このクソゲーは解釈違いです!

阿古 あおや

第1話 ある日、目覚めるとモヤシになっていた

 ある日、目覚めると異世界転生していた。


 何を言っているかわからないと思うが、俺だってわからん。

 そもそも、死んだ記憶とかない。後ろから刺されてもいないし、トラックに轢かれてもいない。

 

 だが、目覚めて見上げる天井は、見慣れた部屋のものではなく。

 

 大体、二十六歳独身会社員の棲むワンルームの天井からシャンデリアが下がってたら、おかしいやん。

 転がっているベッドも、どうみてもキングサイズ。さらに、黒いつやっつやのシーツと掛け布団…って言うの?これも…は、絶対某お値段以上な店に売ってない。

 

 どうなってるんだ…と混乱しつつ目を瞬かせると、その瞬間、とんでもない勢いで「どうなっているか」を「思い出した」。


 ここは、クリスタリエン帝国。

 の、首都から少し離れた都市、リーフィレット。学園都市とも呼ばれる、皇族貴族が通う学校がある街。

 

 でもって、俺は、大野悠太ではなく、アレスタ・マリド。十六歳。

 つい先日、帝国の第一皇子に無理やり招かれた茶会から帰って、倒れた。

 どうやら茶か茶菓子に毒が盛ってあったらしく、数日にわたり生死の境をさまよい…そして、たぶん死んだ。


 あれ?異世界転生ってそんなんだっけ?なんか普通に赤ん坊で生まれてくるとか、モンスターになるとかじゃない?なんで死んだやつ乗っ取ってるの?


 とにかく、記憶はあるが、それはなんて言うか、マニュアルとか設定資料を読んだだけって感じで、自分のものとは思えない。

 大野悠太の記憶を思い出せば、そちらの方は当たり前に実感がある。とりあえず、アパートの俺の身体とかどうなってんだ?孤独死?やばくね?

 まあ、ひとつ確実に言えることは、今日は会社に行かなくていいだろう。それは、それだけは嬉しい。


 「アレスタ!気が付いたのか!」

 「あ?」


 ぐ、と身体が傾いた。

 どうやら、ベッドの片側に誰かが体重をかけたせいで、つるつるしたシーツの上をややずり落ちたらしい。

 

 転がったまま視線を向けると、そこには外人の兄ちゃんがいた。

 いや、俺より若いだろうけど。あ、今は俺は十六なのか?そんなら、同じくらいかもしれない。外人さんの年はよくわからん。


 こっちを見下ろして半泣きになっているのは、髪と目は黒いものの、なんと言うか顔が濃い。彫りが深く、睫毛が上も下も長く、第一印象は「スペインとかのひと?」だった。いや、スペイン行ったことないけれど。いきなりタップダンスとかしそうだし、胸毛濃そう。

 

 「アレスタ…!僕がわかるか!?」


 知らんがな、と言い掛けて、記憶の中の取扱説明書で一致した項目を思い出した。

 

 レンブレン・ヴァン・クリスタリエン。この国の、第四皇子様だ。

 そんでもって、アレスタはこの皇子様の乳母の息子で、所謂乳兄弟。幼い頃から一緒に育ち、強い絆で結ばれている…らしい。


 「えっと…レンブレン、様」

 「二人きりの時は、ヴァンでいいと言っただろう!」


 そうだっけ?ああ、あるある。そんな記憶あるわ。


 「心配おかけして…すみません。ヴァン」

 「いいんだ…兄上を甘く見過ぎていた。まさかお前に手を出してくるとは…」


 ちょ、近い。

 美形だとは思うけれど濃い顔が、ぐっと接近してくる。けどこれで顔背けたら、さすがに悪いよな。

 

 えっと、ヴァン皇子は四番目だけど、母親は皇帝が最も愛した人。身分が低くて皇妃どころか皇宮にも入れず、小さな屋敷に乳母を僅かな使用人をつけられて暮らしてて、一年前に病死。

 皇子はそれを機に皇族として迎え入れられ、来月から皇立アリアンロッド学院に入学予定。んで、アレスタはその従者兼友人として、一緒に入学する、と。

 つまり、第一皇子は父親である皇帝が気にしている弟が気に食わず、その従者を毒殺するっつう嫌がらせをしようとして失敗したところだ。


 …やばいじゃん。

 次は確実に殺しに来るじゃん。

 ここで死んだら、俺、どうなんの?日本に帰れるの?そんならいいけど…。


 「ああ、アレスタ…!もし、君が死んでしまっていたら…僕は…!」

 

 うん。外人さんらしいオーバーリアクション。泣きながら俺の頬を撫でている姿は、なんと言うか、うざい。

 タップダンス踊りそうな外人さんが至近距離で泣いてたら、わりと誰でもそんな感想を抱くと思う。

 ただ、この人、アレスタが死にかけてたから泣いているわけで、それをうざいっつうのはちょっと…どんだけ人の心がないのかと。

 はやく納得して離れてくんないかなあと思っていると、離れるどころか、顔が近付いてきた。


 これは、もしかして、キス文化ってやつ?

