第23話 まさに地獄の特訓だった

「レイ様、朝です。起きてください」

「うーん、もうちょっとだけ……」

「あと、5秒で起きないと、私も一緒に寝ますよ」

「・・・!?起きます!」

「レイ様、おはようございます」

「ああ、フラン、おはよう」


 幸い昨日倒れた時のような体の重みはない。

 よかった、完全回復とはいかないだろうけど、ある程度は魔力も回復したみたいだ。


「本日の食事はこちらです」


 そう言って、フランはおにぎりのようなものを3つ渡してくる。


「フラン、これは?」

「おにぎりですよ。愛を込めて作りました」

「はいはい、でもなんでおにぎりなの?」

「レイ様は昨日、リリムさんと特訓があるとおっしゃっていたので、すぐに食べれるものを用意しました」


 やっぱりフランは気が利くな。

 これで、あの性格じゃなければ完璧なのに……

 俺はすぐに、おにぎりを食べて服を着替えてから、庭に向かった。

 あっ、もちろん、フランには部屋を出ていってもらってからだ。

 リリムさんはすでに庭で素振りをしている。


「リリムさん、おはようございます」

「レイさんおはようございます!早かったですね」

「いえいえ、リリムさんはいつからここにいたんですか?」

「だいたい、2時間ぐらい前ですかね?」

「えっ、でもまだ、朝の6時ですよ」

「はい、私は朝型なので早いんですよ。・・・それじゃあ、レイさん特訓始めますか?」

「はい!ぜひよろしくお願いします!」

「ええ!厳しく、ビシバシと行きますよ!」

「お手柔らかにお願いします」


 ・・・・・・


「じゃあ、まずこの世界にある武術について説明しますね」

「はい!」

「この世界の武術は、紅龍派と青龍派と二つに分かれています。どちらも全く別物の武術ですね」

「リリムさんはどっちなんですか?」

「私は両方使えるので2つの流派を組み合わせた黒龍派ですね。ちなみに、レイさんには私と同じ黒龍派を目指してもらおうと思っています」

「それって、、、」

「はい、レイさんには、紅龍派と青龍派を7日ずつ、黒龍派を10日でマスターしてもらいます」

「そんなことできるんですか?」

「ふつうはできません。ですが、レイさんの才能と血反吐を吐くような努力があれば可能だと思います」

「が、頑張ります」

「はい!じゃあ、時間ももったいないので、紅龍派から始めます」

「はい」

「紅龍派の武術は一言で言うと『柔』ですね」

「柔?」

「はい。相手の力を受け流したり、利用したりする技のことです。これを身につけると、相手の攻撃を体で自然に受け流せるようになります。特訓の仕方は説明するより見てもらったほうが早いので、見ておいてください」


 リリムさんは俺の服をつかんで、そのまま前へ引っ張った。

 俺は倒されないように後ろに力を入れて抵抗する。

 っと、次の瞬間、俺のあたりの景色が一回転した。

 目の前にはきれいな青空が広がっている。


 ・・・俺ってもしかして投げられた?

 あの一瞬で?体が全然反応できなかった。

 リリムさんは俺の顔を上からのぞき込む。


「今のが、紅龍派武術の『投げ』です。どうでしたか?」

「全然反応できませんでした」

「じゃあ、レイさんにはこれの防ぎ方を教えます。とりあえずさっきの私と同じようにしてください」


 今度は俺がリリムさんの服を前へ引っ張った。


「レイさんはさっき、ここで後ろに力を入れて投げられちゃいましたよね」

「はい」


 そしてその体勢のまま、リリムさんは説明を始める。

 ・・・集中しろ俺、

 ・・・リリムさんの豊満な胸によってできる谷間が見えるけど、気にするな。

 今は特訓中なんだ。


「ここで、後ろに力を入れるのでは無くて、下に力を入れるんですよ。イメージはそうですね。自分を地面に立っているポールだと思ってください。それじゃあ、レイさんもっと強く引っ張ってみてください」


 無心だ、無心。相手を女性だと思い込むな。

 俺はリリムさんの言った通り今より力を入れて引っ張った。

 あれっ?全然動かない、っていうか固い。

 本当にポールを引っ張っているみたいだ。


「どうですか?」

「全然動きません」

「はい。これが『受け』です。『投げ』と『受け』この二つを使いこなせるようになれば、紅龍派は卒業です!じゃあ、とりあえず、私がレイさんを1万回投げます。レイさんは、その全部を私の言った方法で防いでください」

「え、ちょっと待って・・・ガハッ」


 突如、俺の背中にすさまじい衝撃が襲い掛かった。

 肺の中の空気が吐き出される。


「さあ、立ち上がってください。時間は有限ですよ」


 俺は、立ち上がり地面に力を込めた。

 しかし、そんな努力もむなしく投げられる。

 あれっ、さっきよりも衝撃が減っているような気がする。


 ・・・・・・


 そこからは地獄だった。

 俺はひたすらリリムさんに投げられ、そのたびに地面にたたきつけられる。

 そのため、今はもう背中の感覚がほとんど残っていない。

 辺りはもうすでに暗くなっている。


「はい!1万回目です。今日の特訓はこれで終わりです。お疲れさまでした」

「・・・はい」

「では、また明日も同じ時間に来てください」

「はい」


 そう言うと、リリムさんは城に戻っていった。

 俺はその場にたたずむ。

 今までやったどんな訓練よりもつらい。

 でも、たくさん投げられたことにより、『受け』について、何かつかめたような気がする。

 しばらくして、背中の痛みがある程度引いたので、俺は部屋に戻った。

 部屋にはおにぎりと書き置きが置いてあった。


『レイ様、特訓お疲れ様です。私は少し仕事が残っているので今日はもう会えませんが、明日の朝、また起こしに行きます。お腹が減っているだろうと思って、おにぎりを作っておきました。よかったら食べておいてください。 フラン』


 俺は、フランの作ってくれたおにぎりをしっかりと味わって食べた。

 ・・・うん。普通においしい。

 疲れていた体が回復していったような気がした。

 気のせいだよね?


 俺は、起き上がっているのも限界になり、眠りについた。

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妹の命と引き換えに転生した俺は、どうやら異世界も救っちゃうみたいです。 赤星怜 @ZERO248

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