第14話 第五章 鳥使いの修行2

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 ベヌゥ達が空に上がるとモリオンとカーネリアはまずベヌゥ達に、中洲の周囲を大きく輪を書くように飛ばせる。真下に広がる中洲と樹海の様子をしっかりと見て、異常がないかを確かめる為だ。そして一通り樹海の様子を確かめると、モリオンとカーネリアは、それぞれのパートナーに捜査綱を軽くひっぱって進めの合図を送る。

[よし、そのまま前へ進め!]

操作綱の感覚と鳥使いから伝わる意識を感じ取ったペヌゥ達は、すぐに鳥使いに指示された方向へまっすぐに進んでいく。少しずつ速度を速めながら。ベヌゥの飛ぶ速度が最高潮に達すると、モリオンは姿勢を低くしてしっかりとベヌゥの身体につかまった。まだまだベヌゥの飛ぶ早さと、飛行中に感じる強い風にはなれていない。でも、足の下に流れる景色を見るのは面白い。何しろ地上とは違う景色が見られるのだから。

 鬱蒼とした樹海と樹海を貫いて流れている光の川、その所々に聳え立っているとんでもない高さの巨木、遥かな大昔に倒れた巨木の名残である大きな切り株、そしてその間を行きかうさまざまな樹海の動物達……。長い手足と尻尾を持ち樹海の木々の上層部を巧みに移動する獣や、樹の葉と同じ色の鱗を持ち枝に掴って獲物を待つトカゲ……そして大きさも羽根の色もさまざまな無数の鳥達がモリオンの目を引き付けていた。樹海の空を飛んでいて飽きることなどほとんど無かった。

興味深い景色が、モリオンの足の下を流れてゆく。それはベヌゥと空を飛ぶときの楽しみでもあり、また鳥使いの重要な仕事でもあった。鳥使いは、樹海の木々や生物に異変が無いかを見張る役目も担っている。モリオンも空からの景色を楽しみながらも、しっかりと樹海の様子を見ていた。

ベヌゥの背中で見た樹海の風景には、なにも以上を感じさせるものは無かった。樹海の光の川に近い場所で、山火事の後をニ、三ヶ所見かけただけだ。おそらく、川を使って移動する人々が起こしたものだろう。いずれもごく小さなものだ。今のところ、異常なしか

モリオンはそう思っていたのだが、カーネリアの目は小さな異常も見逃してはいなかった。鳥使いの鋭い目は、巨大な樹の枝にある巣の異変を捕らえていた。カーネリアはすぐさまブルージョンを、巣のある巨木の隣の巨木の枝に止まらせた。モリオンもその後に続いて、ジェダイドを枝に止まらせる。二本の巨木は、互いに枝が触れ合うほど接近していて、ベヌゥを止まらせた枝からは、巣が手に届くとこにあり、二人はそれぞれベヌゥから降りて巣を調べた。

「モリオン、よく見て」

カーネリアは、生い茂る枝の中にある巣をモリオンに指し示した。

「何、これ……」

モリオンが見たのは、悲惨な鳥の巣の有様だった。半分壊され、色とりどりの鳥の羽が散らばった鳥の巣……雛はいない。

「ニジノオ鳥の巣ね。何者かに襲われたみたい。このところ樹海の生き物が何者かに襲われたらしい跡が、よく見つかっているのよ」

カーネリアが溜息混じりに言う。ニジノオ鳥は、人間の子供ほどの大きさの鳥で、虹のような色合いの美しい尾羽を持つ鳥だ。今頃の季節は、子育てをしているはすだった。

「確かに雛は巣にいたようね。大人の羽に混じって、雛の産毛があるわ」

よく見ると色とりどりの羽に混じって、虹色の光沢を持つ、小さな産毛が散乱していた。

いったい雛は、どうなったのだろうか?

