第38話「確定した脅威」
改めてパソコンで裏サイトへアクセスした
「動画共有サイトに上げている訳ではなく、直接、動画ファイルをダウンロードさせられるタイプだネ」
この動画のダウンロードは
「罠を仕掛けるなら、ここも可能性があるネ」
――こちらの所在を知られる可能性があるのは
慎重さが求められる所なのだが、ひょいと隣から孝代が手を伸ばすと、
「あ!?」
冷静な彩子が思わず
孝代の考えは至って簡単。
「どうせ、もう杉本さんがダウンロードしているんでしょ? 同じですよ」
ただし孝代も口調ほど簡単に考えての行動ではない。彩子の
「見た方が、情報を得られるだけ有利ですよ」
そういう理屈の孝代へ、彩子は溜息しか
「杉本サンだけで済むとは思わなかったのカイ?」
とはいえ、もう遅い。罠が想定されるのはダウンロードという行為そのものにもある。最早、毒食らわば皿まで、だ。
「まぁ、見てみるとしましょうカ」
ダウンロードしたファイルをダブルクリックした彩子は、小難しそうな表情を強めてしまう。
「コレは……、車内?」
彩子に小首をかしがせる程、車の後部座席からドライバーを映している動画は平穏で、想像していたような惨劇から始まっていない。
「後部座席カ。ワンボックスカーだネ」
フロントガラスから見える視線の高さから車種を特定できたが、彩子も映像から判断できる事はそれの程度だった。
しかしアングルがスーッと移動し、運転手の男が入ると、彩子は眉を顰める。
「んん?」
助手席に脱いだジャケットを置いている運転手は四十絡みの男で、その姿には彩子も孝代も見覚えがない。
「何でしょうね?」
孝代も目を
――サイ子さんに分からないなら、私がわかるわけもないか。
孝代が目を師へと移しても、その師の横顔にヒントや答えはない。
答えは、動画の中だ。
彩子は思わず腰を浮かせる。
「あ!」
発見したのだ。
「これを撮っているのが、続木律子ダヨ!」
姿はまるで見えなくとも確信した彩子は、動画の中で運転手へと伸ばされた手を指す。
動画の中で、運転者が声をあげる。
「ん!?」
運転手の眼前に伸ばされた手にはスマートフォンがあり、そこに映っているものが声をあげた原因だ。
――何が映っていル?
目を凝らす彩子だが、流石にスマートフォンの画面は小さすぎる。
辛うじて分かったのは、スマートフォンに映っているものは、画像が少なく、テキストが多い事くらい。
――SNSカ? いや、ブログ?
その判断は難しかったし、何よりも時間が少ない。
画像の中では事態が展開し始めたのだから。
聞こえてくるのは女の声。
「武士が貴族の極位に着く事がどれ程、画期的な事か、感受性のない人には分からないんですね」
スマートフォンを持つ手の主が口にした言葉は、孝代と彩子には意味が分からなかったが、運転席の男には分かった。
「!」
男の視線がルームミラーへ向けられると同時に、後部座席から身を乗り出す女が。孝代もハッキリとわかる。
「この人……!」
続木律子。
男の背後から手を伸ばした律子は、思い切りハンドルを左に切ったのだ。
「――!」
男の悲鳴はノイズ混じりになり、続いて車が壁に激突したドンッという低く重たい音で動画は終わった。
「……」
彩子は大きく溜息を吐いた後、マウスをスマートフォンに持ち替える。
――杉本サン、動画を私と山脇サンも見ました。
時男へ送ったメッセージの返信は早かった。
――もう一つ、見せておきたいものがある。
そのメッセージの後、送られてきたのは新聞。孝代もスマートフォンに表示させた新聞は、つい先日の日付だった。
「事故の記事ですか?」
ただの事故ではない。
時男が送ってきた自動車事故の記事には、《霊》が関わった事件特有の不自然さがあった。
――このワンボックスカーに乗っていた男の死亡事故じゃ。動画に映っていた車外の景色から場所を特定し、事故の記事へとたどり着いた。
時男が示した記事には、見通しのいい直線道路で起きた不可解な事故と書かれている。
――見通しの良さ、直線道路、そして深夜であった事とを考え、スピードの出し過ぎと居眠り運転の疑いで調査している、という事じゃがな。
この動画を見る限り、居眠り運転ではない。
そして記事には、死亡者は
――続木律子は死んでおらん。死ぬような大事故を起こして尚、な。
時男が告げている事実は……、
――
最も恐るべき霊になったという事だ。
そしてもう一つ、彩子は見つけてしまう。
――そして、どうやら小4の仕返しだけじゃなくなったみたいですネ。
死んだ男は、律子とはまるで世代の違う事を、彩子は見ていた。
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