 嬉しかったり「マンマミーア!」ってなっちゃうとぶっちゅぶっちゅする、あれ?


 いや、やめて。


 まじ、やめてよ。俺はそんな異文化交流したくないんだよ。

 たぶん、きれいなお姉さんが「ウワーォ」とか言いながら仕掛けてきても、身を引く自信はあるよ。無理だよ。耐えられるのは大型犬までだよ。


 しかし無情にも皇子の顔はぐんぐんせまる。せめて、せめて口は守らなきゃ!けど、逃げ場…!逃げ場が、ない!


 俺の心の五歳児が泣き出したまさにその瞬間、部屋にノックの音が響いた。

 あからさまに不機嫌そうな顔でヴァン皇子は身を起こし、ドアの方…だと思う。音はそっちからした…へ向き直る。

 けど、俺の頬に掌は置かれたままだ。やべぇ生温かい。気持ち悪い。


 「入れ」

 「失礼いたします、殿下」

 「フェル!アレスタが目を覚ましたぞ!」

 

 あ、手が離れた。

 不機嫌そうな空気を払い落し、皇子は嬉しそうに叫ぶ。ごめんね…そんな喜んでもらってるのに、きもいとか思ってて…。

 俺は一般的な日本人なんで、ボディタッチに抵抗ありまくるんです…。

 

 「ああ、よかった!殿下の看病が実を結びましたね!」

 「ふふ、俺とアレスタの絆は、兄上の毒などでは断ち切れない。そういうことさ」


 いや、一回断ち切れてんだよなあ。たぶんアレスタ死んだから。

 

 カツカツと足音が鳴る。記憶をたどると、この部屋の床は全面板張りだ。冬は寒そう。

 というか、この部屋は本来ヴァン皇子のものだ。瀕死の乳兄弟を自分の部屋とベッドに運び込み、看病していたんだろう。

 ほんと、そんなに心配してくれてんのに、アレスタ死んでるし、中身は大野悠太でごめんね。

 できれば、俺もアレスタ君に生き返ってもらって、俺は俺で大野悠太に戻りたいんだけど。

 夢…ならいい。けれど、なんと言うか、夢じゃないって言う確信がある。

 どうすれば、俺はアレスタを生き返らせて、大野悠太に戻れるんだろう。それは記憶の取説には載っていない。と、なれば、自分で調べるなりなんなりするしかないのか。


 「…何故、君までいる」

 「あら、許嫁の乳兄弟を見舞って、何か悪いかしら?」


 もう一つ、声がした。

 視線を向ければ、困った顔をするちょっと年上っぽい兄ちゃんと、同い年くらいの女の子。 


 兄ちゃんの方は、フェルディナンド・ハーバリー。一年前に皇族になったヴァン皇子につけられた護衛騎士で、今はすっかり信頼しあっている。

 女の子の方は、オルタディア・アルシアナ・グレモリ。ヴァン皇子の許嫁だけど、あまり評判はよろしくない。

 父親である公爵の権威をかさに着て我儘放題だとか。ヴァン皇子の許嫁って立場にも、不満たらたらだ。

 四男だし、姑はもう亡くなっているし、好条件だと思うんだけどな。

 

 そのオルタディア嬢は、すたすたとベッドに向けて歩み寄ってきた。

 咄嗟にヴァン皇子が片手をあげて制止する。警戒心をむき出しにした動きに、オルタディア嬢の眉が跳ねあがった。


 でも同時に、俺も目を見開いていた。


 だって、彼女のドレスを斜めに横切るたすき…としか表現できん。なんか、どっかの女王様が似たようなのつけてる写真を見たことあるような気もするけど…に、それはもう黒々と盛大に。


 『わたしはにほんじんです』


 そう書かれていたから。


 「そ、れ…」


 くそ、声が出しにくい。まあ、いっぺん死んでるからな。

 掠れた俺の声と視線に、最もはやく反応したのはオルタディア嬢だった。目を瞠り、口元を引き締める。

 

 「あら、下賤な平民が、このデザインの良さを理解できまして?」

 

 そう言いながら、たすきをひく。そうすると背中に廻っていて見えなかった部分がするすると出てきた。

 そこに書かれているのは『あなたも?』の文字。


 どうやら皇子たちを誤魔化しつつ意思疎通が図りたいらしい。高速で頷きたいのを我慢して、僅かに顎を首に近付けた。

 それでも彼女に意志は伝わったようで、たすきを放して大きく頷く。

 

