第54話 20's傭兵と70'傭兵

 隠れ家へと入った3人。


 そこは外見も内装も何の変哲もない倉庫でありながら、トレーラー1台と複数のSUVが格納されており、さらに山積みされた武器弾薬と機材の箱と武装した傭兵が用意されていた。


「おう! おかえり、キーラちゃん。それと、あんたらが………」


 倉庫に入ってすぐ、トレンチガンと言うあだ名を持つ古い型のショットガンを携えた巨漢が2人を出迎える。


 ヴィズは、スッとキーラの後ろに立ち、銃器をもった男に対して躊躇なくキーラを盾にする。

 キーラは、慌ててヴィズの過剰反応をそれを防いだ。


「た、ただいまです! ジャンガロさん。この人がヴィズさん。ヴィズ・パールフレアさんです。この長身の人が狗井・天さんです」


 強面のフランス人の巨漢は、道化師じみた大げさな動作で2人にお辞儀をして、狗井は会釈、ヴィズは無愛想に応えた。


「フランス訛りという事は、あのエルフの仲間?」


 ジャンガロは「ウィそうだ」と答え、指笛を吹く。


「大佐。3人が来たぞ」


フランス人がそう呼んでいる間に狗井がヴィズの耳元に囁いた。


「傭兵を雇ったと聞いたが、彼がそうか?」


「気持ち悪いから2度と私に囁くな。私が知るか。あんたの剣は飾りじゃないだろ? 試してみろよ」


 狗井が、不満からギリッと義歯を噛み合わせ、ヴィズは不快な音に耳を震わせる。


 そうしているうちに、積み上げられた木箱の迷路からアサルトライフルを携えたエルフの傭兵シエーラが姿を現した。


「久しぶり……ダークエルフ。それに狗井さん」


 シエーラはヴィズに歩み寄り、押し付けるようにしてアサルトライフルを手渡した。


ダーキーさんMs Dakeey。FN社製FALは扱える?」


 ヴィズは、銃を手に取り、慣れた手つきで操作部を吟味してから弾倉を取り外し、銃内に弾がない事を確かめる。

 その動作を見ながらシエーラはほっとしながら解説した。


「簡単に慣れそうね。7.62ミリ小銃弾を使う事と給弾をレバーで行う以外は、アーマーライトアメリカ製突撃銃と大差ない」


 ヴィズは話を聞きながら、射撃姿勢を作る。


「あぁ、ジャンルは同じで品種が違うだけだ。特に苦労はしないだろう」


 ヴィズは、ゆっくりと引き金の重さトリガープルを確かめ………。


カチン。


 空撃ちして、部品の作動部の確認を終えたダークエルフに、エルフがもう一つ尋ねた。


「それとトレンチガンならどっちが良い?」


「今回は、地下墓地、閉所での行動と聞いているが………そのショットガンの使用弾はなんだ? ダブルオー散弾?」


 ヴィズが気にしたのは、1発の薬莢からいくつの弾が放たれるかだった。

 

 トレンチガンを含むショットガンの弾には多様な種類があり、大まかには一つの薬莢から複数の小さな弾をばら撒く“散弾”と一つの薬莢に一つの巨大な弾丸を詰めた“スラッグ一粒弾”があった。


「いや、タングステンのフレシェット矢形スラッグ一粒弾。軍用の防弾チョッキでも、魔導士の盾でも抜けるヤツ」


 エルフの事務的な口調に、ダークエルフは、シニカルにため息をついて答える。


「スラッグ弾ならが強いだろうからライフルにする。

 私は、そいつトレンチガンスラムファイア意図的な暴発も苦手だからね」


 エルフは、気怠そうな声色で補足の説明を行う。


「キック……反動か。それなら確かにキック蹴りされるみたいに強い。

 ただ、今回は精密な作戦だ。スラムファイアは当然、フルオート連射も無し」


 そこで話に追いついたキーラがヴィズの前に出て彼女の鼻先に人差し指を立てる。


「そ、そうですよ! ヴィズさん! フルオートなんて当たりませんから、ダメなんです」


 ヴィズは、眉間に皺を寄せながらキーラの手を振り払った。


「キーラ。フルオート機能はね、相手に“頭を上げるな”って言葉で伝わない時の伝達手段なのよ」


シエーラもクスクスと笑って首肯した。


「そうね、フランス語だともう少し複雑で、“そこから出てくるな”、“動くようなら殺す”、なんて意味がある」


 そう言いながらマイク付きのヘッドセット型無線機をヴィズに手渡す。


「今回は、チームで動く。貴女も常にこのを身につけて」


 ヴィズがそれを受け取ると同時にキーラが腹を抱えて笑い始めた。


「ぷっ、あはははっ! ウォーキートーキーってなんですか。歩きながらウォーキー喋れるよートーキーって、あはははは」


 物資の並んだ倉庫の高い天井に吸血鬼少女の笑い声だけがこだました。


「パールフレア。なぜキーラちゃんは爆笑してるの??」


 困惑するシエーラに、ヴィズも「わけが分からない」と肩をすくめる。


 キーラの声につられて、他の傭兵たちも集まり始め、そうしてやっとキーラは涙を拭きながら息継ぎをした。


「すっごいマヌケな響きですよね。ウォーキー……あっはは、い、言えない」


 シエーラとヴィズは、色も形も似つかない目をしていながら、全く同じような冷たさでキーラを見つめ、疑問を溢す。


「ヴィズ、ウォーキートーキーって通じるわよね?」


「2人とも、や、めて、あっははは!」


「えぇ、私も通信兵より馴染みがある」


 シエーラは、1920年代から戦場で活躍し、一方もヴィズは70年代に従軍、シエーラの集めた傭兵たちも80年代後半から90年代に活動を始めた兵士だったので、この無線機の呼び方に違和感は覚えていない。


「シエーラ、私は初めてあなたと上手くやれそうな気がしてきた」


「そうね。パールフレア。シンパシーを感じるわ」

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