第1章:匣の繭(第一話)

「ただいまぁ」


マンションの扉を開け、少し大きめの声で暗闇に向かって声をかける。

都会の一人暮らし。

自然と身についた仕草が、自分でも滑稽だとは思いつつも習慣となっているので今更辞められない。

当然、返事が返ってくるわけでもなく発した言葉は闇に溶けていく。

ふぅ、と小さく安堵にも似たため息をつき、パンプスを片手で脱ぎながら、玄関の電気をつけて振り返りざまに鍵とチェーンをかける。

チェーンをかけるかちゃり、という音が、私と世界を切り離してくれる。


コップに水を汲むのももどかしく、10歩にも満たない廊下を渡り、

パソコン台の前に立つと、コップも置かず電源を入れる。


ブゥン・・と起動音が響く。

無機質な音。

真っ暗な部屋に、目を射るような光が灯る。

標準アプリ以外何もないデスクトップにひとつ。

私の世界の入り口がある。

慣れた手つきでそれをダブルクリックし、漸く私は肩にかけた鞄をサイドテーブルに置く。

手に持ったコップの水を一気に飲み干し、私は漸くスーツの上着を脱ぐ。

椅子に座る時間も惜しい。

ローディングの時間を待つ間に、スーツを脱ぎ室内着をまとう。

鞄からお弁当箱を取り出し、キッチンのシンクに投げる。

買ってきたサンドイッチとミルクティをキーボードの横に置く。


画面がログイン画面に変わる。

キャラクターを選択し、クリックする。


私の、本当の一日が、始まる。

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繭の中 Ryi @noveryi

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