 「まあ。意外。面白いわ。ねえ、殿下。しばらく彼と二人きりで話をさせてくれませんこと?」

 「…断る。アレスタはようやく目を覚ましたばかりだ。まだ、あなたのお相手をできるような状態じゃない」

 「あら恐い。わたくし、疑われておりますのね。けれど、そうせざるを得ないと思いましてよ」

 「なに?!」


 ヴァン皇子が気色ばむ。その顔にオルタディア嬢はふふん、と笑って見せた。

 けれど、その下。

 彼女のたすきを握りしめる手は、細かく震えている。そりゃあでかい男に威嚇されたら怖いよな。


 「グレイヴ様がお呼びでしてよ。至急洗顔を済ませ、お着換えをなさって?」

 「…!!」


 グレイヴ様。アレスタに毒を盛った第一皇子だな。

 ヴァン皇子の背中から、怒りのオーラが立ち上っている。まあ、お前んとこの従者に毒持ったけどちょっと来いよっていわれてホイホイ行けるやつはあんまりいないだろう。


 「…殿下。お堪えくださいませ」

 「フェル…」

 「アレスタも目を覚ました。お招きをお断りするのは失礼に過ぎます」

 

 だから、今は堪えろ。そうフェルディナンドさんは視線で告げている。

 うん、理不尽なクレームに怒鳴りそうになる担当者を宥めているときの課長の目だな。


 「わかった。だが、もし戻った時にアレスタに何かあれば…」

 「失礼なお人。この細腕で何ができますと言うの?」

 「僕は、君を絶対に許さない。いいな」


 オルタディア嬢は答えず、ただ肩を竦めた。

 その様子を見てから、ヴァン皇子は俺に向き直る。髪を撫でられ、また顔が接近してきた。近い近い!


 「アレスタ…少し、待っていてくれ」


 わかったから、ちょっと離れてくれ!お別れのチュウとかしなくていいからね!?

 そんな俺の内心空しく顔は近付き。


 額にチュッとされた。


 ぎぃああああ…なんか湿った音したぁ…!ソーシャルディスタンス守れよおお!!

 心の中で絶叫していると、多少顔にも出たんだろう。「そんな不安な顔するな」と言われてまた頭を撫でられる。不安なのはおめーの挙動だよ!!!と言いたいのを堪えていると、ヴァン皇子はベッドから離れていった。

 外人さんはすげえなあ。こんなのを日常的にやってるのか。


 「隣室で着替える。フェル、ルークを呼んでくれ」

 「すでに控えております」

 「よし」


 ルーク…は、ヴァン皇子に仕える執事で、アレスタの兄貴分だな。まあ、さすがに皇子様が横でおろおろしてても役に立たないだろうし、実質的な看病はルークさんがやってたんだと思う。


 「オルタディア嬢。わかっているね」

 「はいはい。それよりも早くした方がよろしいですわよ。あの御方は、あなたをいじめる理由があればあるほど喜びます。待たせた、という事だけで一時間も二時間もいびられたくはないでしょう?」

 「…ご忠告、感謝するよ」


 吐き捨てるように言うと、ヴァン皇子はフェルさんを伴って部屋を出ていった。ドアを閉める前にもう一度、俺に向かって気遣わし気な視線をおくり、オルタディア嬢を睨む。


 そして完全にドアが閉まり。

 オルタディア嬢がベッドに駆け寄ってきた。


 「あなた、ほんっと―に中身は日本人!?どこ住み?あたしW光市!」

 「まじ!?割と近い!俺、K越!!」

 「K越!!菓子屋横丁とか行ったことあるよ!遠足で!」

 「じゃあ、T坂の動物園とか遠足行った!?」

 「行った行った!めっちゃ広くて、入り口に噴水的なのあるとこだよね?あそこで同じ班の男子がふざけてて尻から落ちて超泣いてたわ!実家はS戸だからさあ!」


 間違いない…!彼女は日本人で、しかもS玉県民だ…!

 これは、嬉しい。少なくとも、オーバーリアクションに「うへぁ」ってなるの俺だけじゃない!

 あれ、でもさっきまで、日本語で話してたよね?俺ら。


 「…あのさ、同じことになってるから、あたしがアホなこと言っても信じてもらえると思うんだけど」

 「信じるっつか、飲み込むしかないよね…」

 「うん。とりあえず、声がらっがらだから水飲んどきな。ベッドサイドに水差しとコップあるから、淹れたげるよ」

 「あ、ありがとう」

 

 ベッドサイドは寝返り二回分くらい先で、ちょっと水飲みたいなって思っても手が届かないんじゃないだろうか。病人に優しくない。

 何とか起き上がると、背中に枕も入れてくれた。優しい…。


 「はい」


 差し出されたグラスには、普通に水が入っていた。口をつけるといつも飲んでいる水道水みたいな味がする。異世界の水はS玉県の水道水だった…?


 けれど、水道水だろうとなんだろうと、今は大変にありがたい。口の中もカラカラを通り越してねちゃねちゃするし、咽喉は風邪ひいたときみたいに腫れぼったい。

 そこを水が通り抜けるのは、なんと言うか快感ですらある。


 三杯お替りして落ち着くと、中身S玉県民のオルタディア嬢はベッドサイドにあったらしい椅子に腰かけた。脚を組み、腕を組む姿は、フランス人形みたいな外見に相応しくない。

 まあ、『わたしはにほんじんです』たすきが色々と台無しにしているけど。


 「なんで、ひらがななの?」

 「日本人しか読めないかなって思って。あと、漢字まぜるよりただのデザインっぽいでしょ」

 「この世界の人には、文字じゃなくて絵に見えるってこと?でもさ、俺たち日本語話してるよね」

 「その質問にあたしの推測をぶつける前に、すっごいあなたにとってショックな事言っていい?」

 「ショックな事…?」


 もう二度と、日本には戻れない、とか?


 「あなたさ、異世界転生ものとか読んだことある?」

 「友達で好きな奴いたから、進められて無料の奴なら。…今の俺らの状態って、そういう事…だよなあ?」

 「そのジャンルでさ、悪徳令嬢ものってわかる?」

 「web広告でみたことはあるよ。なんか、処刑されたら子供に戻ってたとかでしょ?」

 「そういう『巻き戻し』ものもあれば、悪徳令嬢に転生して人生を変えていくってのもあんの。で、私がその状態」

 

 同じ世界に転生?しても、ジャンルが微妙に違うのか…。

 そう思ったことで、最初に思った疑問が再び頭をもたげた。


 「そもそもさ、俺、死んだ記憶ないんだけど」

 「あたしもよ。寝て起きたら、オルタディアになってたの。なんか、記憶とかはある状態でね」

 「俺もだ…!」

 「まあ、寝てる間に心臓麻痺とかなんかで死んでる可能性もあるし、大規模災害が起こって気付かないうちに死んでるかもって思ってたけど、あなたもそうなら…なんか意味あるのかもしれないわね。このクソゲー世界から脱出するヒントになるかも」

 

 ん?今、なんつった?

 俺の疑問は顔に出ていたんだろう。オルタディア嬢は深々と溜息を吐きつつ頷いた。


 「悪徳令嬢ものによくあるのがね。ゲームとか小説の世界に転生するってパターンなわけよ」

 「そうなの!?ゲームに転生って…いや、異世界転生自体ありえねーけど!」

 「そ。ありえないけど、今の状況はそうとしか言えない。あたしのこのガワ、オルタディアってどんな女か、知識あるでしょ?」

 「えっと、貴族のお嬢様らしい我儘娘としか…」

 「なるほど。現時点でのアレスタの知識じゃそうなのね。まあ、その通り。現在十五歳のオルタディアは我儘なだけのクッソムカつくメスガキよ」


 いや、メスガキって…そんなこと、女の子が言っちゃ駄目っすよ!

 そういや、この中の人はどんなひとなんだろ。女の人だってことはわかるけど。


 「ちょっとまって、自己紹介しよう。俺は大野悠太。二十六歳。コールセンターに勤めてる会社員だ。ゲームは…高校の時にオンゲにはまって大学受験失敗。その後フリーターしてたけど、親に本気で農村に送られそうになって現在の職場に契約社員として入社。二年前に正社員になれて以降、なんとか一人暮らししてるよ」

 「…高校生にオンゲはねぇ…。あたしの知り合いでも、そのままニートになったのいるわ。しかも複数」

 

 昼夜逆転を十代で経験するのは、ほんとに人間失格への第一歩だわ。あきらかにあの頃の俺はヤバかったもん。

 まあ、今この状態の方がヤバいけどな。


 「あたしは、鈴村ミヤコ。二十八歳の地銀窓口勤務。趣味は同人活動。オフは足洗って、今はオン専」

 「…ええっと、同人であれだよね?なんかアニメとか漫画とかの」

 「そ、二次創作ってやつ。あなたが今思い描いて口に出すのを止めた、スケベブックで間違いないよ。しかもBL。いわゆる腐女子ってやつよ」

 「は、はあ…」

 「言っとくけど、あたしだって初対面のしかも男性に、腐女子カミングアウトなんて普通しないからね?でも、この世界を説明するのに、するしかないの」

 

 え…と、それは、どういう…。


 「言ったでしょ?あなたにとってショックな事言うよって」

 「ショックな事…」

 「あのね、この世界はさ。

 BLゲーム、それもバリバリ18禁のPCゲーの世界のなの」


 びいえる。じゅうはっきん。

 びいえるとは、確か、あれだ。イケメンとイケメンがイチャイチャして挿しつ挿されつする奴だ。

 その、世界?


 「『白翼戦記~イケメン騎士団に愛されてこの翼さらに白く染まっちゃいます♡』って言うゲーム」

 「タイトルの知能指数が低い!!」

 

 最初のはともかく、あとのサブタイトルは何なんだ!あと、白く染めるってそういう意味!?


