第16話 第六章 再会……そして深緑へ1

第六章 再会……そして深緑へ

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 次の朝起きるとカーネリアとモリオンは、さっそく帰り支度を始める。商売の成果を点検して騎乗服に着替え、天幕も円筒系の物入れに収納すると、カーネリアはイドでウルー・ベヌゥのキュプラを呼んだ。

荷運び専門のキュプラは姿を現すとモリオン達の横に着地し、カーネリアは蹲ったキュプラの背中に登ってキュプラの背中にウルー・ベヌゥが背負う器具を取り付け、その上に荷物を入れた円筒形の物入れを乗せて太い縄で縛る。準備の整うとカーネリアはキュプラを飛び立たせ、ウルー・ベヌゥは背中の荷物をものともせずに村へと飛んでいく。

ウルー・ベヌゥの姿が見えなくなると、カーネリアとモリオンは、自分達のパートナーを呼んだ。

[ジェダイド]

[ブルージョン]

モリオンとカーネリアがそれぞれのベヌゥにイドで呼びかけると、それまで自由にしていたベヌゥ達が、空の彼方から飛んできて、野営地の叢に着地しようとする。だが時、思わぬ事が起きた。ベヌゥ達が鳥使いの支持に従わず、湖に向かって飛んでしまったのだ。

「ジェダイド! どうしたの」

言うことを聞かないジェダイドに慌てたモリオンは、思わずベヌゥ達を追って走りだす。このままではベヌウを追って、危険な方向に走っていくかもしれない。

「モリオン、追いかけてはだめ」

カーネリアが大声でいったのも聞かずに、モリオンは草地を駆け抜け、大きな湖の湖畔まで続く坂道を下る。坂道を下って湖畔に生える丈の高い草の群生に辿り着くと、モリオンはさらに丈の高い草を掻き分けながら、ベヌゥ達を追った。丈の高い草の下はぬかるみになっていて、防水の効いた騎乗用の靴でないと歩き難くかったが、丈の高い草を抜けると湖畔近くにある、草のない高い丘の上に辿り着く。丘の上空では、二羽のベヌゥが湖の白い水鳥と共に、飛び回っているのが見えた。

[ブルージョン、何をしているの?]

丘の上に上がったモリオンは、立ち止まって白い水鳥達と飛ぶジェダイドに呼びかける。だがジェダイドはモリオンのイドでの呼びかけには答えず、ブルージョンと共にいきなり急降下して湖畔を掠め、まだ上昇いった。

べヌゥ達は下降と上昇を何度が繰り返し、それを何度か繰り返した後、モリオンはブルージョンが脚の爪に何かを引っかけているのに気付く。木で作られた籠だ。ブルージョンの足から下がっている籠には、虹色の光沢がある羽毛の鳥が入れられ、鳴き続けている。ニジノオ鳥の雛だ。樹海で見た荒らされた巣から、連れ去られた雛らしい。籠の中の雛はベヌゥに持ち上げられておびえてばたつき、身体を籠にぶつけている。モリオンは雛に自分の意識を向け、安心させようとしていた。だが雛が落ち着く前に、どこからか大きな音と共に飛んできた光が、ベヌゥ達を襲う。

モリオンはベヌゥ達が巧みに飛んできた光を避けるのを、ただ茫然と見ていた。後ろで人の気配を感じるまでは。後ろを振り向くと、カーネリアが自分に向かってくる男に素早く石を拾って投げつけているところだった。商人のマントを来た男はカーネリアの投げた石に打ちのめされ、地面に倒れこむ。倒れた男の顔は、あの二人組の一人、リエンの顔だ。やはりあの二人組は、樹海の鳥の生け捕りに関係していたのだろう。でも光を放ったのは、別の人間らしい。リエンは光を放つような道具は持っていない。気をつけなければと思った瞬間、再び光が空に放たれ、ベヌゥ達は巧みに光を避ける。いつの間にか水鳥達は姿を消し、ブルージョンはニジノオ鳥の籠ごと急上昇し、空の彼方に姿を消す。

「モリオン、ジェダイドを上昇させて、早く!」

ブルージョンが姿を消すと、カーネリアが大声で叫ぶのが聞こえた。しかしモリオンは茫然として立ち尽くすばかりだった。

「モリオン、早くジェダイドを上昇させて!」

もう一度カーネリアに大声で叫ばれ、モリオ慌ててジェダイドに意識を向ける。ジェダイドを急上昇させようとした。しかしその前に、再び飛んできた光がジェダイドの翼の先を掠め、ジェダイドの様子を変化させた。

