行物体目がけて倒すように教えてくれたジェイドに心から感謝する。
[有難う、ジェイド]
モリオンはジェイドに、イドで感謝を伝える。しかしジェイドからの返事は無い。ジェイドは私の事を、本当はどう思っているのだろうか? 本当に私が一人前の鳥使いになれると、思っているのだろうか? 得も言われぬ不安を感じながら、モリオンは長老達の決定を待った。
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