第26話 犯罪組織を見つけ出せ!
ナルマリエの声は、凍っているように、冷たかった。
しかしクードは、
「――それが言いたかったのかよ? だったら、だらだらと説明してないで、一発で、最短距離でずばっと言えば良かったじゃねえかよ」
「真っ直ぐに言って、あんたは納得するの?」
「くどくど遠回りに言われたところで納得なんてしてねえけどな――、つーか諦めろ。おれらにこの依頼を受けさせたくないってのは、伝わってくるからよ。でも、おれらは絶対にこの依頼を受ける。これは決定事項だし、お前の母親だって、認めていることだ」
――あんのバカ母……。
と、ナルマリエが呟いたのを、プラムは聞き逃さなかった。
「べ、別にあんたのことを心配しているわけではなくて――」
「そうだよ――プラムだよな、お前が心配している相手は。
それにはおれも同感だ。そんな危険なことに、プラムを巻き込みたくはねえ」
二人の共通する気持ちに、しかし異論を挟んだのはプラムだった。
「ちょっと待ってよ! わたしだって一緒にこの依頼をするつもりだよ! 勝手に決めないで!
わたしだって、クーくんには届かないけど、強くなっていると思うし!」
「仲間はずれにするつもりはねえって……、大丈夫だ、安心しろ」
少し間があったものの、クードに嘘はないように見える。
だから、それ以上、プラムが口を挟むことはしなかった。
あー、もう! とナルマリエの高い声が響き――その後、
「分かったわよ!
どうせ引くわけないんでしょうが! あんたも、プラムも!」
ナルマリエの視線に、プラムは、さっ、と顔を逸らす。
ナルマリエの気持ちが分かってしまうからこそ抱いてしまう罪悪感のせいで、彼女と目を合わせることができなかったのだ。
前のめりになっている状態から、ナルマリエは重い腰を、椅子に下ろした。
それから机の上――、そして、下。左右のあらゆるところに積まれてある、鈍器になるのではないかと思うほどに固まって置かれている書類の束を、選んで、掴んで持って来る。
一枚一枚、書類の内容に目を通す――そして、
「……この町に、【他人行儀】に武器を依頼した者がいるってことは、聞いている。
だから早急に、剣士にこの依頼を達成させなければいけないってのは、このギルドでも話題になってたわ――お母さんも、どうしようか、って言って悩んでたし。
危険度【赤】の依頼を達成できるような剣士を呼び寄せるのも、難しい話だしね。
ちょうど、剣闘大会に合わせて来ているジャッジに頼もうとかと思っていたところに――あんたらが来るとはね。お母さんがなにを考えているのか、理解できないわ」
「それって、ほんとはこの依頼――ジャッジさんの依頼だったんじゃ……」
「予定ってだけよ。正式に受理したわけじゃないから、誰かのものってわけじゃない」
良かった――と、依頼を横取りしてしまったかもしれない心配が杞憂だったのを知って、プラムは安心する。
それはともかく――と、ナルマリエは目を細めて、
「この依頼が正式に依頼になったのも、不確定な情報からだったのよ――、
『誰かが【他人行儀】と通じている。やがてこの国の内部にも、【他人行儀】が現れる』ってね。それから、情報はだんだんと、内容に実をつける。
そして近々、たぶんね、剣闘大会の前後に【他人行儀】が動き出すとあたし達は読んだわけ。
それの解決に、なによりも優先してやるべきことなんだけどね――、彼らはおおごとにはしないし、表沙汰にもしない組織だから……、やるとしたら水面下でおこなわれるわ。
それを、どう見つけて、捕縛するか……。
頭で考えるよりも、口で言うよりも、実際におこなうのは難しいわよ」
「――つまり、現行犯で捕縛しろってことなのか……」
と、クードが言う。
「そういうことよ。相手は貴族……圧倒的な権力で、しらを切られるだろうし――、移動中の【他人行儀】を捕まえたところで、同じく、しらを切られるだけ。
どちらかを問い詰めるにしても、確信はない、候補者止まりだから――、
どうにも、追い詰めることができないの。だから現行犯で捕縛するしかないわけ」
「だから、剣闘大会の前後の日に、読みを絞ったわけか……」
「そ。――剣闘大会は、小規模とは言え、剣士にとっては小さな大会ではないし、昇格するチャンスでもあるから、簡単に見逃そうとは思わないはず。
それに連絡はきっと、媒体がどうであれ、いっているはずだしね。
その時になれば、門の監視も、検査も緩まるはずだし、
【他人行儀】だってそこを当然のように狙ってくるだろうしね――」
じゃあ――と、プラムが可能性を提示した。
「あっちも、わたし達がそう考えていることを知っていて、剣闘大会よりもずっと前に王国内に入っていて、もう用件を済ませているとしたら――これからのことは無駄になるんじゃあ……」
「可能性はあるけど――その可能性は少ないわね」
どうして、とプラムが言うよりも早く、ナルマリエがプラムの返事を予想して返す。
「普段の警戒体勢は、剣闘大会の時よりも比べて、厳しいはずだからね。
例年がそうなのよ――、王国内でイベントをする時には、そっちに人手が集まってしまうために、門などの、外の警備には人が回らなくなり、薄くなる。
あっちだって、それくらいは情報収集で分かっているはず。
壁の中に入る苦労を取るくらいならば、中で苦戦する苦労の方を選ぶだろうし――。
それにあっちには、入れば勝ちみたいな、確信のような自信があるだろうしね」
だからあたし達の読みははずれてはないはず――と、ナルマリエは自信を持っていた。
確かにそう考えれば、【他人行儀】はきっと剣闘大会の前後に姿を現すだろう。
それが今日なのか明日なのか明後日なのかは分からないけど――、それに剣士になるためには、今日、来てくれなければ自分達は剣士になれない。
つまり、今日、現れることに賭けるしかないのだった。
大きな声では言えないが、今日、現れてくれ、と願うばかりだった。
「……大体のことは、分かった――で、今日にでも現れると仮定すれば、どこに現れそうとか、分かるのか?」
「いいや――まったくではないけど、似たようなものよ」
「そこからかよ……」
「でも大丈夫。この町の情報網をなめてもらっては困るわ。
あんた達が正式にこの依頼を受けるというのならば、あたし達は全面的に協力する。受けたからには、最後までやってもらうわよ。たとえ今日を過ぎたところで、明日を過ぎたところで――勝ちであれ、負けであれ、決着が着くまではね――」
それは、【他人行儀】が今日、現れず、依頼を達成できず――剣闘大会に出れないとしても、最後まで続けてもらうというものだ。
大会に出られないのは悔やまれるが――、それでも最後までやり、依頼を達成できれば、剣士にはなれる。だから決して、無駄なことではない。
プラムとクードはそれを脳内で整理し――、二人、互いに見合うことなく、頷いた。
「決まりね」
ナルマリエの目の色が変わった。
さっきまでとは違う――本当の、仕事の顔になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます