第1章 3話

「うっ…。まだ体が痛い。」

俺は昨日の痛みがまだ残っており、早く起きた朝を直ぐに動けず過ごしていた。

因みに怪我した左腕腕は血も止まり、傷痕が残っているだけ。

いつもより早く寝たから、早く目が覚めたのに勿体ない。

そんな感じでベッドから半身起こした状態で、ボーッと窓の外を眺めていた。

良い天気だな…。

今日はアイリが用事で来れないみたいだし、動けるようになったら散歩でもしてみようかな。

明日は魔術を教えてくれる人の所に、行くみたいだし。

よし。

貰ったお茶でも飲んで、ちょっとでも動けるようにしないとな。

痛みを庇いながらでなんとかベッドを降り、台所に向かった。


確かこの火石で火を着けるんだよな。

アイリから使い方を教えて貰った様に、火石を2個持ちマッチをする様にして…。

熱を持った方の火石を、この特殊加工された紙の中央に押し当てて。

すると火が着き、「おー。」と一人で感動する。

ちなみに、この紙が燃え尽きると火が消えるらしい。

途中で消したくなったら、確か水を掛ければ良いとか。

さて、お湯を沸かそう。


「はー…。やっぱり、お茶はいいね。」

貰ったお茶は緑茶に似た味で、少し濃いめのお茶を飲んでいる感じだった。

早く、日本に帰りたいな…。

「ん?」

染々してたら、窓から何者かの気配を感じた。

窓の方に向かうと、目が合った。

子供が覗いてた。

幼稚園年長か、小学低学年位かな…?

