変わったもの

綿麻きぬ

大人と子供

 僕は大人になった。大人になったと思いたい。だけど、まだ子供で大人になりきれてない。そして大人で子供から卒業出来てない。


 そんな僕は帰り道に歩いてきた道を振り返る。ふと後ろを向いたが、そこに何が存在しているのだろうか。変わらないと思ってきたものはもう変わってしまったのだろうか。


 子供の頃を思い出す。


 学校の帰り道に友達と小銭を握りしめ、駄菓子屋でワクワクしながらお菓子を選んだ。早起きして生き物を採集しにいった。すれ違う大人を通して、夢を見た。


 それが今はどうなだろうか。


 会社の帰り道に一人でお札を握りしめ、コンビニで安いお酒を大量に買う。そして日々の不安を消すように浴びるように飲む。早起きなどなくなり、徹夜が増えた。自分以外の生き物はもう何年も見ていない。そして鏡の自分を見て、これは夢だと思い込む。


 子供のころに見ていた大人は僕みたいな大人だったのだろうか。大人になるってこういうことなのだろうか。


 そういや、小さい時に大人になることとは何かを聞いたことがあった。


 ある人は「出来ないことが分かるようになること」と言い、別の人は「子供ではないこと」と言う。他にも「好き『だった』ものができること」「時が経てばなれるもの」などの様々な答えが返ってきた。


 どれも抽象的で当時は分からなかった。だけど今は分かる。どれも違く、どれも正しいことが。


 それを思い出した僕は一つ、僕の中で大人になるということがどういうことかの答えが出た。


 それは「変わらないものを追いかけて、ふと通ってきた道を見たら変わったものしか落ちていなかった」ことに気づいたときだろう。


 僕は今、それに気づいたような気がした。それに気づいてしまったらもう大人だ。夢を見てはいけない、現実を見なければいけない大人になってしまう。


 だからそっと見なかった振りをした。まだ大人と子供の境目で漂っていたい。そう思った僕は小銭を握りしめ、生き物を見つけ、コンビニに安酒を買いに行くのだ。

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変わったもの 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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