喫茶「みなと」3月

 ある寒くて寒くて仕方なかった会社帰り、ずっと気にはなってたけど今まで入ったことが無かった喫茶店の温かい灯りに惹かれて初めて入ってみた。

 暖房が効いてて暖かい店内にホッとしながら席に着く。

 メニューを見ながらあれもいいなこれも美味しそう、何でもっと早く来てみなかったんだろう、もったいないことをしたと思いながら「ふわとろパンケーキ」とどっちにするか迷いに迷った末、「パンケーキ(ホットケーキ)」に決めた。

 来たのは「ホットケーキ」って検索して一番最初に出てくるような、懐かしくて優しくて美味しいパンケーキ。

 もう、週一…ううん、週五で通いたくなる飽きない美味しさ。

 メニュー数多いから、パンケーキは勿論だけど、そのうち違うメニューも試したい。


   □□□


 うちには冷蔵庫が無い。


 この街に引っ越して来てすぐに、駅前商店街の電気屋で冷蔵庫を買おうと出かけた朝、この店を見つけて以来ずっと朝と晩の飯はこの店で食べてる。

 モーニングはおにぎりセットが気に入ってる。最初に来た時、前日引っ越しに時間かかって夜抜いたから腹減って仕方なくて、ご飯なら腹にたまるからとおにぎりセットにした。美味しくて気に入って、それからずっとおにぎりセット。

 おにぎり二つと具沢山味噌汁と漬物が一つのトレーに載ってるのが毎朝のことなのに毎回ワクワクする。

 たまに違うのも頼んだりはするけど、結局次はおにぎりセットに戻る。


 酷い風邪引いて一歩も外に出られなかった時には、一応レンジとコンロはあるからストックしてたレトルトとかで何とか出来たし、だから冷蔵庫はたぶんこれからも買わないだろうと思ってる。


   □□□


 ギョニソ。略さず言うと魚肉ソーセージ。

「みなと」の月曜日のランチメニュー。花の形のギョニソの野菜炒め、ご飯付き。100円プラスでご飯をピラフに変更可。

 いつもは白飯一択だけど、午前中にちょっといいことがあったので自分へおめでとうの意味でピラフにしちゃおうか。人にとっては大した事じゃない。好きな人とたまたま会社のエレベーターで乗り合わせて階数を聞いてボタンを押しただけ。

 けど。

 ちょっといい事には間違いないのだ。そう自分内で納得して注文した。

 注文する時、思い出して少しニヤついてしまったかも知れないと思ってちょっと照れくさくなった。


   □□□


 誰にも言ってないが俺には前世の記憶がある。いわゆる転生者。

"こちらの世界"では"こちら"から異世界に転生する創作物が流行ってるが、俺は異世界での前世の記憶を持って転生してしまった転生者だ。

 魔法を使えたってこっちでは何の役にも立たない。だが前世で散々大魔法使いとしてこき使われた身として、「(本当に)種も仕掛けも無い」が、「種も仕掛けもあるがそうは見せない」手品師として、生活に困らず、週に数度近所の喫茶店での外食、それと月に一度の楽しみ、回転寿司を食べに行くだけの稼ぎがあれば十分過ぎると思っている。










*****

喫茶「みなと」3月のメニュー


「激寒 パンケーキ の祈り」

「スーパー おにぎり 駅」

「花咲く 魚肉ソーセージ と私」

「チート転生者の俺と お寿司 .jpg」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

喫茶「みなと」 パン屋と喫茶店 @kissa_minato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