その子はニコッと笑い、窓を「あーけーてー。」と言わんばかりに窓を叩いてきた。

あまりにも何度も叩くものだから、俺は諦めて窓を開ける。

「おにーちゃん。遊ぼう!」

その子は元気良く、言ってきた。

そして勝手にそのまま窓から家の中に侵入し、俺が飲んでいたお茶を「苦いよー。」って一口飲み。

おーい、子供よ。

自分の家じゃ無いんだよー。

「おにーちゃん。お腹空いたよ。」

更に食事を要求するとか、何様なんだよこのお子様は。

「ちょっと僕ね。人家(ひとんち)に勝手に上がってきて、人の物に触るのはよくないね。」

俺は諭すように、子供に言う。

「えー僕、おにーちゃんと遊びたいんだもん。」

子供に、話が通じるわけ無いよな…。

どうしよう…。


「ねー、おにーちゃん。僕ね、ルーミエって言うんだ。おにいちゃんは?」

「朱里だけど…。」

「シュリおにーちゃん。お腹空いた。」

自己紹介で終るかと思ったのに、そこに戻るか…。

「ルーミエは、朝御飯食べてないの?」

「うん、食べてないよ!」

ルーミエは、元気に答える。

もしかして家が貧乏とか、親がいないとか…。

確かに服とかちょっと破けてるし、靴は誰かの御下がりで大きいのを無理やり履いてる感じだし。

何か、可哀想になってきた。

「そうか、そうか。分かった。おにいちゃんが、食べさせてあげよう。」

そう言うと、俺はアイリが置いてくれてた食材を適当に使い料理を始めた。


先に卵を茹でて、ゆで卵を作って。

ゆで卵を冷やしてる間に、野菜とソーセージみたいなのを煮込んで、適当に味付けてポトフにして。

野菜たっぷりにしたから、これで腹は満たせるだろう。

卵で、たんぱく質も取れるだろうし。

「さあ、ルーミエ。ご飯だ。」

俺がルーミエの前にご飯を置くと、「おいしーよー。」っと、がっつくように食べたした。

よっぽど、お腹空いてたんだろうな…。


「ルーミエ。君はこの近くに住んでるのかい?」

「うん。ここからちょっと歩いたら、お家があるんだ。」

「お父さんか、お母さんは今日いないの?」

「お父さんは、お仕事でずっといないよ。お母さんもお仕事に行ってるけど、夜帰ってくるんだ。」

「じゃあ、ルーミエは今は一人か…。」

「うん。でも、シュリおにーちゃんがいるよ。」

何、この子。

そんなん言われたら、キュンってしちゃうよおにいちゃん。

「ねえ、シュリおにーちゃん。おにーちゃんは、何処から来たの?」

「何処からと言われたら…。」

うーん、どう返したら良いものやら…。

とりあえず無難に「遠い所から、ここに来たんだよ。」って、返した。

「そっか…。じゃあ、又遊びに来て良い?」

「おう、又おいで。…あっ、そうだルーミエ。ちょっと散歩しないかい?」

俺は散歩しようとした事を思いだし、ルーミエに提案した。

一人でボーッと歩くよりは、良いかなと思って。


俺は、ルーミエと一緒に外に出た。

こっちに来てから何回か外出したけど、いつも目的地があってそこに急いで行ってたから、ゆっくり家の回りを見る事無かったんだよな…。

俺は改めて家の回りを見渡す。

今住んでいる家が丘の上にあり、回りに高い建物も無いから見晴らしが良い。

すぐ回りには他に家はなく、丘をちょっと降りた辺りからぽつぽつと家が見えてくる。

更にその先に、繁華街が見えてくる。

キウやセウスの家が、その方向になる。

そして奥に、現実では見たことのないお城が遠目でも分かるように見える。


「おにーちゃん。こっち来て。」

先に丘を下ろうとしている、ルーミエが手招きしてくる。

「走ると、危ないぞ。」

「早く来て。」

ゆっくり歩く俺を、ルーミエは急かす。

「はい、はい。」

ルーミエは俺が近くに来ると、俺の手を握り「あっちに、僕のお家があるの。」っと、指を指した。

その指先を見ると、繁華街とは違う方向にある集落を指しており田畑が広がっていた。

そしてその先に、こじんまりとした森が見える。

森を見ていたらルーミエが俺の手を引っ張り、その方向を目指して歩きだした。


「ルーミエ。又、誰か捕まえて来たのかい?」

ルーミエに引かれて歩いた先で、農作業していたおばさんに声を掛けられた。

「あんた、見たこと事ない顔だね。」

ちょっと強面な顔で、おばさんが俺に話しかけてくる。

「はっ、初めまして。朱里って言います。えっと…、最近越してきまして…。あの家に住んでます。」

俺はちょっと緊張しながらそう言い、自分が歩いてきた方角を指差した。

「ふ~ん…。あの家に住んでるって事は、キウ様の知り合いか何かかい?」

「えっと、知り合いです!」

なんか、このおばさん緊張する~。

「そうかい。」

一瞬、沈黙が流れる。

「ねえ、おばちゃん!今日はご飯いらないよ。」

静けさを急に割るように、ルーミエが話し出す。

「そうかい。今日はどこで食べて来たんだい?」

「シュリおにーちゃんが、ご飯くれたの。美味しかった。」

「そうかい、そうかい。」

おばさんはルーミエ頭を撫でながら、そう答えた。

「えへ~。」

ルーミエは、ニコニコしながら笑っていた。

「あっ、おじちゃんだ。」

ルーミエは知り合いのおじさんを見つけたようで、そこに向かって走っていった。

「ルーミエは、元気だね。」って、おじさんの声が聞こえてきた。


「あんた、ありがとね。あの子にご飯食べさせてくれて。」

さっきルーミエに向けた穏やかな顔で、おばさんは話しかけてきた。

「いえ、大した事してないですよ。」

「いや…あの子にとっては、大した事なんだよ…。…あの子はね…。」

そう言い、おばさんがルーミエについて話し出した。


ルーミエからも聞いていたとおりに、一緒に住んでいるのは母親だけで日中は仕事で家に居らず、ルーミエは一人で過ごしている。

父親は2年位前に知り合いの仕事を手伝う為に出てから、一度も帰っていない。

最初は手紙やお金が送られてきていたが、今はそれも途絶えて安否も分からない状態であると。

この状況で生きるために母親は日中仕事に追われ、ルーミエを仕方なく一人にせざるをえない状況になり…。

それに見かねた近所のおばさん達が、せめてとご飯を食べさせている。

もちろん、母親もちゃんとルーミエの食事は準備して仕事に出ている。

だがギリギリの生活の為、準備する量が少なく母親自身が食事を満足に取れない状況の為、回りの人達がルーミエの分をフォローして、母親が少しでも食べれるようにと回りが支えている。