 「AVのタイトルだって知能指数低いじゃん。そういうジャンルなんだから」

 「ま、まあ確かに…」

 「まあ、タイトルの知能指数だけじゃなくて、ゲーム自体がクソゲーだったんだけどね」

 

 ち、と鈴村さんは吐き捨てた。今までで一番苛立っている。よほどのクソゲーなんだろう。

 けど、いわゆるエロゲーにクソゲーも名作もあるんだろうか?後に覇権を取ったシリーズも、最初はエロゲーだったと知ってるけど。

 俺のイメージするエロゲーは、とにかくなんやかんやと女の子を脱がし、えっちなことをするゲームだ。それが男と男になったのがBLゲーというやつではないのだろうか。

 

 「なんで、そんなゲームを…?」

 「キャラデザ担当絵師様が、すっごく好きな人だったから」

 「ああ、パケ買いってやつ?」

 「情報回ってきたときは狂喜乱舞して、絶対買うわ!って思ってさ。実際、パッケージは素晴らしかったのよ。黒タイ先生の性癖が前面に出てて」


 黒タイ先生って言うんだ。そのキャラデザの人。

 俺がはまってたオンゲーなんて、画面に落とし込むのはモンスター以外無理って人だったなあ。でも、追加パックのパッケージを見るたびにわくわくしたもんだ。


 「照りかえる筋肉!美味しそうな雄っぱい!!噎せ返るようなオスメル!!」

 「は…?」

 「まさに黒タイ先生の芸術品!それなのにさあああ!」

 「まって、おっぱいは女の人にしかありませんよ…?」

 「雄のぱいで雄っぱいよ。雄にしかないのよ」


 やべえ。もうついていけない。それは胸筋というのではないだろうか。

  

 「なのに、なのに、肝心のイベントスチルやなんかは顔だけは寄せてるけど、全然別の人になってて!!ど貧弱モヤシの群れになってんのよ!」

 「ええっと…」

 「黒タイ先生は、ムチムチの雄を書かせたら最の高の神なのよ。なのに、実際ゲームはじめたら、登場人物全員モヤシになってんの」


 そう言えば、とさっきのヴァン皇子を思い出した。

 服着こんでいるから中身は見えなかったけど、筋骨隆々とは言えない感じだったよなあ。

 フェルさんもそうだ。あれで脱いだらアメコミヒーローになることはないだろう。

 は、と気付いて、コップを持つ自分の手に注目する。


 俺は別に、身体を鍛えていたりはしない。一応高校時代はバトミントン部だったけれど、オンゲにはまってからは部活に顔を出したりもしなかった。

 けれど、その後いくつもの肉体労働系バイトを経て、今でも人並みくらいの体格は維持している。少なくとも、貧弱とかではない。


 だが、コップを持つ手と、その手を支える腕は、どうみてもガリガリだった。


 「ひえええ、俺もモヤシになってる!?」

 「パッケージだと、アレスタもむちむちだったんだけどね…。ゲームでは、貧弱モヤシよ…」

 

 悲痛な声で鈴村さんが告げる。

 いや、パッケージ通りなのも困るけど。さっきの至近距離がムキムキマッチョだったら、さすがに叫んでたわ。


 「それでも、エンディングまで辿り着けば、黒タイ先生作画のスチルが拝める…そう思っていた時代があたしにもありました」

 「違ったんだ」

 「モヤシはモヤシのままだったわ…」


 しかし、だ。

 それは彼女の趣味嗜好の問題で、クソゲーとは言えないのでは?」

 つまり、国民的配管工冒険活劇を、「主人公がおっさんだからクソゲー」というようなものなんじゃ?


 俺の内心の声が彼女に聞こえたはずはないけれど、鈴村さんは悲痛な顔のまま口角を上げ、首を振る。


 「そこまで辿り着くのに、何度モニターを叩き割りそうになった事か…エンディングで叩き割る寸前までいったけど」

 「キャラが貧弱モヤシだからってそこまで苛つかないでも…」

 「違うの。ゲーム性自体が…クソなのよ…」

 「ゲーム性自体が!?」


 俺もオンゲ―にはまるくらいだから、ゲームは好きだ。

 やった中には、どうしても首を傾げるようなものもあったし、クソゲー攻略の動画を見て腹を抱えて笑ったこともある。

 しかし、やっぱりエロゲーのゲーム性がクソゲーって言うのは…どういう事だ?


 「まず、このゲームは、基本的には戦略シミュレーションゲームと恋愛シミュレーションゲームをくっつけたようなものなの」

 「ああ、戦闘パートと準備パートが交互に来るやつ」

 

 長命シミュレーションゲームの最新作がそんな感じだったな。あれは中々面白かった。最後の方や二周目以降は探索パート怠かったけど。


 「だが、戦闘パートはスキップできる」

 「はあ?」

 

 いきなり戦略シミュレーション要素投げ捨ててない?そこを飛ばせたら、ただの恋愛シミュレーションゲームじゃん…。


 「まあ、好感度を上げるには、戦略パートでこまめに回復するとか活躍すると上がりやすいんだけど、その前に戦闘があまりにもクソ」

 「あまりにもクソ…?」

 「兵種が三種類あって、歩兵は騎兵に弱く、魔導兵に強い。つまり、ジャンケンになってるのね」

 「まあ、よくあるな」

 「だが、どんだけレベルを上げようとも、歩兵は一切騎兵に勝てず、魔導兵はたとえ相手が帝国最強の大魔導士でもレベル1で勝てる」


 レベル意味ねええええ!!!!