「何者かに、連れ去られたのもしれなにわ。卵の時のジェダイドのように」

カーネリアは簡単ぞっとする話をした。と、モリオンは思った。こんな高い樹の上まで登る術を持った何者かが、子育て中の鳥の巣を襲い、雛を連れ去っていく。想像するのもいやな話だ。しかしカーネリアによれば、卵泥棒の事件があって以来、樹海周辺部の生き物が何か恐ろしい武器で襲われる事件がよく起こっているのだそうだ。出所は解らないが、樹海周辺部の町に今まで見た事ない武器が入って来たのは確からしい。

「鳥使いの村に、この巣の事をイドで連絡したわ。さあ、いきましょう。他の鳥使いが調べにくるから」

壊された巣を調べ終わると、カーネリアはさっさとブルージョンに騎乗し、ベヌゥを飛翔させる。続いてモリオンもジェダイドに乗り、後に続いた。その前に巨木の枝から離れるときに、巣にある産毛を拾うのを忘れなかった。

その後の飛行は順調だった。樹海に大きな異変は無い。樹海の様子に異常がないのを確かめると、モリオン自分達の先を行くブルージョンとカーネリアを見た。町が近付くにつれて、ブルージョンはスピードを速めている。このままだとジェダイドとモリオンを置いていってしまいそうだ。

「あっ、待って!」

モリオンは騎乗具の操作綱を引き、ジェダイドの速度を上げさせる。いそがなきゃ! モリオンは懸命に速度を上げたジェダイドにしがみつく。とにかくカーネリアについていかなければ……。しばらくの間、モリオンとジェダイドは突き放されそうになりながらも、カーネリアとブルージョンの後を懸命に付いて行った。カーネリアはいそいでいるようだ。そしてその理由はすぐ明らかになった。モリオン達の前に、もう一羽のベヌゥが姿を現したのだ。それもとても大きなベヌゥが。

そのベヌゥは一般的なベヌゥの倍の大きさをしているうえに、鳥使いを乗せる代わりに大きな円筒形の物入れが付いた器具を背負い、ゆっくりと飛んで来る。

[これはキュプラ、ウルー・ベヌゥよ]

そのベヌゥはなんと、人間が乗らずに荷物を運んでくる、ウルー・ベヌゥと呼ばれるベヌゥだった。ベヌゥの中でもとりわけ大きく育ち、ゆっくりとした速度ながら強い力で飛ぶ力もっているために、人を乗せずベヌゥ、そんなベヌゥがいるのをモリオンはカーネリアから聞かされていた。これでよく飛べるものだと思わせるほど大きくて、普通のベヌゥみたいに早くは飛べないがそのとてつもない力で、荷物を運んでくれるベヌゥ。そんなウルー・ベヌゥを、モリオンはこの時初めて見たのだ。

「ホーィ! キュプラ」

ウルー・ベヌゥの大きさに圧倒されているモリオンを尻目にカーネリアは鳥の名前を呼びながら、ブルージョンをウルー・ベヌゥに近付けていく。カーネリアの操る操作綱に従って、ブルージョンは巨大なベヌゥの隣に近付く。ブルージョンはウルー・ベヌゥのそばにぴったりと寄り添うと、このとてつもないベヌゥと翼を揃えて飛び始めた。大きさの違う二羽は、一定の距離を保ったまま、樹海の上を滑るように飛んでいく。これはベテランの鳥使いの技だ。モリオンはと言うと、ただ先輩達について行くのに精一杯だ。町までの旅路は、騎乗具にしがみついてジェダイドに支持を出すだけで終わったようなものだった。


 モリオン達がその町の上空に着いたのは、もう日も暮れかかったころだった。樹海と大きな湖の間に作られた建物の群れ、それがモリオンのその町を空から印象だった。町の中央を通る大きな道を中心に、網の目のように敷かれた通路に沿って同じような形の大きな建物が並ぶその町を、カーネリアはフォルサという名前で呼ぶ。そして町から少し離れた一角に、商人達が連れてきた家畜達、もり上がった筋肉と短い灰色の毛に覆われたずんぐりとした体躯の荷役獣や、鳥の様な頭に真っ直ぐな長い黄色の毛と長い脚の騎乗獣が集められた場所があった。家畜達は、町の中には入れないのだ。そのフォルサの上空に来ると、ベヌゥ達は一斉に大きな、しかし穏やか声で一声鳴いた。町の何処かに居る、鳥使いと顔馴染みの商人への合図だ。ベヌゥの声を聞いて、鳥使いと親交のある商人は、鳥使いの野営地へとやってくる。こうして自分達の到着を知らせると、鳥使い達とベヌゥは、湖の岸辺から少し離れた所にある叢の中に降り立った。地面に降りると、カーネリアとモリオンは、それぞれのベヌゥとウルー・ベヌゥを地面に座らせ、二羽のベヌゥの騎乗具を外した。そしてキュプラの背中に上り、ウルー.ベヌゥが背負う器具と、その中の荷物を降ろしにかかった。ウルー・ベヌゥが背負っている器具には、皮か何かで作られた円筒形の大きな物入れが取り付けられていて、その中に鳥使いの村から送られてきた品物が納められている。これらは鳥使いの村の村人から託された大切な品物で、この品物を売って得られた利益はすべて、村人全体の利益とされている。カーネリアは物入れの胴体部分にある入り口を開け、袋に入った荷物を一つ一つ取り出していく。物入れの入り口は沢山のベルトで閉じられていて、カーネリアはベルトを全て外して荷物を全て取り出し、器具と物入れをキュプラの身体から離した。

