第19話 第七章 若手鳥使いモリオン1
第七章 若手鳥使いモリオン
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深い緑で覆われた大地の上を、その巨大な銀色の鳥の群れは飛んでいた。背中に緑色の服と帽子を着用した人間たちを乗せて。この世界独特の、青と白と水色が縞模様を描く空を優雅に羽ばたきながら。
銀色の羽毛と頭には朱色の冠毛、そして長い尾の付け根に金色の飾り羽を二枚つけた巨鳥たちは、大地を深い緑に覆っている森……とてつもなく巨大な樹木の森の上空を飛んでいく。山頂が平らな切り株の形をした、大きな山を目指して。この不思議な形をした山は銀色の巨鳥に乗る人間達の住処があり、巨鳥たちが山に近付くにつれ、平らで広い山頂の建物群がはっきりと見えてきた。ここまで来れば、目的地はもうすぐそこだ。人間を乗せた五羽の巨鳥達は切り株の形をした山の上空に辿り着くとその山の頂を一回りしてから山腹にある、崖の下の広場に巨鳥達を着地させた。山腹をえぐりとったかのように見える崖の下は、平らに整地された広場に一羽ずつ自分が乗る銀色の巨鳥を広場に着地させていく。
巨鳥達が広場の土の上に着地して蹲ると、巨鳥に乗った五人の人間達は自分達が座っている、巨鳥の背中に取り付けた足の無い椅子のような器具と、自分とを繋ぐ命綱を外し、巨鳥の背かから地面へと降りていく。空では真昼の太陽が天頂で輝いている。巨鳥から降りると緑の服の人間、全員が思春期の少年少女たちは服の襟と繋がっている緑の帽子を頭の後ろにずらし、空を見上げた。空ではこの世界の太陽が天頂に差し掛かり、時刻が真昼なのを示していた。
「予定通りに帰ってこられたね、モリオン」
さっきまで巨鳥に乗っていた人間の一人、黒髪の少年が仲間の茶色い髪の少女に声を掛ける。
「そうみたいね、今日はこの前みたいに帰りが遅くなって、ユーディアを心配させなくて済みそうね。あっ、ほら。ピティスが出てきているわ」
モリオンと呼ばれた茶色い髪の少女は、自分達の村を取り囲む巨樹の森の彼方を見ながら、少年に答えた。森と空の境目では、丁度のこの世界を空に君臨する大きな天体、ピティスが姿を見せようとしていた。緑の服の、モリオンを除いては黒い髪の少年少女達はそれぞれ自分が騎乗していた巨鳥の横に立ち、空に昇るピティスを見つめる。ピティスの出現をじっと見つめるのは緑の服を着て巨鳥に乗り、鬱蒼とした巨樹の森……樹海を飛び回る人間達、樹海の鳥使いの習慣だった。
彼ら鳥使い達は、樹海の中でも得に巨大な樹木に覆われた樹海の中心部、深緑にある村に住む数少ない人間達だった。巨樹に囲まれた切り株のような形をした山の頂上に村を作り、そこから鳥使いのパートナーとなった巨鳥ベヌゥに乗って樹海のあちこちに飛び、人間の生活に必要なものや貴重なものを採集し、自分達の生活に役立てたり、樹海周辺部の町にもっていって交易に使ったりしている。茶色い髪のモリオンも、樹海の鳥使いの一人だ。ただし、モリオンは普通の鳥使い達とは、かなり違う経緯で鳥使いになっていたのだが、今は完全に新入りの修行を終え、一人前の鳥使いを目指す若手鳥使いの一人として認められていた。
モリオンは黒い髪をした仲間達と共に、巨樹の間から顔を出したピティスが空に昇るのを暫く見守ると、いつも一緒に行動する仲間と共に、再びベヌゥを連れて歩き出した。巨鳥ベヌウの離着陸場になっている広場の背後には、崖にぽっかりと空いた洞窟の入り口があり、鳥使いとベヌゥ達は、そこから洞窟の中へと入っていった。
