第34話 フェイク
「クード! 向こう側、運転手を捕まえなさ――あぁっ!」
銃声が二回と――、ナルマリエの悲鳴が聞こえ、クードは顔を真っ青にする。
「な――マリッ!」
見上げて叫ぶが、ナルマリエからの返事はない。
まさか、もしかして――だがしかし、あのナルマリエが――撃たれたのか?
部屋の中を支配する赤を想像し、それは現実離れたしたものではないことを理解すると、クードの中に、心臓に、重りがついたような感覚になる。
息が苦しく――だが、
「だ、大丈夫よ! あたしは大丈夫だから、早く!!」
ナルマリエが無事なことにほっとしてから、クードは荷台を乗り越え、運転手側へ向かう。
そして見たものは、拳銃をクードに向けている運転手の男と――、
血溜まりに沈む、貴族の男だった。
思わず、え? という声が出る。仲間割れでも、起こったのだろうか。
「……さっきの二発の銃声の音――、
一つは、こいつに撃ったものだったのか……」
「うん? ああ、なんだか問題が起きていると思ったら、まさか原因がお前のような小僧だったとは――。世界ってのは、広いな。まだまだ俺の知らないことがたくさんあるってもんだ」
「世界を回りたい願望はいいが、残念なことにお前はこれから監獄行きだ。
ここで捕まるんだから、当たり前だろ――『他人行儀』」
「ふん。もうばれてるってことか。まあ、こっちの計画のミスってこともあるか。
いや、計画的には、良い線は言っている、ってわけか――」
男は――、部下達に司令塔と呼ばれていた男は、
手をぐーぱー、と、開き、閉じて、を繰り返しながら、
「お前の射程範囲に入れば、一発で腕を斬り落とされそうだ。つーことは、あれか。俺のこのグローブはつまり、役に立たねえってわけか。なんだよ、こりゃあ、俺の負けじゃねえかよ」
「なんでだよ、拳銃を使えばいいじゃねえか」
「もうねえよ。こんな問題が起こるとは思ってなかったからな。念のために、少数の弾しか入れてないんだよ。まあ、それが幸運にも、問題が起きた途端に暴れ出して噛みついてきたこのクズの貴族が殺せたから、良かったけどな――」
「……依頼人じゃ、ねえのかよ」
「金は貰ってんだ。俺にとってもこの貴族は、敵でしかねえよ」
仕事の関係ってのは、それっきりなんだぜ――と司令塔が言う。
それにしても、とクードは違和感を抱いたままだった。
絶対絶命のピンチだ――そのはずだ。なのに、なぜ司令塔は、こうも余裕があるのか。
拳銃以上に強力な武器があるのか――だが、あるのなら既に使っているはずだ。
俺の負けと自分で言っている時点で、司令塔は確かに、負けを確信している。
ならば――勝つことはそれほど重要なことではない、と見るべきか。
もしもそうなら、この余裕の態度も頷ける。
ここで捕まること自体が、
ここで負けること自体が、この司令塔の目的なのだとしたら――、
「お前……これ……っ!」
「自白は好きじゃねえが――ゲーム性を出すために、ちょいと答え合わせをすれば、お前の考えている通りだと思うぜ。ここは
そしてそっちが、本命だ――、
【
クードは駆け出し、司令塔の持つ拳銃を、斬り落とす。
そして司令塔の体を倒し、拘束してから――、ナルマリエ! と大声で呼ぶ。
「――分かってるわよ! 今、お母さんに確認して――あ、お母さん!? 実は――」
ナルマリエとミルガルトの会話は、たったの十秒ほどだったのだが、しかしクードには嫌に長く感じられた。噴き出す汗が、永遠と、垂れているような感覚がする。
本当に終わることがないのではないかと思っている内に、
ナルマリエの声がクードを、通常通りに流れる時間世界へ引き戻す。
そして――告げる。
「――お母さんがもう一つの『他人行儀』の情報を持ってたわ!
相手がいるのは、王城周辺っ――ここ、工房エリアじゃないわ!」
「よし、分かった――すぐに向かおう!」
「あと――そこにプラムが向かってる!」
びくり、と反応してから、クードの動きが止まる。
なんで――、という質問は、省略してもナルマリエには伝わったようだった。
「あたし達の行先と、お母さんが独自で見つけた『他人行儀』がいる場所を、間違えて教えてたみたいなのよ! まさか、相手が二つに分かれて国内にいるなんて――、しかも取引きがされてるなんて知らなかったから……とにかく、早く向かわないと、プラムが――ッ」
分かってる――と、クードは力強く呟いてから、
「……すぐにでも、監獄行きの車に、お前の仲間を乗せてやるよ――『他人行儀』」
「どっちでもいいさ――名前の通りに、俺達に仲間意識なんてねえんだ。
誰が死のうが生きようが、成功しようが失敗しようが――。
なんにせよ、俺達は仲間じゃねえ。他人も同然――だからこそ、他人行儀だ」
司令塔は逃げる気なく、抵抗する気なく、ナルマリエの拘束を素直に受け入れる。
そしてクードは、
「無茶すんなよ、プラム――っっ!」
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