 「しかも、マップごとに完全ランダムで敵が配置される。味方が歩兵しかいないマップなのに、敵は騎兵のみとかな」

 「始まった瞬間終わってるじゃん!!」

 「さらに仲間になるキャラの八割は歩兵で、一割五分は騎兵で、残りが魔導兵」

 「それで…完全ランダム?」

 「マップに入って敵の兵種見た瞬間、騎兵多ければリセットが基本戦略」

 「そ、それでも…騎兵と魔導兵いれば絶対勝てるんだよね?相手を先に動かして待ち伏せしたら…」


 鈴村さんの笑みが、更に歪む。

 その顔に、俺の言った手は無駄だと知った。

 

 「キャラには疲労度があってね…出陣拒否される。騎兵と魔導兵は、過労死するまでこき使わなきゃいけないってのに、ね」

 「だ、だいたい何回だしたら拒否されるの?」

 「体力のある騎兵で三回。魔導兵なんて…連続登板断固拒否、よ」

 「それ…どうやって勝つの…?」

 「相手が魔導兵と歩兵の部隊になるまでリセットしまくるか、スキップする」

 「スキップすると…勝っちゃうの?」

 「勝っちゃうの。勝てちゃうのよ。まずここが、クソゲーポイント1ね」


 いやもう、ゲームとして破綻してると思うけども。

 それでまだ…1?


 「まあさ、戦略シミュレーション部分は要するにおまけだから。ユーザーが見たいのはキャラ同士の絡みやエロであって、手強いシミュレーションしたいわけじゃないから」

 「ま、まあそうか…」

 「で、その恋愛シミュレーション部分なんだけど」

 「うん」


 なんだろ。やたら親密になるのが早いとか?

 ああ言うのは、色々試行して攻略方法見つけるのが楽しいんだろうし。俺はやったことないけれど、そう友人が言っていたのを覚えている。どっちかって言うと、科学の実験に近いんだとか何とか。


 「何をどうしてもとりあえず主人公がやられる」

 「…は?」

 「お茶会すれば媚薬混じっててやられ、武術大会に出場すれば待合室でやられ、風呂に入れば乱入してやられる」

 「この国は、性犯罪者しかいないの?」

 「残念ながら、全て同意の上よ」

 「媚薬混ぜるのは犯罪じゃないっ!?」


 この国のモラルはどうなってんだ!!

 しかし、考えてみればエロゲーなんだからそれが目的なわけだし、そっちゅうやられることはクソゲー要素ではないのでは?

 そう言ってみると、再び首を振られた。


 「最終的にエロにたどり着くのが目的としてもね、過程も楽しめなきゃゲームじゃないわけよ。あと、あまりにも唐突過ぎて草も生えない」

 「唐突?」

 「今月のイベントは武術大会!頑張るぞ!みたいなこと言ってた次のシーンで、いきなり出場者全員に突っ込まれてる場面なわけよ」

 「それは…スキップバグかと思うな…」

 「なんでそうなったかも一切説明ないの。シーン切り替わったと思ったら、ダブルピースして『優勝ひまひたあ♡』とか言ってるの。もう、完全にこっちはおいてけぼりよ。何がどうなってんだよってなるじゃない。これがクソゲーポイント2」

 

 もはやそれはギャグなのでは。

 

 「すべてのイベントがそんな感じね。もちろんさ、恋愛シミュレーションなんだから好感度上げてて、いわゆる彼氏になっているキャラもいるんだけど、そいつが庇うとか助けに来るとかまったくなし。他のキャラに交じって突っ込んでくるだけ」

 「お裾分けしすぎだろ…」

 「一応、個別スチルもあるんだけど、お前『一生君を守る』とか言ってたけど、全然守ってねーじゃんって顔殴りたくなるレベル」

 「い、一応聞くけど、この国ってそういう文化風習があるってわけじゃ…ないよね?」

 「そういうとこまで踏み込んで作られてないから、このゲーム。ただね」


 ぐ、と鈴村さんは眉間に皺をよせ、俺を見た。なんだか少し、憐れんでいると言うか、同情していると言うか。


 「男は全員、主人公に劣情を催す」

 「は?」

 「例え村人Aだろうと、屋敷の使用人のお祖父ちゃんだろうと、その孫のショタボーイであろうと、主人公をやろうとする」

 「マジでどうなってんの?この国…」

 「ショタボーイがいるからには、ちゃんと男女で生殖してるんだし、女キャラもいるにはいるんだけどね。オルタディアもそうだし。けれど、男は基本主人公を押し倒し、突っ込む存在と思っていたほうが良いね」

 「嫌な存在だなあ…」


 鈴村さんの眉間の皴が深くなった。数呼吸分躊躇った後、彼女は再び口を開く。


 「それでね、このゲームの主人公は、アレスタ。つまり、あなたよ」

 「…は…?」

 「つまり、この世界の全ての男は、あなたを狙ってるって事」

 「い、いやあああああああ!!!」


 じゃあなに!?さっき近かったのって、そういう事!?

