第25話 依頼内容
「――なによこれッッッッ!」
クードから受け取った紙――、依頼内容が記された紙を受け取って内容を確認し、ナルマリエはそう叫んだ。ふるふると体を小刻みに震わせ、表情は険しく、怒りを含んでいる。
椅子に座って読み終わるのを待っていたプラムとクードは、彼女のその叫びに驚き、椅子をがたたっ!? と、音を立たせてしまう。
するとクードが、
「いきなりなんだよ……」
「なんだよ――じゃないわよッ!
あんたら、なんでこんな依頼を受けてるの!? バカなの!?」
「バカじゃねえよ。おれらが剣士になるためには、今、その依頼をこなさなくちゃいけないわけ――だから驚いている暇があるなら、さっさと仕事を先に進めてくれ。
今日中に成功させなくちゃいけないんだから」
「だから――バカじゃないの!? この依頼! 一日でできるわけないじゃないのよ!」
ナルマリエは、ばんっ、と机を叩いてクードを威嚇する――が、そんな威嚇など、クードにはなにも与えなかった。怯むことなく、クードは机の先のナルマリエを、じっと見つめる。
睨みつけていると言える、強い視線ではなかった。
冷たい視線だった。
怒りに身を任せた、熱を持つナルマリエとは正反対の――冷静な心情を持つ。
そこでプラムが、喧嘩になりそうな二人の間に、割って入る。
「マリちゃん、落ち着いて――マリちゃんは理解できないと思うけど、わたし達にも理由があるの……だから無理だとかバカだとか、そういうことを言わないで、進めてくれないかな……?」
「――でも……。
ッ、プラム――そこのバカは別にどうなろうが知ったことではないけどね――」
ナルマリエは指先をクードに向けながら、視線だけはプラムに向けている。
「プラムが怪我をするのは嫌なのよ。それに、死ぬことも――当然にね。せっかくできた知り合いを、そうみすみす、死地に向かわせることなんてできるわけないでしょ!」
「死地だなんて……そんな大げさじゃないでしょ――」
「大げさになんて言っていないわ――死地という名称がふさわしい依頼よ」
はあ、と溜め息を吐き、ナルマリエが落ち着きを取り戻していく。
さっきまでの、ただ叫ぶだけの状態から脱することはできたらしい。
冷静に、正確に、情報を整理していく。
「この依頼がどういうものか――この紙を持ってきたんだから、もちろん知ってるわよね?」
まあ――と、クードが先に頷いた。プラムも遅れて、こくり、と頷く。
「犯罪組織・【
捕縛依頼ってところね。犯罪商人――とも呼ばれているし、
これは自称でつけられた名称と言われているけど……移動型ギルドとも呼ばれているわ」
二人は、黙ってナルマリエの説明を聞く。
「犯罪組織としては一番有名で、規模が大きい――とにかく多い、広い。
どこの町でも名を聞く。どの犯罪でも、名を聞く。情報班が調べてみても、犯罪の種類にまったく、縛りがないってのもあるわ――色々な犯罪に手を染めていると言った方がいいかしらね。
まあ、相手側には犯罪を犯しているという自覚はなく、目的の手段が、必ず犯罪寄りになってしまうってところかしら。組織の目的なんて知ったことではないし、そうそう簡単に予測できるものでもないから、実際のところ、全部が推測の域を出ないものだけどね」
でもね――これだけは分かるのよ、とナルマリエが言う。
「まともな人間なんて誰一人としていない。いれば必ず、組織の内側から亀裂が入っているはずだし――綻びができるはずなのに。
それがないってことは、組織のメンバーは、全員がいかれているってわけよ。
なにも知らずに加担している者も中にはいるだろうけど、
だとしてもその者達は、組織から、弾かれているような者達ね――」
それはともかく、つまりね――と。
「あんたらの手に負えるような相手じゃない」
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