光を放つ特殊な石で照らされた洞窟の中には木の葉が敷き詰められ、ベヌゥ達が休めるようになっている。更に洞窟の壁にはいくつものフックが取り付けられ、ベヌゥに乗るための騎乗具や手入れに使う布などがひっかけてあった。モリオン達若手鳥使いは洞窟に入るとベヌゥ達の騎乗具と騎乗具に取り付けている今回の収穫をいれた袋を外して床に置くと、敷き詰められた葉の上にそれぞれのベヌゥを座らせ、フックに掛けられた布を手にしてベヌゥの身体を拭き始めた。若手鳥使い達は布で丁寧に巨鳥達を拭きながら、暫しおしゃべりに浸る。話題は昨日から今朝にかけての、深緑での仕事の成果だ。
「この前は帰るのが遅くなって、ユーディアを怒らせたけど、今日はそんなことないよね」
若手鳥使い達が時分の働きぶりを自慢げに話す中で、若手鳥使いの一人、宿舎でモリオンと宿舎で部屋が一緒の少女ルブが、思い出したように言う。そう一週間ほど前にモリオン達の若手鳥使い集団は、香辛料にする寄生植物の木の実を採りにいった時に帰りが遅くなってしまい、若手鳥使い達の指導役である先輩鳥使いから大目玉を食らっていた。
「まぁあの時は私達も悪かったけどね。きれいな毛をした樹海の獣を追っかけ回していて、帰りが遅くなったんだから。でも今回は私達を、笑顔で出迎えてくれるでしょうね。言われた通りに、ブルクの樹皮を取ってきたんですもの。それも飛び切り上質のを」
モリオンは床に騎乗具と一緒に置かれた袋に目をやりながら、仲間達に話しかける。
「そうだよな、特上のブルクの樹皮を探し出して,持って帰ってきたんだから。前の失敗は帳消しだよ」
今度は若手鳥使いの少年ケレルが、話ながらユーディアが驚いた時の表情を顔真似して、仲間達の笑いを誘った。ユーディアが今回の成果を見たら、おそらくするだろう表情だ。若手鳥使い達はケレルの表情を見て笑いながらベヌゥ達の世話を続け、一通りの世話が済むと再びベヌゥ達を離着陸場へ連れていき、自由にさせる。騎乗具から解放されたベヌゥ達は一斉に空に舞い上がると、それぞれ自分が好きな方角へと飛んでいく。これでベヌウ達は大好物の木の実を食べに行ったり、巨樹の枝でゆっくりしたりと、好きなようにし自由時間を過ごすのだ。しかしパートナーの若手鳥使い達には、まだ仕事が残っていた。深緑で採集してきた、布にする繊維を取る樹木であるブルクの樹皮を、洞窟のまだ下にある地下の倉庫まで、運ぶ仕事が残っているのだ。
若手鳥使い達は床に置いた騎乗具に取り付けていた袋を外し、騎乗具をフックに掛けるとブルクの樹皮を入れた袋を持ち、倉庫へとむかう。洞窟の奥にある階段を、壁にはめ込まれた石が放つ光を頼りに降りていくと、普段着の上着とズボンを着たユーディアが待つ倉庫に入る。ユーディアは若手鳥使い達が返ってきたのを、鳥使い達が持つイドと呼ばれる特殊能力を使って知り、倉庫で若手達を待っていたのだ。
「お帰り。今回の収穫を見せて」
ユーディアが若手鳥使い達に声を掛けると、若手鳥使い達はユーディアに挨拶をしてから、それぞれ手に持っていた袋を床に置き、袋を開いて中身をユーディアに見せた。袋の中には、人間の手ほど荷の大きさに切られた赤茶色の樹皮が、ぎっしりと詰められている。
「まぁ、上等のブルクじゃない。上出来よ」
ユーディアは袋の樹皮をさっそく手に取って見ると、さっきケレルが真似た表情をして見せた。若手達がめったにないくらい上質のブルクを取ってきたのに、驚いたようだ。まずは成功だ。
「みんな頑張って探してきました。町でたかく売れるようにね」
モリオンは訴えるように、上質の樹皮を採集した経緯を話す。少しでも、自分達の仕事を認めてもらえるように。
「やっと見つけた大きなブルクの木の樹皮を慎重に剥がしてきたんですよ」
モリオンは樹皮を採取した場所や採取したときの樹皮の状態など細かくユーディアに話すが、ユーディアには細かな説明は、いらなかったようだ。一通りモリオンの説明を聞くとモリオンのおしゃべりを手の合図で制すると、若手達に洞窟に戻るように言う。
「よくやったわね。さぁ、洞窟に戻って騎乗服を脱ぎなさい」