 うおおおおおお、俺にその気はねええええ!!!


 「ただ、気休めにしかならないけどさ、このゲームのスタートは、半年後なの」 

 「半年…」

 「『聖なるもの』の証である翼がアレスタに現れて、それでアレスタを自分のものにしようとする第一皇子から逃れるために学園都市を脱出するところから、このゲームの本編は始まるんだ」

 「その間は何してんの?」

 「わりとまともな恋愛シミュレーション。学園の生徒と好感度を上げておくと、逃げる時に一緒に来てくれる。ちなみに魔導兵はここで仲間にできないとこの先加わることはなし!」

 「初見殺し度きつくない?けど、学生だって襲ってくるんでしょ?」


 まあ、学園と言うからには女子もいるわけで、その中に紛れていればもしかしたら無事に過ごせるのかもしれないが。


 「ううん。アレスタに白い翼が生える迄は、積極的に寄ってくるのはヴァン皇子だけだから。ヴァン皇子と初せっせするイベントで翼が生えて、それ以降男が全員襲ってくるようになるし、アレスタはどんだけ突っ込まれても♡喘ぎするようになる」

 「どういう理屈!?呪われてんの!?」

 「最後までその説明はなかったわ。この辺の設定の雑さがクソゲーポイント3ね」

 

 つまり、俺はゲームの通りで行くなら、ヴァン皇子に突っ込まれ、それ以降男と言う男に狙われる存在に…なる?


 「とにかく、猶予は半年あるわけよ」


 絶望に崩れ落ちそうになった俺を、鈴村さんの言葉が押しとどめた。


 「その間に、なんであたしたちがこうなってるのか、日本に帰るにはどうすればいいのかを探し出しせれば…」

 「俺の貞操は守られる…」

 「そう。もし間に合わなかったとしても、最初のイベントさえ起こらなければ…」

 「期間は延長できる!」

 「たぶんね。ただ、いきなり始まるイベントだから、回避は至難の業かも」


 何しろシーンが切り替わったらやられてるゲームだからな…。

 けれど、猶予があるなら…それに賭けるしかない!

 いくら最後がハッピーエンドでも、許容できん!!


 ん?でも確か、エンディングもモニター割りそうになったって言ってたよな…もしや…。


 「エンディング、聞きたい?」

 「マルチエンディングだよね?攻略対象複数いるなら…」

 「いいえ」


 ふるり、と彼女は首を振る。

 それは、絶望の未来の示唆だった。


 「どのキャラのルートに行っても、エンディングはただひとつ…逆ハー。つまり、キャラ全部に愛されてこれからもずーっと一緒だよ♡身体的にもな!エンドのみ」

 「攻略対象複数の意味ねええええええ!!!」

 「3ルートくらいやったんだけどね。全部同じだったわ。モヤシの山盛りで終わり」

 「絶対、俺は日本へ帰る!!」

 「あたしも、こんなモヤシしかいない世界に用はない!!それに、なんとか回避しなきゃオルタディアは半年後に死ぬし」

 「マジで!?」

 「マジで。ヴァン皇子を騙してアレスタを第一皇子に献上して、だから自分を嫁にしてってやるんだけど、第一皇子に『お前は今まで気に食わなかったんだよ』されて斬られて死ぬ」

 

 まあ、悪徳令嬢って響きからして相応しい末路なんだろうか。しかし、あれだけ警戒しまくってたヴァン皇子も、あっさり騙されるなよ…。


 「なんていうか、オルタディアが第一皇子に媚び売ってる描写とか、皇妃の座を狙っている描写があればまだ納得するんだけど、そもそもオルタディアの出番ってここしかないんだよね」

 「へ?」

 「唐突に出てきた女に騙されてあっさりとアレスタを渡すヴァン皇子も究極にアホっぽく見えるし、第一皇子もなんか知り合いだったの?この女?って印象しかうけない。アレスタをいびるとか、そう言う出番もないから。この女」

