自称賢者に育てられましたがなにか?
紗砂
第1話
「さっさと出ていかんか、この馬鹿弟子が!」
「ふっ……。
だが断る!」
そんな二人の言い争う声が山に響き渡る。
とても師弟関係とは思えないような二人の間には高く積み上がった魔物の山が出来ていた。
「あの小さい頃の純粋で可愛いラクスはどこへ消えたというのか……。
いつからこんなに口煩くなったのだ。
ワシの可愛いラクスを返せ!」
「……全部、全部お前のせいだろうがぁぁぁ!
テメェの胸に手を当てて考えてみやがれ、この怠け師匠が!」
ラクスと呼ばれた銀髪に紫がかった瞳の少年は感情のままに魔法で作り上げた巨大な氷の塊を老人の上に生み出した。
その塊を一瞥し老人は「ふむ」と呟くと手をかざし、軽く振った。
すると、そこにあった塊は水蒸気となり消えてしまった。
「かつて賢者と呼ばれたワシに、この程度で勝てるとでも思っておったのか?」
「まさか、んなわけねぇだろ。
いくら怠け師匠だからってそこまで思ってないさ。
師匠の化け物具合は俺が身をもって知っているからな」
「怠け師匠ではないわ!
ワシはただ、魔力を蓄えているだけじゃ!
だがそうじゃな。
お主もこの山から降り王都の学園にでも行って学んできてはどうじゃ?
色々と学ぶことはあるであろう」
確かに師匠の言う通りである。
だが、この師匠には困ったことに怠け癖がある。
俺がいるとうるさいから追い出したいんだろうな。
昨日だって、家事当番をすっぽかして一日中寝ていたくせに何が魔力を蓄えている、だ。
寝てただけだったろうが。
「ラクス・オーディス、山を降り学んでくると良い。
学園には既に紹介状を出してある。
そこにて三年間、じっくりと学んでくるが良い」
「それはもう選択肢じゃなくて強制じゃねぇか!」
思わず殴りかかると、簡単に止められた。
そして、呆れたように口にする。
「誰も選択肢をやるとは言っておらぬだろうに」
確かに、一度も言っていない。
だが、だからといって強制的にやるとはどうなのか。
「行けばいいんだろ、行けば!
で、場所は?」
「ルヴェールの王都じゃな」
「ルヴェール、か。
って、それ隣の国じゃね?
ま、いいけどよ。
それでいつ行けばいいんだ?」
「試験は明日じゃな」
「へー、明日ね。
……って、アホかこの腐れジジイ!」
明日だと?
この怠け師匠、今日中に出てけって言ってるようなもんじゃねぇか!
しかも、試験勉強をする時間もないとは。
「荷物はボックスに入ってるし、今から行けるば間に合うか……。
んじゃ、行ってくる」
「うむ、存分に楽しんでくると良い」
師匠のそんな声を聞きながら、俺はルヴェール王国へと向かって飛び立った。
自称賢者の弟子として、学園へと入学するために。
「そうじゃった。
言い忘れていたが、このワシの弟子として入学するのだ。
生半可な結果で帰ってくれば許さぬからな」
付け加えられた言葉に顔を引き攣らせながら。
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