やはりユーディアは、今回は若手鳥使い達が良い仕事をしたのを、認めざるを得なかったようだ。
「じぁあ、この前の失敗は帳消しですね」
モリオンはしてやったりといった表情で、ユーディアに詰め寄る。
「そうなるでしょうね。長老達にあなたたちが良い仕事をしたと報告するわ。さぁ、これからは自由時間よ。好きになさい」
「はい」
ユーディアに言われ若手鳥使い達は、一斉に返事をすると階段へと戻り始めると、ユーディアは倉庫の奥にある通路の入り口に入る。この通路は村の長老達が集まり、話し合いをする会議の間に繋がっていて、ユーディアが長老達に若手達の仕事ぶりを話に行くのか分かった。
「ユーディアはきっといい報告を、長老達にしてくれるよね」
ルブがモリオンと並んで歩きながら、心配そうに話す。
「大丈夫、今回の出来は完璧だから」
モリオンはルブを安心させようと、自信たっぷりな口調で答えた。
「そうね、今回は完璧よね。それより騎乗服を脱いだら、食堂に行かない。お腹すいちゃったわ」
ルブが空腹を訴えるなりルブのお腹が鳴り、モリオンは苦笑する。
「早く洞窟に行って、騎乗服を片付けないとね。またあなたお腹が鳴るかもしれないから」
「そうね。あなたのお腹もなるかもしれないわね」
モリオンとルブは冗談を言い合いながら他の若手鳥使い達と一緒に倉庫を出で階段を昇っていく。そして洞窟に入ると騎乗服を脱ぎ、下に来ていたチュニックとズボンだけになると、騎乗服を壁の騎乗服専用のフックに掛けておいた。これで鳥使いとしての仕事は終わり、次に騎乗服を着てベヌゥに乗るまでは、鳥使いの自由時間だ。そして鳥使いが自由時間の最初にすることは、村の地下の食堂に行き、食事をする事と決まっていた。騎乗服をしまうと若手鳥使い達はさっさと洞窟を出て食堂へと向かう。だがモリオンは、騎乗服をしまうと騎乗具を掛けてあるフックの前に行き、騎乗具の物入れから小さな袋を出すとズホンのポケットに入れ、食堂に向かった。
倉庫や会議の間と同じく村の地下に作られた食堂では、先に来た若手鳥使い達が、食事とおしゃべりを楽しんでいる最中だった。時には鳥使い達が話し合いや情報交換をする場にもなる食堂には、壁に作られた棚に様々な食べ物や飲み物が置かれ、何時でも食べたり飲んだりできるようにされていた。モリオンは棚から袋上のパンに味付けされた野菜などを詰めたものが乗った皿と果汁が入ったコップを取り、食堂のあちこちに置かれたテーブルの一つに着いて簡単な食事をする。モリオンが座ったのは食堂の壁に開けられた大きな窓近くのテーブルの椅子で、窓から外の景色がきれいに見える特等席だったが、モリオンは景色には目もくれずさっさと食事を済ませると、食堂をでて山頂の村に向かった。
モリオンには鳥使いとしての仕事の他に、もう一つ大事な仕事があった。村の製薬所で、村の薬草師から薬草に使い方を学ぶという仕事だ
モリオンは賢女と呼ばれる、イナの巫女の娘だった。賢女は村の様々な儀式を執り行うだけでなく、病気や怪我の治療、出産への立ち合いなども請け負っていた。その為賢女の娘は、幼い時から薬草の知恵を母親から教わっている。モリオンは故郷で学んだ薬草の知恵を鳥使いの村でも生かすべく、製薬所で樹海の薬草の勉強をしているのだった。
だがこれから製薬所に行くのは、薬草の勉強のためではなかった。深緑の中で薬草師から頼まれていたものを見付けたので、薬草師に届けるためだった。