 「まさにぽっと出…」

 「そうそう。いっそオルタディアに転生して安心したもん。あ、コイツちゃんと皇子とからむし、アレスタいびってんなって」


 いわゆる行間を読むって奴だろうか。いや、それはプレイヤーに期待しすぎだろ。

 こういう「ざまぁ」展開って、こいつムカつく!ってのがあって初めて「ざまぁ」なわけで、いきなり出てきた奴がぶっ殺されても、「はぁ…(困惑)」ってなるだけだよな。

 実際、「はぁ…(困惑)」って鈴村さんもなったみたいだし。


 「殺されたら鈴村ミヤコに戻れるかもしれないけどさ。できればその前に足掻きたい。あたしは骨の髄まで腐ってるけど、ようやく会えた日本人が♡喘ぎしまくって精神崩壊するの見たくないし」

 

 にやっと鈴村さんは笑った。見た目はフランス人形なもんだから、すごい迫力がある。

 けど、彼女はさっきヴァン皇子に威嚇されて震えていた。いくら腐女子でも、中身は女の人だ。男に敵意を向けられて怖くないわけがない。

 それでも、彼女は俺を援けると言ってくれた。なら、俺だって…!


 「俺も足掻くよ。一緒に」

 「うん」

 「絶対、半年のうちに戻る方法見つけようよ」


 別に大野悠太としてすごくやりたかったことがあるわけじゃない。

 けれど、クソゲーのキャラよりはずっとマシだ!


 「あたしがさ、このゲームをクソゲーだって思ったの、もう一個あってそれが最大なんだけど」

 「え、まだあんの?」

 「これは、あたしの趣味嗜好の範囲だけどね」


 登場人物全員モヤシフォームにチェンジは、もう言ってたしなあ。

 なんだろう。最大のポイント…声があってないとか?


 「アレスタに意志がないのさ。最初はヴァン皇子のこと好きなのかなって思えるんだけど、本編開始後はただの棒の一本になってるし」

 「棒…」

 「結局、エンディングまで辿り着いても、アレスタの意志が全然ない。ただ突っ込まれてしゅきしゅき♡言ってたいにしても、自分から誘ったりはしないの。ただキャラがアレスタ可愛い可愛い言ってつっこむだけの存在なわけ」

 「無口系で、プライヤーが自己投影してやる系みたいな感じ?」

 「それとも違うかな。台詞はいっぱいあるから。イチャイチャイベントもたくさんあるけど、可愛い可愛い言われて、ボクもあなたが好きですとか言うだけ。ちなみにアレスタの台詞は全キャラ変わらん」

 「クソだ…」

 「とにかくさ、最初から最後まで、アレスタは何したいのか、どうしたいのか、何を目指しているのかさっぱりわかんないの」


 だからね、と鈴村さんは俺を見つめる。俺はこのゲームは存在すら知らなかったけれど、きっとオルタディア嬢も、こんな強い意志を目に込めたことはなかっただろう。

 いきなり現れていきなり死ぬ、アイテムみたいな存在の少女に、鈴村さんが入ったことで「人」として動こうとしている。

 それはもう、ゲームの流れを多少変えたんじゃないだろうか。


 「あたしは、意志を持つアレスタがこの世界にどう関わるのか見たい。というか、アレスタがこの世界に復讐するのを見たい」

 「復讐?」

 「だってさ、どう解釈しても複数の男にやられて精神崩壊した少年だもん。白い翼だって、生やしたくて生やしたわけじゃないし。信頼していた乳兄弟に強引にやられて、そしたらなんか変なの生えて、それ以来すれ違ったモブにすら突っ込まれる日々だよ?壊れるよ」

 

 十六歳のアレスタ少年が、いったいどんな夢を見て、どんな大人になりたかったのか、その記憶と知識を持つ俺も知らない。

 きっと、それは「設定されていない」からだ。


 この子は、とにかく一方的に愛情と劣情をぶつけられていくだけの存在だ。そんな存在に、意志なんて不要だ。


 それを、鈴村さんは「クソゲー」だと言い切る。

 同感だ。

 主人公をただの玩具にしたいなら、ゲームにする必要はない。

 

 「まあ、こういうのがいいって人もいるから、解釈違いとしか言えないけどね」

 「大丈夫。俺も解釈一致してるよ」


 頷きあって、少し笑う。

 あと、半年。

 半年以内に、「意志を持つアレスタ」として世界を歩き回り、大野悠太に戻る手段を見つける。

 それが本当にあるのかは知らないけれど。

 いや、絶対にある。あると信じる。

 

 「じゃあ、半年。頑張ろうね、大野君」

 「うん」

 

 こうして、俺は半年後に精神崩壊するゲームの主人公、アレスタ・マリドとして目覚めた。

 猶予期間は半年。

 半年もある、と言えるのか、半年しかないと言うべきか。

 どちらにせよ…「GameStart」のボタンは押されちまったんだし。

 足掻き始めるしかない。自分を喪いたくないなら。


 そう、だけど俺は…クソゲーを、甘く見ていた。

 それを痛感するのは、僅か三日後。アリアンロッド学園への入学式の日だった。

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このクソゲーは解釈違いです! 阿古 あおや @acoaya

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