第27話 曲がり角の出会い

『ここから先の、情報を辿っての推理に、あんた達は必要ないから――、だから自由にしてていいわよ。仮定が固まれば、すぐに連絡するから――。

 それに、依頼が始まってしまえば、休むことが中々できない、緊張の連続だと思う。

 だから今の内に、リラックスしておいた方がいいわよ』


 ――というのは、ナルマリエの言葉だ。


 言葉の通りに、ここから先の、『他人行儀』を特定――、怪しい者を探し当てる作業にプラムとクードが手伝えることはなにもなかった。

 つまりは、いてもいなくても変わらず――いれば逆に、邪魔になってしまう可能性が高い始末である。となると、ナルマリエからすれば、いない方が――、

 そしてついでに休息を取ってくれていた方が――良いということなのだろう。


 手伝いたい気持ちはあるけど、しかし邪魔になってしまう可能性が高い、などと確率を言われてしまうと、たとえ注意していたところで、そうなってしまう場合がある。

 手伝いたいという欲求よりも、邪魔したくないという欲求の方が強いので、プラムはテキトーに、町の中で自由に過ごすことにした。


 クードも誘ったのだが、

「ジャッジさんがいるかもしれねえ!」

 と先に突っ走って行ってしまったので、プラムは置いていかれた形になる。


 こうして、プラムは一人だった。

 広く、囲まれた世界で一人だった。


 心細かったが――前向きに考えることにした。


 自分のしたいことを、自由にできる! だが、不法入国の件は未だにそのままなので、大胆に行動はできないけど、そこはまあ、普通通りに。

 クードにそのことを伝えるのを忘れていたが、クードならば、もしもの場合でもなんとかするだろう――と、信頼しているのか薄情なのか、一方的な決めつけで不安を放置しておいた。


 とにかく――今は町を散策しよう。


 珍しいものが――、村にないようなものがあるかもしれない。

 昔から憧れていた、村ではなく、都市の商店で買い物をするという行為を、今しようと決めたプラムは、駆け足で商店エリアに向かった。

 きらきらと、出ている店が高級だからこそ光って見えるその【通り】に到達したところで――曲がり角で、どん、と衝撃が胸にくる。


「きゃあ――」


 プラムは尻餅をつき、小さな悲鳴を上げる。


 いたたた、とお尻を擦りながら、プラムは、差し出された相手の手を掴んだ。

 目線は一直線に前だったので、相手の顔は見えなかった。

 見ようと顔を上げる前に、掴んだ手が思い切り引っ張られて、プラムは自分の力をまったく使わずに、自然に立ち上がる形になる。


 驚きながら前を見れば――目の前にいたのは少女だった。


「ご、ごめん! ――大丈夫!?」


 少女が言う。

 少女の雰囲気は、村で生まれて、村に住んでいるプラムとは違って、なんだか町――都市の人という感じがした。

 田舎ではなくやっぱり都会の子――と言った感じだ。


 だからこそ、格好良いと、綺麗だと、美しいと……そう思ってしまうのだろう。

 こんな自分と前を向いて、向き合っていていいのだろうか、なんて、

 自分を下げるような、自己嫌悪が働き、まともに前を向けなくなる。


「う、うん――大丈、夫、だよ……」


「ほっ……ならよかっ――って、あ、大変っ!」


 へ? とプラムが声を発した時にはもう、少女はプラムとの距離を詰めていた。

 プラムの手を掴んで、持ち上げて、肘を見つめる。そして、


「血が出てる――急いで治療をしないと!」


 そう言って、きょろきょろとなにかを探す少女は――あ、と声を出して、なにかを見つけた。

 どうやら、椅子を探していたらしい。そこで傷の手当をするのだろう。

 すぐに大丈夫、と言って去ろうとしたプラムの言葉は間に合わず、少女に手を引かれて、あっという間に、椅子に到達してしまった。


 逃げられなかった。


 プラムは見事に、少女の思うままに、されるがままだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る