モリオンは食道をでて山頂に向かうこの階段の出入り口は山頂の集会所として使われている建物の中にあり、集会所に出たモリオンはさらに集会所を出て村人達の家屋が立ち並ぶ村の中を通り、製薬所に向かう。平らで広い山頂には村人の家屋と共に、村人の生活に様々な建物、パン工場や様々な道具や生活雑器をつくる工房、病気や怪我を見る診療所などが建てられている。製薬所もその一つだ。モリオンは製薬所の建物を見つけると製薬所の周囲に作られた薬草畑を通り、作業場の前に出た。もう夕方になったので、製薬所の今日の仕事は終わったらしい。製薬所の中心である大きな作業場には誰もいず、ひっそりとしている。ただその隣の小さな作業場の扉は空いていて、中からの薬草の匂いが漂ってきた。扉の向こうを覗くと、青い作業用の上着を着た、恰幅の良い初老の薬草師と少年の二人が、作業場作業台の前にそれぞれ敷物を敷いて座り、製薬作業をしている最中だった。薬草師達は作業台の上に置かれた薬草を、両端に握りのついた半円形の刃物で細かく切り刻んでいる。薬草師は弟子になったばかりの少年に、薬草の扱い方を教えているようだ。
「こんにちは、ちょっといいですか?」
モリオンは製薬作業を邪魔しないよう、半開きの扉の向こうから、二人にそっと声を掛ける。
「おう、モリオンか。入ってもいいぞ」
モリオンに気づいた壮年の薬草師がモリオンに声を掛け、モリオンは半開きの扉を抜け、作業場の中に入り、作業台の前に置いてある敷物に座った。
「ウバロ、茶を持ってきてくれ」
「はい」
モリオンが薬草師の向かいに座ると、薬草師はウバロと呼ばれた少年にお茶を持ってこさせる。
「さぁ,今日はどんな事を勉強しに来たのかい?」
ウバロが作業所の隅の小さなテーブルからお茶を入れたコップと盆に乗せて持ってくると、薬草師は気さくに話しかけてきた。
「今日は勉強しに来たんじゃありません。頼まれていた物を持ってきました。深緑で見つけたクネロです。ほら、これ」
モリオンはお茶を飲みほしてコップを前に置いた盆に戻すと、ズボンのポケットから小さな袋を取り出した。袋を開けて中身を取り出すと、中からぶよぶよとした紫色の物体が現れた。
袋から出てきたのは、クネロと呼ばれる樹海の樹に着く寄生植物だった。やや毒々しい色をしているが、身体の痛い部分に塗る軟膏の材料になるものだ。
「どうれ、良く見せておくれ。ほぅ……これだと十分に、軟膏の材料になるな。大切に使わしてもらうよ」
薬草師はモリオンから受け取ったクネロを丹念に調べると、敷物から立ち上がって部屋の隅に置かれた、丸い輪のような引手が付いた引き出しが沢山ある、大きな箪笥の引き出しの一人にクネロを入れる。この大きくて多数の引き出しと、上部に薬瓶などを置く棚がある箪笥は、薬草師の宝である多種多様な薬の原料を収納する薬草収納庫だ。そしてこの収納庫を管理するのは、薬草師の親方と決められている。
薬草師はクネロを薬草庫の引き出しの一つに入れると、薬草庫の上部の棚から貝殻で出来た薬草の容器を取りだすと座っていた場所に戻り、容器をモリオンに手渡した。
「これはあんたから頼まれていた薬だよ。今日、出来上がったばかりだ。持って帰ってくれないかな」
薬草師から手渡された容器は、モリオンの故郷、イナの村で使われている薬の容器で、モリオンは故郷にいる母……賢女と呼ばれるイナの巫女から、この薬をイナの村に届けてくれるよう、頼まれていたのだった。
「有難うございます」
モリオンは薬の容器を、クネロを入れていた袋と共にズボンのホケットにしまうと、改めて薬草師に礼を言う。
「いや、こっちこそあんたのおかげで、貴重なツルイチゴが手に入ったんだよ。お互い様だ。それより樹海では取れないツルイチゴを、どこで見付けたのかね?」
どうやら薬草師は、樹海や樹海周辺府の町では見られないツルイチゴを、モリオンが簡単に手に入れるのを疑問に思っているらしい。なにしろツルイチゴは、モリオンの故郷がある、イナの丘陵地帯にしかないのだから。しかもモリオンは、鳥使いになる為にイナを出て以来、イナには帰っていない。
「樹海周辺部から私の故郷、イナの村までお使いをしてくれるものがいるのです」
モリオンは薬草師に話していなかったツルイチゴの入手方法を、薬草師たちに明かす。
