Darkee the Yankee【アメリカ系ダークエルフ】
プロローグ
第2話 少数精鋭の曲者集団
ルーリナは、世界のトレンドが電子諜報戦に移行することを予見し、この新たな次元の戦いに対する自前の戦力の強化を図った。
まず独学で、電子機器と言う新たな技術を身につけようと思ったが断念。
そんなタイミングで、コンピューターエンジニアの
青烏は、英系華人の女性で、天才的な電子工学のエンジニアで、ハッキング技術も有している。
そして、彼女が相棒と呼ぶ狗井・天は、気性の荒さと戦闘のセンスだけで名を上げた女で手足は電節の義手義足。身体は生体パーツで形成されており、内臓もより高性能な人工物に取り替えられている。
2人とルーリナの出会いは、企業軍のやり方に耐えられなくなった青烏が救援を求め、ルーリナは2人を日本の大企業から買い取ったのだった。
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2011年8月・太平洋上。
ルーリナ、青烏、狗井は、ルーリナの所有する貨物船『キュアアクア』にいた。
その船の中には、作戦司令室とも呼べる部屋が設けられている。
サーバと隔てられた青烏の作業スペース。ディスプレイやハードウェアの群生地の中から青烏が顔を覗かせて、狗井を探した。
「狗井、レンチンを頼んだエクレアは?」
青烏は、3台のディスプレイと2台のキーボードの間を生き来しながら、ソファで漫画を読んでいる狗井に尋ねた。
「あ……知らない……」
「あ、じゃなくてさ、私は頭脳労働者だから、糖分が必須なんだよ?」
「じゃあ、自分で行け」
「そうね。あなたのメモリーチップじゃあ、レンチンまでが限界なのかもね」
狗井の脳は基本的に普通の人間と変わらず、彼女は明確な意思を持って、自分が“青烏の雑用係でない”と態度で示したに過ぎない。
結局、青烏はワークチェアから立ち上がり、自らエクレアを取り出し、コーヒーメーカーを使うと、3本のコーヒーシュガー溶かして休憩に入った。
「仕事の質も生活の質も完璧
青烏が、程よく溶けたエクレアにフォークを刺した時、部屋のスライドドアがのプシューという音を立てて開き、ルーリナが入ってきた。
「アオ。なんか分かった?」
アオは、青烏の青の日本語読みからとった愛称。この名前で青烏を呼ぶのはルーリナと狗井だけ。
狗井は、ルーリナに声をかけられた瞬間に、青烏が非常に落胆した表情を浮かべるのを見逃さなかった。が、特に言及もしない。
青烏は、エクレアの最初の一口を慌てて口に放り込こむと報告に移った。
「あの吸血鬼の子。
青烏は、ソファの上を這い、作業ディスクの端に置かれた資料をルーリナに手渡した。
このエンジニアは、ルーリナの財産運営を主任務としつつも、ネット上を行き交うありとあらゆる情報から、ルーリナの要望を満たしている。
そして、彼女はたまたまルーリナと縁のある吸血鬼の情報を掴み、追求していたのだ。
「ありがとう」と短く答え、資料に目を落とした。
「なに? この子………性風俗の人?」
吸血鬼の手元の資料には、10代後半とおぼしき少女の肌色の多い自撮り写真が記載されていた。
「えーーっと、それは入れたタトゥーを見て欲しかったそうですが、まぁ、現代っ子は承認欲求に飢えてますからねぇ」
青烏は、やれやれと言った感じを隠さずに補足の説明をした。
「このおへそあたりのタトゥーは、ネコに見えますがぁ、日本の妖怪“ネコマタ”のモチーフです。アニメで流行ったで向こうでも意外と流行ってるみたいです。
次に、脇腹の変なやつ。これはおそらくマックス・ヘッドルーム事件のオマージュでしょう。電子機器に精通した知能犯気取りはだいたい彼を英雄視していますからね。
で、彼女が見せたかったのは左肩腕のやつは……」
「紳士服を来た小鬼?」
「えぇ、ほぼ正解です。“デーモン・デーモン”訳すなら鬼の小間使い。この場合は、ネット用語の情報処理プログラム“デイモン”ともかけてあります」
青烏は、それらの情報を個人の識別に見越して収集していた。
「さて、名前は、キーラ……アンデルセン?」
「アンダーソン。アメリカ人ですから」
ルーリナの手元にある資料には、吸血鬼の個人情報が全て載っていた。
キーラ・アンダーソン。1990年前半に、ニューヨーク州で生まれた吸血鬼で、性別は女性。髪は黒で目は青。年齢19歳。
この父親がルーリナと同じ系列から派生したの血を引いた吸血鬼で、母親も位こそ低いが吸血鬼だった。
「キーラは、スカレッタ家の直系眷属の
で、彼女自体は飛び級で大学に入ったり、18で電子、通信工学の博士号を取得した秀才で、そこまではいいけど、自信過剰な若いインテリらしく、ちょっと偏った思想を振りまいて………」
資料を読み上げ中、青烏の声は上擦り始め、ついに自身の胸をつかんでうずくまった。
「あ、アオ、大丈夫?」
「ごめん、ルー。たださ、あっはははは!
アンダーソンは、ラジオ電波を乗っ取ろうとして……くっ、ははっ!
盗聴探知業者に偶々見つかったんですよ!それで犯罪歴が加わったんです………雷に打たれる方がまだ確率高いですよ」
ルーリナは、キーラの存在を知った時点で、彼女を彼女自身が犯した罪から助けてあげようなどという事は一切考えはしない。
ただ、キーラに流れる名家の血筋に対しては、過剰に反応を示した。
「アオ。ソニー・スカレッタに連絡して、アメリカの“名誉ある社交会”の力を使って保護させるの。私はシエーラにアポを取ってみる」
「えっ!? 私がマフィアに電話するですかっ?!」
笑いながら流した涙を拭わずに、本当に嫌そうな顔を浮かべる青烏。
「分かった。私が2人とも連絡する」
まだ笑いを噛み殺している青烏を尻目に、ルーリナは電話を掴んだ。
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「ボンジュール! ルーだよ。
ルーリナは、その小さな手に有り余るゴツイ衛星電話を両手で保持していた。
「
ルーリナは、シエーラと68年のコンゴ以来数回ほど仕事を頼んだが、この電話は12年ぶりの会話になった。
「シエーラ。いきなりで悪いのだけどアメリカで一仕事頼めないかな?」
ルーリナの記憶では、シエーラはフランス・パリで一人暮らしをしていて、金と戦争の話を聞くと食事の途中でも駆けつける人物だったが………。
「………」
ルーリナは予想外にも、シエーラからの即答を得られず、不意の沈黙はシエーラの部屋に誰かの気配を感じとった。
「今回は断る。私は今マダム・シエーラなんだ。それに……また育児休暇を取る為の仕込みの最中なんだ。
……合衆国でしょ? あそこならベトナム統一戦争上がりの連中に当たりなさい」
驚愕のあまり電話を落としかけるルーリナ。
だが、彼女は持ち前の老獪な精神力で衝撃を抑え込み、体面を取り繕った。
「うーん……コネとかない?」
「そうね……。ローデシア軍にいた時のアメリカ人はかなり使えたけど………私も現場を離れてるからなんとも言えない」
「そっか、じゃあ、今回は他を当たるね」
「そうしてちょうだい、また———」
ピッ!
ルーリナは8年ぶりのシエーラを中途半端に切ってしまった事を後悔した。
だが、すぐに考えを切り替えて、ニューヨークの友人へと電話をかけ直した。
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