ジェダイドは冠毛や頭から背中にかけての羽毛をおもいっきり逆立て、羽毛の裏の鮮やかな赤色を見せ、炎の色を帯びた目を見開いていた。ベヌゥの抑えきれない怒りが見せる、怒りの形相だ。

「まるで……火の鳥……」

怒りの儀様相のジェダイドに、モリオンは途惑う。しかしぼやぼやしていられない。早くジェダイドを落ち着かさなければ、大変な事になるかも知れないのだから。

「落ち着いて、ジェダイド」

モリオンは怒るジェダイドを落ち着かせようと、声を掛ける。しかしジェダイドはモリオンの支持に従わす、光が飛んできた場所を目がけて急降下すると足の爪で丘つわ取り囲む叢を掻き分け、隠れていた人間を駆り出した。

「ジェダイド!」

モリオンが叫ぶと同時に叢から人の悲鳴があがり、ベヌゥに追われた人間達が叢から出ると、カーネリア達に向かって走り出した。

「やってくれたね、ジェダイド。モリオンは隠れてなさい」

モリオンに命令するとカーネリアは、自分に向かって走って来る二人の男の一人を頭に石を投げつけて気絶させ、もう一人は勢いよく飛び掛ってきたところを膝げりで地面に倒し、さらに後から姿を現した女を取り押さえた。あの商人ナーイに雇われていた二人組の片割れ、マインだった。

「あのニジノオ鳥をどうしようとしたの? さあ言いなさい」

カーネリアはマインを厳しく問い詰める。空ではジェダイドが相変わらず怒りの形相で空を旋回し、マインを震え上がらせていた。しかもジェダイドは、何やら金属の棒のようなものを足の爪に挟んでいる。叢で拾ったのだろう。もしたしたら、ベヌゥ達を襲った、光を放つ武器かもしれない。

ジェダイドは飛び回りながら足に力を入れ、つかんでいた武器を破壊していしまった。ばらばらになった道具の破片が地面に落ちてしまうと、ジェダイドは怒りの形相から姿に戻っていく。自分を襲ったものを破壊して、きが収まったのだろう。しずれにしてもベヌゥが、その力強さを現した瞬間だった。そしてカーネリアに取り押さえられたマインは、ジェダイドに見せつけられたベヌゥの力にすっかり怯え、弱々しい声で話し始める

怯えるマインは震える声で、自分が樹海の鳥の生け捕りに加担した経緯を白状した。

「たのまれたのよ、あの道具を手渡されてね。それで樹海の鳥を生け捕ってくるよう……あの男に……。商人ナーイと出会う前にね。でもあの商人が、樹海の鳥使いと親しいなんて知らなかった」

自分が樹海に鳥に生け捕りに加担したこと白状したマインを、カーネリアはさらに問い詰める。

「ナーイの手伝いをしながら、怪しい奴らの手伝いをしていたのね。そいつらから樹海の鳥使いには気を付けろって、言われたのでしょ!」

「それは樹海周辺部で小動物を狩っている猟師達に、彼方たちの鳥がぶっ壊した道具を手渡した時に言われたわ。私達はあの男からもらった道具を猟師に持たせて、今日の朝までに鳥を生け捕って来るよう頼んだのよ。猟師に頼めば、確実に鳥を生け捕って来るだろうと思ってね」

マインは震えた声でぼそぼそと話し続ける。

「なるほどね。さっきの男達はリエンと、ニジノオドリの雛を生け捕って来た猟師達だったのね。それより貴方達にこんなことを頼んだあの男って、何者?」

カーネリアはきつい口調でマインを問い詰めるが、マインはますます混乱していくばかりだ。

「知らないわ。自分の名前すら名乗らないのだから。首尾よく行けば、猟師が帰った後で、あの男に獲物を渡すはずだったのよ。それよりあの鳥をなんとかして!」

マインは悲鳴に近い声で、泣き叫ぶ。滋養空ではジェダイドが低空飛行を続け、マインをおびえさせていたのだ。飛び続けるジェダイドは地上に何かを見つけらしい。地上すれすれのところを飛びながら、足先を叢の中につっこみ、そこに隠れていた何者かを追い立てた。