「私がイナの村から連れてきた家禽、マダラウズラが樹海周辺部とイナとを行き来しているので、彼にお使いをしてもらっています」
「あぁ、君がここに連れてきた、あの家禽の仲間だね」
モリオンが説明を聞いて、製薬作業の続きをしていた弟子の少年、ウバロが口を挟んできた。
「そうよ。この村に連れてきた雌のマダラウズラと一緒に樹海に来た、雄のマダラウズラがいるの。私はそのマダラウズラを樹海周辺部に残してきたのだけど、彼は樹海周辺部とイナの村を行き来しているのね。私の母は彼を見つけて、貝殻の容器をとツルイチゴを彼に託したんです」
ウバロは作業の手を止めてモリオンの説明に聞き入ると、モリオンが言おうとしていた事を先に行った。
「貝殻の容器に入れたあった薬と、ツルイチゴを交換する為にかい」
「そう」
言おうとしたことを先に言われ、モリオンは苦笑しながら話し続ける。
「イナと鳥使い達との交流が途絶える前に手に入れていた薬が、なくなる寸前でした。だから私の母は、ツルイチゴと薬の容器をマダラウズラに託したんですよ」
「そうかい。またイナとの交流が始まるってことか」
「はい、まだ交流のきっかけを掴んだというところでしょうけど」
薬草師の言葉に答えながら、モリオンは重たいものを感じた。
遥か昔、モリオンの故郷であるイナの村と鳥使い達とは交流していたのだが、ある時からその交流は途絶えてしまっていた。長い間交流が途絶えているうちに、イナの村人は鳥を嫌うようになり、鳥使い達はイナの名前すら忘れ去っていた。ところがある事件をきっかけにモリオンがイナの村を出て鳥使いの修行を始めたことから、イナと鳥使い達の村とは、再び交流を始めるきっかけを得たのだ。故郷の村と鳥使いの村との間で、自分はどうなっていくのだろうか? 漠然とした不安が、モリオンの心に覆いかぶさって来る。これからの事はまだ判らない。ただ今やれる事は、早く一人前の鳥使いとして認められるように、若手鳥使いとして頑張るだけだ。
「さて、私は明日の仕事があるので、今日はこれで失礼させていただきます。ご馳走様でした」
モリオンはコップに残ったお茶を飲み干すと敷物から立ち上がり、コップと盆をテーブルに戻すと、薬草師とウバロに暇乞いをして作業所の扉に向かう。その時……。
「またな、モリオン。ベヌゥに乗れない俺が分まで、頑張ってくれよな」
「えぇ、頑張るわ。さよなら」
別れ際にウバロがモリオンの心にぐさりとくる事を言われ、モリオンはさよならを言うとすぐ作業場を出て、製薬所を後にした。
薬草師の弟子をしているウバロは、鳥使いの両親から生まれたのに、鳥使いに必要なイドの力……意識と意識を繋ぎ合わせる力……を持っていなかった為に、鳥使い候補から外れた少年だった。イドという特殊な力があるから、鳥使い達はベヌゥと心を通わせ、ベヌゥでの移動中や仲間と離れている時でも、情報をやり取りする事が出来た。モリオンが鳥使いになれたのも、鳥使いの村で生まれていないにも関わらず、何故かイドの力を持っていたからだ。それなのに両親とも鳥使いのウバロは、イドの力を持っていない。両親が鳥使いの子供にイドの力が無いのは珍しい事で、自分は鳥使いになるものと思っていたウバロを、ひどく落胆させていたのだ。
(どうして私にイドの力があって、ウバロには無いのだろうか)
モリオンは鳥使いの夢を諦めて薬草師の勉強をするウバロの気持を思いながら、薬草畑を急ぎ足で歩く。これからユーディアに、明日の予定を深緑での仕事から樹海周辺部での仕事に変えてもらうよう、頼みに行かねばならなかった。薬草師に作ってもらった薬を、イナの村に届ける為に。
明日もまた、若手鳥使いとしての生活が待っているのだ。
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