第2話

藤島はニヤニヤしながら、ズボンの片方のポケットに右手を突っ込んでその場からいなくなった。



ユーコは、ふうと大きなため息をついてから、

くるりと向きを変えて、彼女の下駄箱の戸を開き、スニーカーを取り出していた。


俺は、すぐに出て行けずに、

その場に立ち尽くしていて。


ユーコが校舎の外に出たのを見計らって

徐に俺も帰ることにした。


俺は幼馴染のことが物心ついたころから好きだが。


「ユーコ、一緒にかえろーぜ!」なんて

言う勇気、なかったんだ。


そんなだから。ユーコに告白なんてもってのほかだった。


俺は帰り道。

歩きながら考えていた。


幼馴染ユーコは頭がいい。

イケメン藤島は金の力でテストの成績が良いが、頭はそんなに良くない。


まぁ、大丈夫だろうと、

俺は思ったが。藤島のあの不敵な笑みが気になるな。


この翌日。


ユーコが疲れたような顔して登校したんだ。


「おはよ、ユーコ...っておまえ!」


「おはよ。なに?シンジ?」


「ちょっと顔色悪くないか?」


「そーかな?」


「うん、ちょっと青白いってゆーか??」


「あー、少し寝不足かも」


「おい、ちゃんと寝ろよな!」


「シンジに言われたくない。

ゲームやるために徹夜するよーな

奴に言われたくないっ!」


「いや、俺は、昨日は早く寝たぞ。

ゲーム、ろくにやってない」


「ふーん」


この日はユーコとこんな会話をしてそれだけだった。


翌日。目にくまっぽいものを作ってきたので、

俺はたまらなくなってユーコに尋ねた。


「おまえ、ろくに寝てないんじゃねーのか?」


「うーん。ちょっと勉強やり過ぎたかも」


「程々にしとけよな!!」


「わかってる。でもね、今回は数学の一位を誰かほかのひとに取らせるわけにはいかないのよ!」


と豪語していた。


俺はそのセリフから、イケメン藤島とはなんとしてでも付き合いたくない、というユーコの気持ちの現れみたいなものを感じた。



半分、嬉しく、半分心配だった。


日に日に、俺の隣席に座るユーコが寝不足っぽいので流石に心配になった。




時流れて。


遂に、定期考査日がきた。



三時限目の数学のテスト時間。

開始、30分後のこと。


心配してたことが起きた。


ユーコが椅子からガターンと落ちたのだ。


顔は真っ青。寝不足で貧血かなんか起こしたのかもと思った。


「お、おい、ユーコ!!」


「せ、先生!俺、保健室まで抱えて連れていきます!」


テスト見張りの先生は、若い華奢な女の先生で。


俺が彼女を運んだ。


保健室の先生に、ユーコを預けて、

俺は教室に戻ったんだ。


美人な保健室の先生に

「大丈夫。意識はあるみたいだから。

しばらく休ませておくから、山吹くんは

テストに戻って」と背中にやさしく手を置かれた。


「はい!」


駆け足で教室に戻った。


席につき、


俺は全集中の呼吸で試験問題を解いた。



やがて。


試験が終わり。


試験結果がみんなのまえで、発表された。


「凄いのよー!今回は学年のトップスリーが

全員一組なの!」


先生は嬉々として上位が、誰なのかを告げだした。


いつもは一番の幼馴染が

三位だった。


「今回、三位はね、林ユーコさん!

途中で倒れたのに、少ない時間で、

途中まで解いて、全問正解!

さすがだわ」


この時点で。


チラリとイケメンの藤島を見ると。


教卓すぐまえの一番前の席で、ニヤニヤしていた。


そして言うことには。


「せんせー!俺っしょ?はえある

学年一位はさぁ!!」


「残念ながら違うのよ。藤島くん」


「はぁ!?」


「藤島くんは学年二位!よくがんばりました!」


「えええ!?なんで!?トップは俺以外考えられねーっつーの!!」


「学年トップはねー、なんと!!

いつも赤点ギリギリでやる気のなかった、

山吹シンジくん!!」


「凄いわ!堂々の百点満点!遂に、

本気出したのね!」


「はぁ!?嘘だろ先生!俺の解答は完璧だったはず!山吹はなぁ、いつも追試を受けて補習してる赤点組の常連なのに!」



「納得がいかねぇ!!俺が一位だろ!

先生、俺の答案用紙、見せてくれよ!」


藤島は先生に向かってキレていた。


先生の胸ぐらを掴もうとしていた。


その時だった。


ガラガラと教室の開き戸が開いたんだ。


「やめないか!」


「え」


直後、

藤島の身体が硬直した。

それから藤島は。


先生のスーツの襟ぐりを掴みかけていた手を慌ててひっこめてみせた。


理事長がやってきたんだ。

それも、藤島の父親が理事長だった。


「おまえの不正の証拠をつかんでいる。

おまえはテスト問題を金の力を駆使してPCのログ解析とハッキング技術を用いて、事前に知った。そして、

正解を家庭教師につくってもらい、それを暗記

していた!」


「そ、そんな。親父、誤解だよ」



「うるさい!家庭教師が良心の呵責にさいなまれてすべて吐いたんだ!」



「俺はお前を甘やかしすぎた。お前は退学だ。

アメリカ行って自活して修行しろ!」

「金銭的な援助は一切しないから、そのつもりで!」


「そ、そんな...」


藤島はその場に膝から崩れ落ちた。


やがて、親父さんに連行されてしまった。



このあと。

ユーコが、

「なによ、シンジ。あんた本気出したのね?

なんでまた?」


俺は思い切って告げた。


いやもう、ちょっとした小声による公開告白だな。



「お前を誰にも渡したくねーから本気出してしまったんだ」



ユーコは顔が真っ赤になり。小さな声で

叫んでみせた。


「藤島くんとの話、聞いてたのね!?」


俺は、


「おーよ」


と素っ気なく言って。


この後、


「俺と付き合って」と付け加えた。


ユーコは暫し黙り。


少ししてから、


「い、いいよ」とこくり頷いてくれたのでした。


「それにしてもさ」


「なに?」


「私のこと、好きだったのね?」


「うん。幼稚園時代からかな」


「実は私も。その時から気になってた。

嫌いなピーマン食べてくれたり、とか。

牛乳のアレルギーがあって、バカにされてたの、庇ってくれたよね...」


「俺、忘れてるけど」


「バカ!私はちゃんと覚えてる!!」


最後に。


俺が今まで、テストを本気で受けなかったのは理由がある。まぁ、とにかく俺はガキのころからゲーム大好きで。

勉強する暇があったら、ゲームしちゃうからな。今回は、好きな女が懸かっていたから

ガチでやったまで。

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無能だと思われた陰キャが本気を出せば東大余裕→幼馴染が彼氏にする条件を金持ちイケメンに提示したから俺は本気を出さざるを得なくなった結果... 雲川はるさめ @yukibounokeitai

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