第6話 決行
深夜。ついに作戦決行の夜が訪れた。俺は、着慣れない鎧に身を包み、破裂しそうなほど脈打つ心臓の音が、マイアとカミラに聞こえているんじゃないかと内心焦りながら、平静を装っている。
「いい?あなたは兵士に紛して地下牢に潜入し、鍵を入手してスヴァンを開放してくれればいい。」
まるで、コンビニでジュース買ってきてよぐらいのノリでとんでもないことを言い出すマイアに軽く殺意を覚える。確かに装備は用意してくれたようで、今身に着けてはいるが、そこから先はそんなに簡単にいくわけがない。これでは何も聞かされていないのと同じだ。
「……ずいぶん簡単に言ってくれるな。」
「あ、ご、ごめんなさい。そうよね。私も緊張してるのよ。ちゃんと説明するわ。まず――」
――その時だった。ドォンというバカでかい音が城の外から聞こえた。静まりかえっていたはずの城内が一気に慌ただしく騒ぎ出す。鐘の音が鳴り響き、色んなところから叫び声が聞こえる。
「な、なんだ!?何が起きた!?」
「……えーっと。このように騒ぎが起きたら作戦決行の合図です 」
「いや、オマエの仕業かよ!?つーか言うの遅ぇよ!! 」
「ち、違うわ! 予定よりずいぶん早いの!」
俺にも適当な説明をしていたあたり、おそらく打ち合わせ不足だったのだろう。
マイアの予定とは違うタイミングだったようだ。まぁ、城の人間に怪しまれないように色々準備するのも大変だっただろうし、何もしていなかった俺が文句を言っても仕方がない。作戦が始まってしまった以上、こちらも動き出すしかないだろう。
「ど、どうする!? 俺はどうすればいい!?」
「もうやるしかないわ! あの人達もいつまで時間を稼げるか分からないもの!」
マイアの作戦は、どうやらこの騒ぎに乗じて地下牢に潜入し、スヴァンを解放して共に逃げる手はずのようだ。確かにこの騒ぎの中なら、兵士に変装した俺がウロついていても、怪しまれにくいかもしれない。
「チアキ様、地下牢へのルートを書いた地図を用意致しました。お持ちください 」
「あぁ。ありがとうカミラ 」
「……問題は、地下牢の看守ですが――」
「さあ!早く行きなさい! 看守はうまいことアレして追い出すのよ! 戦闘にでもなったら、加護の力の無いあなたには勝ち目がないからね! 」
カミラの話を遮って、俺の背中を押して部屋から追い出そうとするマイア。
「いや、ちょっと待て!! まだ話の途中で――」
マイアは聞く耳を持たず、そのまま俺は部屋の外に追い出されてしまった。
「頼んだわよ!! 全てはあなたにかかってるからね! 」
すでに閉じられてしまった扉の向こうからマイアの声が聞こえる。言ってることとやってることが無茶苦茶すぎる。全ては俺にかかっていると言いながら、ほとんどなんの説明もないまま放り出されてしまった。
「ふざっけんな!おい開け―― 」
「おい!!貴様! そこで何をしている! 」
「へあっ!?」
急に怒鳴られてなんとも情けない声を上げてしまった。
声の方へ目を向けると、俺と似たような鎧を着ている兵士がこちらに近づいてくる。
「(……しまった! いきなり見つかっちまった! )」
「……む? 貴様もしや……? 」
「(ヤバイヤバイヤバイ!! どうする!?)いや、あの……俺は、その…… 」
「――さては姫様に、この騒ぎの知らせをしに来たのか? 」
「……へ? 」
どうやらこの兵士は、勝手に都合のいい方へ解釈してくれたようだ。
喜びと安堵でその場に倒れそうになるのをグッとこらえる。適当に話を合わせて早くこの場を離れよう。
「は、はい!ちょうど今、お知らせしようかと…… 」
「そうか。では知らせは私がしておく。お前は直ちに西門へ向かえ。侵入者は少数だがかなりの手練れだ。動けるものは皆、すぐに向かうようにとの命令だ 」
「りょ、了解しました 」
できればもう一度部屋に入りなおして、出直したかったが、こう言われてしまっては仕方がない。変に食い下がって疑われてしまうわけにもいかないし、素直に言うことを聞いておく方がいいだろう。そうと決まればさっさと離れてしまおう。俺は小走りでその場から立ち去った。
「ヤ、ヤバかった…… 」
いきなりこんな目に遭うなんて先が思いやられる。早く終わらせないと、心臓がいくつあっても足りない。俺はカミラに貰った地図を広げ、ルートを確認することにした。どうやら、近くに階段があるようだ。そこから一階まで降りて、地下牢へはまた別の棟に渡らないと行けないようだ。それほど複雑なルートではないが、距離は結構ありそうだ。さすがに城というだけあってかなり広い。
「あぁ、くっそ……。 なんで俺がこんな目に…… 」
今日までの間に、自分の置かれた状況を受け入れたつもりでいたが、ここにきてまた気が滅入っていく。いきなり知らない世界に飛ばされて、訳も分からないまま、よく知らない男の為に俺は今、命を懸けて走っている。
「……なんて日だ!!! 」
つい耐え切れなくなって、叫んでしまった。どこかで聞いたようなその叫び声は、運よくこの騒ぎの中にかき消されたようだった。
異世界からのリベリオン 余白 @kojyu60
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界からのリベリオンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます