第42話 vsセルフルト その2

「ぼくの得意技を教えてあげようか――これは大サービスだ。

 プラムちゃんはぼくと似たようなタイプに見えたからね、同じカテゴリーに属しているからこそ、分かることもあるってものだよ――、それにこれは試合だ……練習、修行みたいなものだ。

 ここで必死に戦うよりも、手の内を晒して戦い、分析しながら戦った方が、自分のためになるんじゃないかい? 

 レベルアップ、スキルアップのため――と思えば、この試合の勝利など、捨てられるものだろう? 当然、勝ちにきてもいいけどね――それは、まあ、確認を取ってからだけど」


 ――なにを言っているのかしら、あいつは。


 ぼそりと、ヴァルキュリアが言う。それに返答しようとしたが、セルフルトを無視してしまうことになるので、ここはヴァルキュリアではなく、セルフルトに、返事をすることにした。


「試合は、どうでもいいってことですか……?」


「まあ、そういうことだよ――でもまあ、観客を楽しませるために、試合をしている振りは見せるけどね。どうだい、悪い条件ではないだろう?」


 ――嘘。彼は嘘をついている。


「……え? キュリちゃん?」


 ――ん? 私はなにも言ってないけど?


 しかし――確かに今、声が聞こえた。

 だが思えば、あらためてさっきの声を脳内で再生させてみれば、ヴァルキュリアの声ではなかった気がする。

 となれば、消去法だが、

 今の声は必然的に――、セルフルトの、レイピアということになる。


 嘘。


 セルフルトの言葉は嘘――、それは、あっさりと流せるものではなかった。

 なので警戒は解かない。

 セルフルトの言葉は嘘――、それを踏まえた上で、途中までは、彼の言葉通りに、同意する。


「悪い条件では、ないですね……」

「だろう――なら、手の内を晒しておこうじゃないか」


「とは言っても、わたしの手の内なんてないですよ。型なんて、持ってないですし、腕力がないってことくらいで、正確さを極めるのが、わたしの目標ですから」


「やっぱり、プラムちゃんはぼくと攻撃のタイプが似ているよ。ぼくも同じく、正確さを極めているからね――それに素早さだよ。じゃあ先輩からアドバイス――」


 ――気を付けて。意識を引く動作の後に、セルフルトは、突いてくる!


「正確さ、素早さを極める時におすすめなのは、この――」


 レイピアを、見せびらかし、表情だけ、にこりと崩しながら――、


 ――今……くる!


 セルフルトは、レイピアを突き出してきた。


 プラムはそれを、マントを広げるように、あっさりと避ける。


「……っ、な――!?」

「卑怯ですね、セルフルトさん――見損ないました」


 ――プラム、柄でそいつの頭、カチ割ってやりなさい。


 いやいや、さすがにそれはしないよ――とプラムは言うが、それはカチ割るということについてで、柄で頭を殴ることに、拒否を示したわけではなかった。

 不意を突いた一撃に全てを注いでいたセルフルトの攻撃後の隙は、あまりにも大き過ぎた。

 プラムは柄をギュッと握り、力を込めて、振り下ろす――、

 その一つ一つの行動時間が充分に取れて、安定した一撃をお見舞いすることができた。


 ――がんっ、と音がした。

 手応えも満足だ――セルフルトは顔面から、地面に激突した。


 そして、


『……勝者、――プラム・ドールモートっ!』


 審判の声と同時に、観客のボルテージが、一気に上がる。

 文句を垂れる者もいたが、プラムに賞賛を送る者もいた。

 内容はどうあれ、自分は期待されている――、


 今、こうして結果を残すことができたのだ……。

 もう、見た目でプラムのことを判断する者はいないだろう。


 遠慮しながらも、手を振りながら、闘技場から降りる――その時に、


「さっきは教えてくれてありがとう――えっと、レイピア、ちゃん」


 ――別にいいわ。この男に、痛い目を味わわせたかっただけだから。


 つん、と言うレイピア――、どうやら、セルフルトは自分の武器に、相当、嫌われているらしかった。まあ、あの性格なら、嫌われても仕方ないな、と、セルフルトに少しの同情の気持ちを抱くことは、最後までなかった。


「キュリちゃん――」


 ――なによ?


「勝ったよ!」


 ――……はいはい、凄いわよ、あんたは……。


 その言葉が嬉しくて、プラムはスキップをしながら、控室に戻る。


 ―― ――


「勝ったよ、ぶいっ!」


 手の形をピースに変えて、控室に戻ってきたプラムは、まずそう言った。

 ぱちぱちぱち、と返ってくるのは拍手だ――ナルマリエの拍手、一つだった。

 他には誰もおらず――まあ、そうか、とここは納得できた。


 選手は、負ければ自動的に、この控室に用がなくなる――なので現在、控室を利用しているのは、プラム、クード、ジャッジだが……、その内の二人は、たった今、試合をするために出てしまっているのだ。


 帰ってくる時にすれ違わなかったということは、

 偶然にも道で交差しなかった、ということだろう。


 この控室にいたのかどうかも、怪しいものだったが。


「すごいじゃない――あのセルフルトに勝つなんて」


 一人でも――、ナルマリエは待っていてくれたらしい。

 しかし表情が、どことなく、暗く見える……だがそれを指摘してほしくないがために、表情を押さえているような、がまんしているような、隠しているような……そんな表情だった。


 ここで聞かないのが、ナルマリエのためだとは思っても――しかし、無理だった。


「――なにか、あったの?」


 プラムは、そう聞いていた。

 その言葉にはっとしたナルマリエは、俯きながら、言うか言わないか、迷っていたらしい。

 しかし自分の中で消化できないことだったらしく、

 堪えることを諦め、俯かせていた顔を上げた。


「……クードの、様子が変なの……っ」

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