「さぁ、食事をしてきなさい」

身軽になった三羽のベヌゥ達は、鳥使いの言葉を聞くとすぐに湖の向こう側に飛び去って行く。ベヌゥも家畜達と同じく、町にははいれないのだ。そこでモリオン達が町で商談をしている間は、ベヌゥ達の自由時間とされていた。好きな場所で好きな食べ物食べてもよい時間なのだ。それに大きなベヌゥの姿は、鳥使い以外の人間に恐怖心を与えることもある。面倒は避けて通るのが一番だ。ベヌゥ達が湖の向こうの樹海に姿を消すと、モリオンとカーネリアは、早速これからの商売と今夜の寝場所の準備に取り掛かった。最初にモリオンはジェダイドの騎乗具の物入れから樹海周辺部で見付けたアカリバナと呼ばれる薬草を、カーネリアはブルージョンの騎乗具の物入れから深緑にある特殊な老木から採取した樹脂を取り出す。いずれも樹海の中でしか見つけられない品物で、樹海周辺部の傍にあっても樹海の中にはめったに入らないフォルサの人には、貴重な品物だ。特にカーネリアの老木の樹脂は、樹海の奥に入らないと採取出来ない貴重品とされていた。それらの品々をモリオンとカーネリアはきれいな布に包み直し、紐でしっかりと縛って肩に掛けられるようにする。これらの品物はウルー.ベヌゥが運んだ品物と違って、鳥使いが個人で商う物だ。この品物を売って得た利益は、鳥使い個人の利益になるのだ。自分達の商品を整え終わると、ウルー・ベヌゥのキュプラで運んできた荷物の一つを開いた。その荷物の中には寝場所用の天幕が入っていて、二人は天幕を取り出すと、荷物の横に手際よく張っていく。今宵はこの天幕で、一夜を過ごすのだ。普通鳥使いは、樹海で寝泊りする時には天幕を使わない。樹海では、自分のパートナーのベヌゥと寄り添って夜を過ごすのが普通だ。商売に来た町や村の近くで寝泊りする時だけ、ウルー・ベヌゥが運ぶ天幕の中で寝泊りするのだ。

「さぁ、これでよしっ……と」

天幕の準備が出来るとカーネリアは、天幕の周囲をぐるりと回って点検する。そして天幕がしっかりと張られているのを確かめると、光を放つ石が入ったランプが照らす天幕の中に、様々な品物とベヌゥ達の騎乗具、そしてキュプラの器具を天幕の中に運んだ。キュプラが運んで来た品物は、鳥使いの村から託された大事な商品だ。明日になればモリオン達はこの商品を、自分たちの商品と供に売りに出すのだ。自分と鳥使いの村に必要な品物を調達する為に。商品を全て天幕の中にしまい込むとカーネリアは、整然と並べられた商品の横に敷物を敷き、巨大な川魚の皮で作った水筒と木のコップをその上に置いた。この敷物がモリオン達の今夜の寝床だ。寝る支度が出来ると、二人は敷物の上に腰をおろし、騎乗服を脱いで町の女性と同じ服装、ゆったりとした上着とスカートに着替えた。

「明日になれば、きっと私達となじみの商人がここに来るわ。今頃の季節はいつもこの町にいるから、確実にベヌゥの合図を聞いているはずよ。私達は、彼らと一緒に商売をするの。私達鳥使いの商売はね、その商人達が私達を訪ねて来てから始まるの」