日中仕事に出てても資格等なく働いている母親は、父親が稼いでいた分の半分も稼げていない状況で。

回りの人達は農業などの産業を主に生活しているため、食材を少しあげる余裕はあるらしい。


後、回りには同じ位の年代の子供も近くには居らず、ちょっと前までよく遊んでくれていた青年がいたようだが、その人がこの土地を離れて寂しい思いをしてるようで。

だから誰かに相手をして貰おうと、知らない人でも声を掛けまくってるらしい。

最近だとキウさんやアイリにも声を掛けていたようで、キウさんから近々俺が引っ越してくる事を聞き楽しみにしていたようだと。

だから、あんな必死に窓を叩いていたのね…。

と言うか、俺が勇者って事は伏せてるけど、俺の存在は隠さなくていいのか…。

そもそも、あんな目立つ所にある家に住む時点で隠すとか論外だろうけど…。


「だから、これからもあの子の相手をしてやってはくれないかい?」

ルーミエの事情を聞いた俺は反対する気もなく、「もちろんです。」と即答した。

「ありがとね。」

おばさんは、虫を追いかけて遊ぶルーミエを見ながら言う。

その視線に気付いたのかルーミエはこっちを向き、満面な笑顔を振り撒き手を振る。

こんなに可愛らしい子が小さい時から寂しい思いをするなんて、なんて世知辛い世界なんだろうと俺は悔しくなり、拳を握りしめていた。

俺が勇者としての責を果たせれたら、ルーミエみたいな子供達にも希望の光みたいなのが見えるのだろうか…。

そもそも、魔王退治がこの国の経済的面でどう影響するのかは分からないけど。

とりあえず、国が無くなって貧困者が増えるってのは避けられるのかな?


「おにーちゃん?どこか痛いの?」

俺は難しい顔をしていたようで、ルーミエが心配そうな顔をしながら声をかけてきた。

「大丈夫、大丈夫。どこも痛くないよ。」

「よかったー。そうだ、あっち行こー。」

ルーミエは又手を引っ張ってきた。

「分かった、分かった。えっと…。」

「あー、行っといで。良かったら、又ルーミエの相手ついでに寄ってくれ。」

「はい。又来ます。では、失礼します。」

俺はおばさんに一礼し、ルーミエに引っ張られその場を後にした。


「えっとね…、こっちが川。こっちが、お花畑。それにね…。」

ルーミエは、色んな所を指差しながら説明してくれた。


「あとね…。ここが森。妖精さんが住んでるんだって。」

丘の上から見えた森か。

「えっ!妖精!」

ファンタジックな用語に、俺は何かウキウキした。

「その妖精さんには、森の中に行ったら会えるのかな?」

「森の中には入れないよ。見てみて。」

ルーミエが指差す方を見た。

確かに森自体は大きくなさそうだけど、回りが水堀になっていてギリギリ飛び越えには難しそうな距離で…。

「残念。妖精見たかったな。」

「僕も妖精さん見たくて、お水の中入ったら溺れちゃって。」

てへって、ルーミエ…。

ルーミエから目を離さないように気を付けないと…。

でも、いつか妖精見てみたいな。

なんて思いを馳せてたら、夕暮れ時になっていたのに気付いた。

そろそろルーミエのお母さんが帰って来るだろうし、家まで送ろうかな。

「ルーミエ。そろそろ、帰ろうか。お母さん帰ってくるだろうし。家まで一緒に行こうか。」

「うん。」

ルーミエはそう言うと、俺の手を握り「こっち、こっち。」と歩きだした。


ルーミエの家までは、森から体感で10分程歩いた所にあった。

「おかーさん。」

ルーミエは、洗濯物を取り込んでいる母親を見つけ大きく手を振っている。

そこには、薄幸美人とも思わしき雰囲気の女性が立っていた。

「ルーミエ。今度は、誰を連れてきたの。」

「シュリおにーちゃん。あの家に住んでるの。ご飯に食べさせてもらったよ。」

「あの家?…キウ様のお客さんかしら?」

ルーミエの母は、家の方角を一瞬見て俺の方を見直す。

「えっと…、初めまして。ルーミエの母です。今日はあの子の相手して頂いて、ありがとうございます。」

「初めまして、朱里です。俺の方こそ、色々案内して貰ったので助かりました。じゃあ、ルーミエまたな。」

一礼をして話しかけてきたルーミエの母とルーミエにそう返し、その場を後にしようとした。

「あの、シュリさん…。迷惑じゃなければ、ルーミエの友達になって貰えないですか?」

「もちろん。既に友達と思っていたので。」

俺は満面の笑みでそう言い、今度暇な時に朝家まで行く事を約束し家路に着いた。


さあ、明日は魔術の先生の所か…。

何か緊張するわ…。

剣術が今一つだったから、魔術の才能でもあれば良いけど…。

などと考えながら、眠りについた。

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期(とき)の色はいつも優しい、物語 はるさき @syunouka

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