第2話
飛び立ってしばらくしてから、ふと思い出す。
すっかり忘れていたが、この山には俺の唯一の友がいる。
まぁ、当然人間ではないが。
この山にいる人間は俺と、あの怠け師匠だけだからな。
あの師匠は人間か疑いたくなるところだが。
まあ、最後に挨拶くらいしていったほうがいいだろう。
そう思い、方向を変え山の奥にある洞窟の方へと向かう。
「ヴィレス、いるか!
話したいことがあるんだが」
『どうかしたのか、我が友ラクスよ』
「しばらく会えなくなりそうだから話しておこうとでも思ってな。
俺、ルヴェールの学校に行くことになったからさ」
俺がそうなった経緯を話すと、ヴィレスは怒気を孕んだ声を挙げた。
心做しか、周囲の気温も下がってきている。
……その原因はヴィレスなのだろうが。
『あいつめ!
我が友を追い出すとは何を考えておるのか!
こうなれば我が出向き直々にしばき倒してくれよう……』
ヴィレスはこの山を統べる聖獣と名高きグリフォンの王だ。
そんなヴィレスは、あの怠け師匠でさえも思わず顔をしかめるであろう実力を持っている。
そして、その力は風と氷だ。
だからなのか、感情が昂るとこうして周囲の気温を下げるというなんとも迷惑極まりない癖がある。
「いや、いいってヴィレス。
俺も気にはなっていたし。
何より、あの怠け師匠を越せるチャンスなんだぜ?
こんなチャンス、二度とあるか分かんねぇ。
だから師匠の思惑通り、ってのは癪だが行ってくる」
俺のことを心配してくれているヴィレスには悪い気もするが。
それに、新しい魔法の案だって浮かぶかもしれないし、自分の力を磨くためにはいい機会だと思っている。
俺の世界は良くも悪くも、この山だけだ。
それをちょっくら広げてくるのも悪くはない。
そんな俺に、ヴィレスは、少し不満そうではあったが、わかってくれた。
多少やってしまえ、とも思っていたせいか少し残念ではあるが。
『……ならば仕方あるまい。
だがラクス、我も共に行こう。
お主一人では心配だからな』
「いいのか?」
ヴィレスはこの山の主だ。
そんなヴィレスが離れていいのか。
そんな思いで、俺はヴィレスに確認を取る。
すると、ヴィレスはほんの少しだけ口角を持ち上げた。
『多少空ける分には構わぬ。
空けたところで、我に変わり主にならんとする愚か者など、この山には存在せぬからな。
とはいえ、このままでは不便か……』
ヴィレスはそう口にすると、人化の魔法で長く輝く白髪に黄色の瞳の少女へと変わる。
瞳の色は、黄色というよりも金の方が近いかもしれない。
「これで良いだろう」
本人は満足そうに胸を張っている。
問題はないかもしれないが、山の主人ともあろう者がこんな姿でいいのか。
「んじゃ、そろそろ行くか。
ヴィレス、これからもよろしくな」
「うむ、任せておくといい我が唯一にして無二の友よ!」
ふと思ったが、弱いと思ってヴィレスに絡んだやつは災難だよな。
この見た目で、本当はグリフォンなんだから。
でもそれは実力を図ることもできない程度のやつだったって事になるし、仕方ないのか?
あの怠け師匠もよく言ってたしな。
実力のない奴が悪い、って。
「ヴィレス、明日までにルヴェールに着きたいんだが……。
行けるか?」
「当然だ。
我の背に乗って行った方が早いな。
だが、むぅ……。
先程言ってくれれば良かったものを。
人化してしまったではないか」
「悪い。
頼めるか?」
「任せておけ」
そう言って、ヴィレスは再び元の姿へと戻ると背を低くして俺を背に乗せた。
そして、今度こそルヴェールの地へと向かい飛び立った。
自称賢者に育てられましたがなにか? 紗砂 @3815
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