出てきたのは、見た事も無い服装をして、ジェダイドが壊した道具を小さくしたものを持った男だった。生け捕りの鳥を、受け取りに来た男だろう。ジェダイドに追い立てられた男はジェダイトの攻撃を避けながらもモリオンに向かってくると、あっという間に羽交い絞めにした。

「早くあの鳥をなんとかしろ。出ないとこいつをぶっ放すぞ」

男に押さえつけられたモリオンは男の腕を振りはずそうとしてもがき続け、それを見たカーネリアは、マインを取り押さえていた手を緩めてしまった。マインはやすやすとカーネリアの手をすり抜け、森へと走り去っていていく。上空を見上げるとジェダイドは、モリオンの頭上をぐるぐると旋回している。モリオンの危機を感じているのだ。

「さぁ、今度は鳥籠をこっちに渡してもらおうか」

ジェダイドが何もしないのを見ると、男はモリオンに手にした道具を押しつけながら、カーネリアに命令する。だが絶体絶命だと思われた時、いきなり助っ人が現れた。丈の長い、黒いマントを着た人物か突然あらわれ、モリオンを羽交い絞めにしている男に飛びかかって打ちのめしたのだ。町の軽食屋で見掛けた人物だ。男から解放されるとモリオンは素早くカーネリアの元に走り寄り、改めて助っ人の姿を見詰めた。二人の前で助っ人は仰向けに倒れた男の手から道具を奪い、丘の上から湖にむかって投げ捨てた。その時、助っ人被っていたマントのフードかずれ落ちて、助っ人の顔があらわになった。

「ジェイド! 何故此処に?」

驚くしかない。カーネリア達を助けた助っ人は……ジェイドだった。

「こいつを追って樹海から町へ来たんだ。軽食屋で君達と会った時は、びっくりしたよ。それよりこいつが起きないうちに、ここを離れたほうがいい」

自分が打ちのめした男を指さしながら、ジェイドはカーネリアに忠告する。

「この男ね、鳥の生け捕りを頼んだのは」

カーネリアは、倒れている男の顔をのぞき込む。やけに色の白い男だ。

「こいつはほっておけ、それより早く野営地に戻ったほうがいい」

ジェイドにうながされ、モリオンとカーネリアはジェイドと共に野営地へと引き返しだす。頭上ではジェダイドといつの間にか姿を現した、爪の先に籠を引っ掛けたブルージョンがモリオン達の先を飛んでいる。 モリオンとカーネリア、それにジェイドの三人は無言で、野営地まで無言のまま歩き続ける。ところが野営地に着く前に、もう一人男が姿を現し、ジェイドはその男も躊躇なく打ちのめした。商人の恰好をした、見知らぬ男だ。

「何故か知らないが、樹海をうろついていたやつだ。おそらく、何かを企んでいるのだろう。さあ、早く」

三人は倒れた商人を置いて背の高い草の中を進み、天幕を張っていた場所にたどり着く。ベヌゥ達はすでに野営地上空で、旋回しながらモリオン達を待っていた。

「ブルージョン」

「ジェダイド」

モリオンとカーネリアがベヌゥ達を呼ぶと、まずジェダイドがゆっくりと降下し、地面に蹲り、空高く飛んでいたブルージョンは鳥の雛が入った籠をぶら下げたまま、人間の背の高さくらいまで降りてきた。カーネリアはブルージョンが足の爪に引っかけている籠を受け取ると、ブルージョンをジェダイドの隣に蹲せ、籠の扉の留め金を外して雛を自由にする。籠から出てきた雛は、少し震えてはいるが元気なようだ。しかしいきなり空高く上昇させられたのが負担だったのだろう。自由になっても、蹲ったまま震えている。

「さあ、もう大丈夫だよ」

ジェイドは雛に声を掛けながらマントと上着を脱ぎ、袖無しの下着だけになると上着を雛に被せ、再びマントを羽織ると上着にくるまれた雛を抱き上げる。その時ジェイドの右肩から右腕の殆どがやけどに覆われているのが目に入り、モリオンは生きを飲んだ。上着を脱ぐときに下着もめくれ上がって露わになった背中にも、火傷の跡が見える。火傷をしていないのは顔と鳥使いの印のある左の肩と腕だけのようだ。

ジェイドは卵泥棒を追っていて、恐ろしい体験をしたようだ。何があったのだろうか? でも今は、卵泥棒を追っていた何があったのか、聞かないのが一番だろう。ジェイドが恐ろしい体験を思い出さないように。でもモリオンにもカーネリアにも、ジェイドに聞きたい事がたくさんあった。

