第7話 プラムの夢と壁
「…………」
――まーたいじけてるー。
……でも今日は違うんでしょう?
みんなに私達のことを信じさせるために、
村で色々と声をかけてきたわけじゃないんでしょう?
なら、なんで、どうしてそんなに落ち込んでるの?
クードと戦ったのは既に昨日の出来事になっていた。
プラムは今、
木製の椅子に座って――顔を膝に埋めている。
木製の椅子は前後に揺れて、ぎしぎしと音を立てていた。
剣もいつも通りに――いつも通りの位置にいる。
――なんだか、いつもよりも落ち込みが深い気がするんだが……大丈夫なのか、嬢ちゃんは。
――こういう時こそ慰めてあげるのが男というものでしょう。
そんなことも忘れてしまったとでも? それほどまで老体か?
なら、ここからは俺の出番――、
待っててねプラムちゃん、今から慰めて元気を出させてあげるから!
――誰が老体だ、誰が!
まだまだ若いもんに負けることがないくらいに、若さは維持しているつもりだがなあ!
――……なんかもう、若いもんって言っているあたりが、既に老体ということをアピールしているように聞こえるんだけど、そうは思わない?
――え、僕ですか? うーん、まあ、そう言われてみれば、そう思いますけど。
ただの
――あんたは誰よりも若いくせに、色々と知ってるわよねえ。
――そりゃあ、まあ。へへへ、色々と調べたんですよ。
――みんな元気に話し過ぎじゃないの!?
プラムのこと、完全スルーで話すのだけはさすがにやめよう!?
少なくとも絡んであげて! 忘れないであげて!
ここまで落ち込んでいるのは初めての体験だから、色々と分からないことが多いと思うけど、気持ちを折らずにきちんと向き合って!
【彼女】の指摘のおかげで、【彼女】ではない他の剣達の意識が全員、漏れなくプラムに向いたのだが、しかしプラムの方は意識が、どこか遠くへ行ってしまっていた。
はあ、と溜息をつくプラム――、もうこれで何回目の溜息なのだろうか。
【彼女】はもう、数えるのをやめていた。
一体どうしたのかと聞き出そうとしても、プラムの方にきちんとした意識がないために――、動くことができない、声を発することしかできない【彼女】に、プラムを無理やり覚醒させることはできなかった。
だから出せる手はなく――あったとしてもやはり変わらず声をかけるだけで。
それしか方法がなかった。今は放っておくべきところか、とも思ったけど、でも【彼女】はプラムを放ってはおけなかった。だから今も諦めずに話しかける、叫び続ける。
気づいてくれるまで、気づかれるまで。
喉が裂けようとも、そんなことなど知ったことか、と言うように。
すると、
「あ……、みんな――」
プラムの瞳が、少しだけ大きくなり――そして水分を、含ませた。
【彼女】を見る――その瞬間を、どれだけ待っていたか。
――プラム、良かったぁ……やっと意識を戻してくれたのね!
「へ……意識……、わたし、気絶でもしてたの……?」
――別にそういうことじゃないんだけどね……でも、それに似たようなものだったよ。
気絶はしていないけど、目は開いているけどね、
こっちが話しかけても全然、反応してくれないから。
私達に反応しないくらい、いつもとは違う形で、プラムはずっと落ち込んでたんだよ?
「そう、だったんだ……ごめんね――なんか、心配かけちゃって」
――だと思っているのなら、きちんと全部、話してくれないかな。
私達はプラムから話を聞かないと、
プラムがどうしてそこまで落ち込んでいるのか、分からないからさ。
昨日、私達の気持ちを伝えたんだから、私達の存在を必死に信じさせようとしているわけではないってのは、まあ分かるけどさ――、だから尚更、読めない。
どうして落ち込んでいるのか、読めない――と、【彼女】は悔しそうに言った。
ここでは、読んでいなければいけないのに――読んでそして、元気づけるべきなのに。
それができないことに、自分に、苛立ちを覚える――。
そんな様子を声と雰囲気だけで感じ取ったプラムは、体を起動させる。座ってなまっていた体は、ぎしぎしと、まるでずっと置きっぱなしにしたまま、何年かぶりに動かした錆びついたロボットのような音がした気がするが、構わずに手を伸ばして【彼女】の体を触る。
それは刀身だったが――そのまま峰を、撫でる。
――……どうかしたの? いきなり、こんなこと。
「……いつもいつも、元気づけてくれてありがとうって気持ちを、手に込めてみました。
どう? 気持ち、良いのかな……?」
――ちょっと下手だけど、気持ち良いよ。
それは良かった――とプラムは撫で続ける。そして四往復したところで、プラムの方も頭の中でなにを話すか、なにから話すか、考えていた。自分が落ち込んでいる理由――そして目指すべきものを獲得してから発生した、障害の一つを――。
剣士のことを――。
そして、家族のことを――。
プラムは【彼女】だけではなく――この場にいるみんなに、全部を話した。
聞き終わり――ふうん、と【彼女】は一瞬だけ間を置いてから、
――なるほどねえ。
つまりプラムは、クードと戦ったことによって剣士になりたいという夢が生まれた。
それに向かってひたすらに走って行きたいけど、なにをするにしても、やっぱり家族に隠し事はできないと思って、プラムは家族に全部を話した――、
でも、当たり前のように反対された、と。そういうわけなのね。
そういうわけなの――と、プラムは溜息混じりに肯定した。
――まあ、家族の意見も、分からないわけでもないけどね。
だってそうでしょう? プラムは体が弱くて今までろくに運動をしてこなかったんだし。
そんなあなたが、いきなり剣士になりたいなんて言い出したら、そりゃ困るでしょうね。
そして必死に止めるでしょうね。まあこれに関しては、別にプラムではなくとも、普通の親ならば、剣士になることを進んでさせようとは思わないだろうけど――。
「え……どうして? 剣士って憧れの職業だから、人気は高いんだと思っていたけど……。
それに稼げるんでしょ? だからみんな、進んでやりたがると思っていたけど……」
――うん、まあそういう側面もあるけどね――。
でもね、それ以上に、一番、死ぬ可能性が高い職業が、剣士なのよ。
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