終わりの後につづくもの
しえず
アリス
がちり、となにかがはまる音がして、何かが聞こえ始めた。
「アリス。君が生き残ることを祈って、私はこれを残すことにした。聞いてくれると嬉しい」
「君は選ばれた。新天地で生き抜くためのテストに合格したんだ」
「どこにたどり着くのかは知らないが、きっといいところだろう。食料に困ることも、争いが続くこともない」
「君は、優秀だから、なにかに躓いても問題なく生きていけるはずだ」
「生きてくれ、最期まで。君が、人類最後の希望なのだから」
「さようなら。もう出発の時間が近い。私は、これまでだ」
「どうか、幸あら――」
塊を何かが巻き取った。子供の手から引き離され、塊から再びがちりという音が聞こえる。元の形に戻ったそれを手にしていたのは、大きな蜥蜴だった。
銅色の鱗に、穏やかな黄色い目、太いよっつの足には、鋭くがっしりとした爪が備わっている。塊を掴んでいるのは、彼の口からのびた舌だった。
【ママ!】
子供が高い声で、蜥蜴をそう呼び、走り出す。蜥蜴に抱きついて、頬ずりをして嬉しそうに笑い声をあげた。柔らかい子供に、蜥蜴がそっと頬を寄せる。傷つけないように、と、壊れ物でも触るかのように。
【おかえり。これはどうしたの?】
【ん、わかんない! あそこに落ちていたよ】
蜥蜴は、子供の青い目につられてそちらを見やる。肌色の指が示したそこには、大きな草むら。
緑の合間に、銀色と錆色を混ぜた側面が見え隠れする。蜥蜴は、近づいて、舌をそれに触れさせた。大きな鉄の塊だ。なにかの残骸を根城に、植物が根を張ったのだろう。よく見れば、ごろごろと似たような塊が、散らばっており、元は大きな一つだったのだろうと予感させる。
一歩後ずさる。ふと、視界の端にきらりと光る物があった。太い尻尾が緑を探る。ぐいっと持ち上げたと同時にぶちぶちと巻き付いてたものが落ちていった。
日にさらされたのは、小さな鎖とその先についた板のようなもの。手元にもってきて覗き込んでいると、視界に小さな手が入り込む。興味津々の子供に、それを任せれば、器用にその板の隙間に指を差し込んで重なっていたらしい一枚をぺろりと剥がしてしまった。
子供が歓声をあげる。
【どうした?】
【んとね、なんかきれーなのがあった!】
子供が示したそこには、金色の髪と青い目をした柔らかそうな生き物と、それに寄り添う似たような生き物が描かれていた。もう一体は、何かで削れてしまったのだろう、顔とおぼしき部分が欠けてしまっていて、よく分からなかったが、おそらく似た種族だ。
子供は、拙いながらも、蜥蜴にそこまで説明をする。
【きれーだねー】
そう言って、子供は、それをそっと握りしめた。にこにこと微笑んで、大事そうに撫でている。蜥蜴は、その掌の上に舌を伸ばしてそっと撫でた。
【…アリス。そろそろ帰ろう】
とんとん、と合図を送り、子供の指から力が抜けたと同時に中のそれを抜き出す。はっとした子供が手を伸ばす前に、蜥蜴はそれを子供の首にかけた。
【ほしいんだろう。なくさないようにしなさい】
【うん! ありがとう、ママ!】
呆然としていた子供は、蜥蜴に抱きつく。硬い皮膚に怯むことなく、頬ずりをした。
終わりの後につづくもの しえず @lunasya
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