敷物に座って寛ぐと、カーネリアはお茶と乾燥した木の実を口にしながら、商売の手順を、モリオンに話し始める。

「商人は私達を、売りたい品物を扱っていそうな店に、私達を案内してくれるわ。それからが商売の本番よ。店の商品でほしいものがあったら、持ってきた品物と交換してもらうように話し合うの。話し合いがまとまったら、それで商売は成立よ。その後は、品物を交換するか、商品の値打ちに合うだけの真珠を受け取るの。他の商人達は金属の貨幣を使うけれど、鳥使いは真珠を使うの。樹海から少し離れた海沿いの村で、大量に取れる真珠よ。」

この後カーネリアの話は、どんな品物が実際に商われているのかと言う話や、商売に望む心構えへと続いた。モリオンはそれらの話を、お茶を飲みながら頭に叩き込み、明日の商売に備えにし、眠りに着いた。

翌日の朝早く、モリオンが目を覚ますと、もうすでに商人達が天幕の前に来ていた。人の声がして天幕の入り口を明けると、頭に黒い布を巻き付け、褐色のマントを着た三人の人間と荷車の姿があった。

「おひさしぶりね、ナーイさん」

カーネリアは三人の中でも年配の男に向かって、親しげに話しかける。どうやらカーネリアと商人は、長年の知り合いらしい。

「ああ、前に会ったのは、冬だったな。それよりも、そのお嬢さんは誰?」

商人はモリオンに目をやる。同時に商人と一緒にいる二人もモリオン達を睨み付ける。たまにイナやって来て来る流れ者みたいに、やたたら険しい目つきをしている。

「こちらはモリオン、鳥使いになったばかりの新人よ。モリオン、こちらはナーイさん。フブィレという町の人よ」

カーネリアに促されて、モリオンは商人にぎこちなく挨拶をした。

「こんにちは」

挨拶はしてみたものの、商人達とどう接すればよいのが、解らなかった。ナーイはまた良さそうな感じがするが後の二人、ナーイと同じようにマントを着て頭に布を巻いた若い男女には良い感じがしない。

「よろしく、新入りの鳥使いさん」

ナーイはモリオンの戸惑いなど気にもかけずに、話しかけてきた。この商人はモリオンが他の鳥使いと違って茶色い髪をしているのを、不思議に思ってはいないようだ。まぁ、あれこれ詮索しないのが、商売の礼儀なのかもしれないが。

「この二人はマインにリエン、今回が初めて商売の旅の二人組だよ」

ナーイは、モリオンに連れの二人を紹介してくれたが、二人は少し頷いただけで、態度はあいかわらずだ。

「すまないね、この二人はあまり鳥使いに慣れていないのだよ。なにしろ、鳥を嫌う町から初めて出てきたものなのでね」

鳥を嫌う町? イナと同じだ。どうやら鳥が嫌いな人達は、イナの村人ばかりではなさそうだ。

「大丈夫。それより中に入って、商品をみて頂戴」

若いカップルの態度など気にせず、カーネリアは商人達を天幕に招き入れた。

 天幕の中に入るとカーネリアは、荷物の梱包を一つ一つ解き、商人達に中の品物を披露した。商人は梱包に使われた分厚い布と、品物と一緒に入れていた詰め物の干し草の中から品物取り出し、慎重に品定めされていく。そして品定めが一通り終わると、商人とモリオン達は敷物に座り、水筒のお茶をコップに入れて飲み始めた。魚皮に樹脂を塗りつけて作られた水筒は、中の飲み物の温度を長時間保つことができる。これからの商売の段取りは、水筒の熱いお茶を飲みながら、ゆったりと話し合われるのだ。

「どう、商売のようすは? 何か変わったことには出くわさなかった?」

カーネリアは一口、コップのお茶を飲むと商人からさりげなく情報を聞き出そうとする。

「まあ、大した事件は起こってはいないよ」

商人ナーイもお茶を飲みながら、さりげなく答える。

「樹海周辺部の町々は、相変わらずだね。トクとミリアンの町は、いつもどおり仲が良くない。ハイラは新しい指導者に変わったばかりだ。今度の指導者は、かなりな切れ者のようだ。就任してからすぐに、不正な取引をしていた商人達を追い出したよ。」

