第15話 泥だらけの決着!
クードの修行方法は剣士としての技術を磨く修行方法と――、
同時に、プラムと同じように体力作りや、筋力をつけるための修行をしている。
だからクードの修行時間が長いのは当たり前だった。中でもクードは、剣士としての技術を磨く修行を積極的にやっており、それに割く時間も多かった。
別に、体力や筋力の修行を疎かにしているわけではない――きちんと、その修行もしている。
ただ、割く時間が他と比べて短いというだけだ。
クードは剣士を目指しているのだから、剣士としての技術を磨くことに焦点を当てるのは、それはそうだろうと思える。そこに文句はないだろう――誰もそんなことは言えないし、クード自身、それが一番、良いやり方だと思ってやっている。
間違いではない――それは決して間違いではないのだが、しかしそれのせいで、今、クードはプラムに追いつかれていると言っても、それも間違いではないのだ。
プラムの修行方法に、きちんと目を向けてみれば――、彼女は一週間前から、体力をつけることしかしていなかった。村の中を走ったり、鬼ごっこをしたり――、後は村のみんなとよく会話をしている。これも修行の内に入るのだろう――。
プラムの大きな変化はそれくらいのものだった。
まあ、クードの見えないところで修行をされたら、もしも家の中で修行でもされていたら、クードもそこまで気づくことはできないけど。
だが――プラムの修行方法を確認して、プラムの驚異的な成長速度の謎が解けた。
つまりだ――プラムは走ることしかしていなかったのだ。
たとえば、五角形のパラメーターで表示した時、走るという項目があったとして、プラムは走るという修行しか――、修行ばかりしていたとすれば、当然、五角形の中の【走る】という項目だけが、鋭利になるだろう。
それしか、上がらないだろう。
走るという項目は、他を圧倒する。
他の項目を捨てることで、プラムはクードを追い抜くくらいの走りと体力を手に入れたのだ。
一週間の間に――こうも尖がることは、あり得る。
元々あった潜在能力が覚醒した――とも考えられる。
なんにせよ、プラムは走るということに関しては、元々からセンスがあったらしい。
もしもなければ、こうしてクードを捕まえることはできなかっただろう。
二人は、地面の上で寝転がっていた。
泥だらけで――傷だらけで。
なぜこうなったのか――時は少しだけ遡る。
―― ――
走っている最中、あと少しで村の範囲、ギリギリのところにある、柵に到達する時だった――クードはいきなり、真後ろに引っ張られる感覚を得た。
最高速度で走っているところに、急に真後ろに引っ張られたら――、それに、それだけではなく、体に想定外の動きが加われば――、
それだけで、体のバランスはいとも簡単に、容易く崩れる。
真後ろに倒れそうになったクードは、真後ろから迫ってくるプラム――、彼女の思いきりのいい突撃を背中に喰らう。
しかしプラムだ――痛みは思ったほどはなかった。
だが問題はその後だった。
体のバランスを崩したのだ、このままでは転んでしまう――、しかも目の前には柵がある。
ぶつかるのは避けられない。
だからとにかく、当たることは認めて、プラムだけを守ることに意識を集中させたクードは、無理やりに体を捻り、体を半回転させ、プラムの体を抱きかかえる。
「ひゃあっ!?」
というプラムの、普段、滅多に聞けないような声を聞きながら、力強く抱く――。
抱いたまま、転び、できるだけプラムに負荷をかけないようにしながら、勢いを殺すために回転する。そして――、回転し、クードの背中から当たるように調整しながら、柵へ、思いきりぶつかる。柵は破壊され、破壊された柵の破片は、プラムに突き刺さることはなかった。
全ては――クードの背中に。
回転しているから、多少の擦り傷は、プラムにもできてしまうが、
柵の破片が突き刺さるよりは、全然マシだろう。
そう考えることにして、クードと――、
そしてプラムは、柵を越えて村の外の草むらで停止する。
停止し――、一瞬の沈黙が生まれた。
静かな空間で――、最初に動いたのはクードだった。
クードは抱いたプラムを離し、彼女から二歩ほどの距離を転がり、天を見る。
咄嗟の動きで、間違ってはない最善の策だということは認めるが、しかし抱き着いてしまったことに、多少の恥ずかしさを感じてしまう。
いや、今更だとは思うけど。
プラムは気にしていないのか――しかしクードは、プラムのことを見れなかった。
そのまま天を見る――すると、
「……ありがと」
と、プラムが言った。
同時に、クードは声に反応して、天から視線をはずし、隣を見た。
プラムの表情は、優しい笑みだった。
寝転がりながら、体を横に向けて、クードだけを見て――、
クードだけに向けた、笑みだった。
それを見たクードは、慌てて視線をはずし、再び、天を見る。そして、
「……負けたよ」
あーあ、と最後に付け足して、そう言った。
「これでお前の、剣士になるって夢を邪魔できなくなったわけだよ――。
くそ、修行はしてたのに……努力してたのに……。
一週間前から修行を始めたプラムに、しかも体力勝負で負けるなんてよ」
だっせえ――と、クードは自分自身の情けなさに、そう評価した。
すると、
「ださくなんかないよ。クーくんは、格好良かったよ――」
「……負けたんだ、格好良いわけねえだろうがよ」
「勝ち負けじゃないもん。そういうことじゃないんだよ。
クーくんは、あの状況で、勝ちにこだわって無茶したわたしの失敗で起きた絶対絶命の状況で、そんな無茶苦茶な状況で、わたしのことを助けてくれた――、だから、格好良いんだよ」
プラムは体を起こして、体に付着している泥を落とすことなく、クードの隣に近づく。
二歩ほどの距離は、あっという間に縮まり、プラムの手が伸び――、
クードの、頬に到達した。
「こんなに、傷だらけになって――無茶し過ぎだよ……」
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