「この雛をどうするの?」

まずカーネリアが、ニジノオ鳥の雛を見ながらジェイドに問い掛けみる。この質問なら、ジェイドは素直に超ええてくれるだろう。

「暫く面倒を見た後で、樹海に戻してやるつもりだ」

思った通り、ジェイドはあっさりと答えてくれた。それと同時に、今のジェイドが樹海で暮らしている事も明らかになった。樹海で暮らしてないと、樹海の鳥の面倒を見て放つなど、出来ないだろうから。カーネリアもそう思ったらしい

「もしかして、今は樹海周辺部に住んでいるんじゃない?」

カーネリアが率直に質問すると、ジェイドからは思った通りの答えが返ってきた。

「あぁ、時には町に出て来るけれどね」

やはりジェイドは、樹海周辺部で暮らしていた。でも何故、ジェイドはひどい火傷を負いながら樹海で暮らし始めたのだろうか? どうしても知りたくなったのだろう。カーネリアはとうとう、ジェイドが答えたくないのを承知で、辛い話を聞きただそうとした。

「今まで何をしていたの? どうして姿を隠していたの? ネフライドは?」

「わからない……。気が付いたら一人で樹海にいたんだ」

カーネリアに問い詰められ、ジェイドは時々言葉に詰まりながらも、卵泥棒を追いかけた時に何を体験し、何故樹海に住むようになったのかを話し始めた。

「丘の上に現れた奇妙な空飛ぶ乗り物を追って、樹海周辺部を西へと飛んで行って、沈黙の山まで来たところで炎に巻き込まれたのは覚えているよ。でも、それから後の記憶が一つも無いんだ。大怪我をしたはずなのに、どうして助かったのかもわからない……。次に覚えているのは、樹海に一人でいて、もうネフライドには乗れないのが解かったことだよ。だから樹海周辺部で暮らす事にしたのさ。もう鳥使いの村には帰れないから。ところが樹海周辺部には、樹海の生き物を生け捕ろうとするやつらがいた……」

ようやく樹海に住むようになった理由を話してくれたジェイドだが、ここまで話し終えると再び黙ってしまったそして。カーネリアが質問するのを止めると、今度はモリオンがジェイドに話しかける。

「わかった、ジェイド。これ以上何も聞かない。あなたが樹海を守ろうとしているのが解っただけで、本当によかった。それより私、鳥使いになったのよ」

モリオンはジェイドに優しく話しかけたが、ジェイドの答えは以外なものだった。「君が鳥使いになったのは、もう知っているよ。樹海でベヌゥに乗る君をよく見かけたからね」

なんと、ジェイトは鳥使いになったモリオンとジェダイドを見ていたのだ。

「君もう立派な新入りの鳥使いだよ。鳥使いの道を歩むには、沢山困難があるだろうけれど、君なら乗り越えられる……きっとね」

ジェイドは、ニジノオ鳥の雛を抱きしめたままモリオンに語り掛け、途中からモリオンに近寄ると、雛を右手に抱き抱え直してから、左手をモリオンの左肩に置き、モリオンを見詰める。

「君が一人前の鳥使いになるのを、楽しみしているよ。じぁ、さよなら」

ジェイドは別れの挨拶をしてモリオンから離れると、ニジノオ鳥の雛と共に森へと走っていく。

「待って、ジェイド。お願い、村に……深緑に帰って」

姿を消そうとするジェイドをカーネリアが呼び止め、ジェイドは一瞬立ち止まり、カーネリアに背を向けたままカーネリアの呼びかけに答えた。

「ごめんよ、カーネリア。村にはもう戻れないよ。ベヌゥの近くには、いたくないんだ。さよなら」

この言葉を最後にジェイドは森へと姿を消していく。その様子を見守るカーネリアの目に涙が溢れているのを、モリオンは黙ってみているしかなかった……。

ジェイドは身体の傷よりも重い心の傷が治るまで、鳥使いの村には戻らないだろう。今は静かに、ジェイドを見送るだけだ。

「さあ、もう行きましょう」

ジェイドが姿を消すとカーネリアは涙を手でぬぐい、モリオンを促すと騎乗具を手にしてブルージョンに近付いていく。そう、これから知識の塔まで戻らなければならないのだ。モリオンは森に消えたジェイドを気にかけながらも、帰り支度をし始めた。