ナーイは、自分が商売で訪れた町の出来事を延々と話した。樹海周辺部の話が済むと、今度はさらに遠い町の話や、モリオンの見たことの無い、海の向こうにある小大陸リーの出来事まで話した。

「リーの二つの国、ハームとラビィは、今にも戦を始めそうな雰囲気だ。両国とも、かなりな軍備を整えたらいし。おまけに、どちらも海に沈んでいた太古の知恵をひっぱりあげたとか。どうなることやら」

モリオンはナーイの話を、興味深く聞いていた。しかし、海の向こうの小大陸リーの話は理解出来無い事だらけだった。まず国家というものが解からなかった。村や町以上のものはモリオンの頭には無いし、戦争や兵器、軍隊は想像すら出来ないものだ。

[ま、いずれ解かってくるわ]

戸惑うモリオンの意識に、カーネリアの心声が入ってきた。そう、いずれは解かって来るのだろう。海の向こうの小大陸の話は、それまでの楽しみにとっておこう。モリオンはそう思った。

「色々と教えてくれてありがとう、ナーイさん。樹海の中も、今のところ平穏よ」

ナーイの話が終ると、今度はカーネリアか、最近樹海で起こった事をナーイに話出した。

「樹海には特に大きな変化は無いわ。でもこのところよく、何か見知らぬ武器で荒らされた鳥や獣の巣や、何かに襲われた生き物をよくみかけるようになったわ」

カーネリアはナーイに、何者かに襲われたニジノオ鳥の巣の話をした。

いわ」

「今までに無いことが、樹海に起こっているのはたしかね。まあ,私達にはあまり影響はないわ」

「そうか……樹海も一応平穏ってとこか」

「ええ、でもこの気になる異変がこれからどうなるかは、予測が付かなけど」

カーネリアが不安を口にすると、其処にいる全員が黙りこくってしまった。

「そうかい、こちらにも樹海の気になる話があるよ」

沈黙を破ったのは、商人ナーイだった。

「樹海の外側で小動物の狩りをしている連中が、見知らぬと商人に生きた樹海の鳥の商売を持ちかけられたという話しだ」

「生きた鳥の商売ですって!」

ナーイの話に、カーネリアの顔色が変わった。その話は、俄かには信じられない話だ。そしてモリオンは、カップルうち女性のマインが、ナーイの言葉を聞いてびくっとしたのに気付いた。何かあるのだろうか?

「ああ、樹海の鳥を生け捕りにしたら、高く買ってやろうといわれたのだと。まぁ、逞しい樹海の鳥を生け捕れるとは、とうてい思えないけどね」

「えぇ」

確かに樹海の鳥を生け捕るなど、とても不可能だろう、とモリオンも思っていた。樹海の鳥は大きくて力が強い。一般人でも入れる樹海周辺部の鳥であっても、生け捕るのは難しいだろう。小動物とは違う。しかしあの荒らされた鳥の巣のことを考えると、鳥の生け捕りを実行しようとした者がいたとも思えた。

「それより、鳥使いの長老達は元気かね」

「えぇ、とっても」

カーネリアと商人は、今度は鳥使いの村の近況を話題にした。二人の会話を聞いていたモリオンは、カーネリアがジェィドの話を避けているのに気が付いた。ジェイドやジェダイドが生まれた卵の事件は、大きな事件なのに……なりより、この事件のおかげで今の自分がいるのだ。しかしカーネリアはその話しには少しも触れず、樹海は平穏だと言っている。

[あの新顔の二人組は、まだ信用出来ない。だからね、ジェイドの話しはしないの]

カーネリアが、モリオンの意識にそう伝えてきた。

[そうかぁ……]

確かに、ナーイが連れて来たカップルにはよい印象が無い。彼ら前ではジェイドの事件のような、重要な話はしないほうがよいのだろう。モリオンは納得して、カーネリアと商人の話を聞き続けた。

 ひとしきり色々な話をし、軽い食事もして腹を満たすと、モリオン達と商人は商売に出かける準備をした。天幕に入れていた荷物を外に出し、商人が持ってきた荷車に積む。上手く商品を積み終わると、みんなで荷車を押し、フォルサの街中へと向かう。モリオンとカーネリアは、この地方の商人達と同じ様にマントを羽織って自分の荷物を肩に掛け、荷車を押していた。モリオンの初めての商売が始まったのだ。 



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