Conclusion ,College

大学に入学し、勉強も勿論部活も順調の今村において、変わっていないことが一つだけある。

それは、桜とバスケをすること。

理由としては簡単だ。大学のバスケ部のコーチが元選手であった桜の父だからである。もちろん、その話は聞いたことがあったが自分の大学ではないだろうと思っていたのである。

そんなこんなで桜とはこっそり大学で一緒にバスケをやっていた。






   *   *   *


大学3年生、春。またも主将を任された今村はデジャヴを感じていた。


「本日から、マネージャーとして入部させていただきます。結城 桜です。」


まさか、とは思っていたが本当に大学まで一緒とは。嬉しいがなんとなく片想い中の今村には複雑である。桜が入学した当初はまたよろしく~とニコニコされたものだ。

それに、何人か高校の頃の後輩もいて今村にとっては広い目で見て嬉しいことばかり、今年も頑張れそうだと思った。


   *   *   *


「ということでだ。毎年恒例の練習試合を行う。負けっぱなしだから、今回ぐらいは勝つぞ!」


例年、勧誘期間を終えると近くの大学と練習試合を行っている。しかし、ここ数年は負け続けているらしい。

この大学のバスケ部も実力はあるはずだが、そこの大学だけにはどうしても負けてしまうのだ。

今村も入学当初から涙を呑んでいる。今年こそは勝ちたい、そう思っている。


「今年は、有力選手もいるし、何より結城がいるからな!!」


「先輩、私はただのマネージャーですよ」


「お前、あんなに強いのにそんなこと言ってんのか~」


桜はOBに絡まれている。父親に連れられて結構来ていたらしく、桜の方がOBは知り合いが多い。

しかしだ、片想い中の今村。距離感に少し苛々とする。俺の方が知ってるのにとも言えないし、言えるわけが無い。


「まあ、負ける気はないですけどね。ねえ、今村先輩!」


急なフリ。いつものことだが。そんなことでも嬉しい。


「せや、負ける気は毛頭ありません」


今村は闘志を燃やした。






   *   *   *


そこから、またも鬼のような桜の練習メニューをこなし試合を迎えた。


人生で一番走り、人生で一番緊張し、人生で一番勝に拘った、そんな試合だった。

人生で一番、勝ちたくて、負けたくなくて、あの冬の試合の時のような悔しい顔をでなく、笑った顔が見たかった試合だった。

だから一生懸命、頑張ったのだ。








そして、冒頭に戻る。


「俺はお前が好きなんじゃけえの」


……は?俺今なんつった。す……

いや、こんなこと言うはずではと焦る。本当は、ありがとうと言いたかったはずなのに、勝ったことの解放感や爽快感やら色んな気持ちで言ってしまった。


いや、本当はずっと言いたかった。でもそんな勇気なくて、言えなかっただけだ。




言われた方の桜は吃驚している。


「あ、いや…その……」


どうしよう、なんて言ったらいいか。


「それ、ほんとう?」


「え?」


「先輩、それホント?」


「え、あ、うん……。本当」


すうと息を吸う。試合の時以上に緊張する。


「桜が好きなんじゃけど」


こんな時でも方言が抜けない自分がなんか恨めしい。好きなんだけど、の方が絶対に響きがいい。でも、出てきたのは、桜と今村が慣れ親しんだその言葉だった。


そして、桜は。

ぽろぽろと涙がこぼれた。


「えっ!?俺なんか悪いこと」


何か悪いことをしたのかと心配になる今村を桜は遮った。


「違うの、びっくりしたの。それと嬉しくて……ずっとずっと。すきだったから」


涙を拭うと桜はニコッと笑って言った。


「私も好き、彰ちゃんのことが好きです」



あの時、負けた時とは違う。幸福な気持ちで彰悟は桜を抱きしめた。






   *   *   *


「バスケと俺どっちが好き?」


「えー、バスケかなぁ?」


「なっ?!」


「嘘だよ~」


「なんだ……」


「あたふたしてる彰ちゃん、おもしろいね~」


「お前なあ……」



今日も変わらず、彰悟と桜は過ごす。

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