 鳥使い達が去った後で、男はゆっくりと頭を上げた。

「やれやれ、なんと言うやつだ。何も知らないで……」

呟きながら起き上がった男は立ち上がると周囲を見回し、母語で呟いたのを誰かに聞かれてなかったかを確かめる。彼らの知らない言葉を使うのを、絶対に地元民に知られてはならない。自分達の存在は、この世界では秘密なのだ。

「まったく……因果な仕事だよ。惑星探査員という仕事は……」

その男、惑星探査員ロウリー・ジマーは苦々しげに一人呟く。自分達の存在を知られても良いとされる時まで、ロウリー達惑星探査員は、この世界では正体を隠すことを求められていた。正体を隠してこの世界の調査をするために。それと同時に惑星探査員は、この世界への不法侵入を阻止する任務もおっている。なにしろこの世界は、宇宙船で遭難した人々の子孫であろう人類が独特の社会を営んでいる世界で、特別な保護下にあるのだ。そして直接この世界の保護を行うのが、ロウリー達惑星探査員達だった。

惑星探査員ロウリー・ジマーは、不法侵入者がこの世界に入り込んだという知らせを受けて以来、密かに不法侵入者たちを追っていた。そして超小型飛行艇で不法侵入者小型飛行艇を追っていて、あの男の乗った大きな鳥が、不法侵入者の飛行艇に猛然と襲い掛かかるのを目撃してしまった。

大きな鳥は不法侵入者達の飛行艇に体当たりを食らわせたものの、飛行艇は炎上して男を乗せた鳥もろとも近くの山に激突してしまう。助かってロウリー達の活動拠点に運ばれたのは、大きな鳥に乗った一人男だけだった。

「それなのに、こいつらの仲間と間違えるとはなぁ」

ロウリーは丈の低い草の上を歩いていて、倒れている不法侵入者に近付く。ここ数日間、ロウリーが追っていた不法侵入者だ。今は哀れにも、大きな鳥に乗っていた男に打ちのめされている。この世界の生物や資源を目的に、不法侵入してきたやからだ。  こいつのおかげでロウリーまでも不法侵入者の仲間と間違われ、あの鳥使いの男にぶん殴られてしまった。ロウリー達が男のひどい火傷を治療したというのに。まぁあの男を治療した後、秘密保護の為にロウリー達の記憶を抜いておいたのだから、助けたことなど忘れているのだろうが。それにいくら殴られても身体の殆どを人工物に代えてしまった身では、気絶など出来やしない。怪しまれないように、気絶した振りをしていたのだ。

「こんな服装で地元民の前に現れるなんて、無用心にも程がある。おまけに、生け捕り用の武器を地元民に渡すとは……。一度自分達で巨大な鳥の卵を盗み損なったことから、この世界の人間を自分達の悪さに加担させるのを思いついたようだな。もってのほかだ」

ぶつぶつ言いながらロウリーは、ズボンのホケットから拘束具を取り出して男を拘束した後、さらに超小型注射器で男に鎮静剤を注射する。これでもうこいつは反撃できなくなっただろう。男が完全に動かないのを確かめたロウリーは、袖をまくって腕輪型の通信装置を指触り、仲間と連絡する。

「不法侵入者ヲ拘束シタ。以下ノ場所ニコラレタシ」

メッセージと現在位置を通信装置に打ち込むと、不法侵入者の傍に座り、仲間が来るのを待った。

仲間が来るのを待ちながら、ロウリーはいつの間にか、自分が助けた男といた茶色い髪の少女の事を考えていた。確かにあの少女は、あの男から、法侵入者から奪い返した卵を託された少女だ。ロウリーは記憶を消す前のあの男から、ある村近くの丘の上で茶色い髪の少女に、取り返した卵を託した事を聞いていた。ロウリー不法侵入者を創作する傍ら、その少女を探し出して追跡していた。あの卵がどうなったのかを知りたかったのだが、茶色い髪の少女とは、森の中で出会った切りになっていた。前に茶色い髪の少女と会ったのは、おそらくこの世界に遭難した人々が持ってきたであろう救命用宇宙艇の残骸をロウリーが偶然発見し、小型カメラで画像を撮影している最中の事だった。何故か宇宙艇の残骸から茶色い髪の少女が現れ、鉢合わせしてしまった。その少女が、どういうわけか大きな鳥に乗るようになっていたとは……。あの少女は、この先どうなっていくのだろうか? ロウリーが鳥に乗った少女思いを馳せているうちに森の中から、ロウリーの仲間が姿を現した。

  

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