第49話 二組の双子達
産後、私は、生まれた双子達と共に、離宮で過ごしている。
そんな私達の様子を伺いに、陛下は毎日足繁く離宮へ通ってくださっていた。
いわゆる、柵に覆われた安全な『ベビーベッド』というものを、技師に依頼して作っておいてもらったので、子供達の生活の場所はまだその中が中心である。
それから、授乳について。
これは、前の世界で子を産んだことはなくても、『初乳』は赤ちゃんにとって必要なものである、という知識くらいは、頭の片隅にあったので、まだ暫く自分で乳をやる、と宣言して、自ら授乳中だ。
こちらの世界の、魔族も、同じように体が作られているかはわからないものの、可能性としてありうるならば、出来れば子供達にとって、良い方を選んであげたい。
子供達の名前は、陛下が名を考え、そして、私に了解をとってから、決定した。
男の子は、バアル、女の子は、ヴィネと名付けられた。
生まれた双子は、日が過ぎるほどに、その容姿の違いがはっきりしてくる。
「バアルは私にそっくりだな。黒髪に金の瞳、そして、三つのツノ」
陛下が、ベビーベッドで眠るバアルのまだ小さなツノを撫でる。
「陛下と同じく、三つということは、後継者の証とかなのですか?」
魔族領には、陛下以外には三つのツノを持つ者はいない。だから、魔王であることが三つのツノを所有する条件なのかと思っていたが、生まれてきた我が子の一人には、既に三つのツノが生えていたのだ。
「後天的に三本目が生える者もいるのだが……。バアルは、生まれながらに、次の王であると宣言して生まれてきたようなものだな」
なるほど、『三本のツノ』にも色々あるらしい。
「そうすると、『王太子である』と自ら宣言しているようなものなのですかね。……あまり、傲慢な性格にならないように躾けないと……」
私は、少し、バアルの今後の性格の現れ方に不安を覚えた。
「国を治める者に、多少の傲慢さも必要になる。だが、ユリア、其方が愛情深く育てるのであろう? それであれば、優しさを兼ね備えた、良い子に育つだろう」
そう言って、ソファに座っていた私の元にやって来て、軽く口付けをされた。
もう一人の子、ヴィネ。
この女の子は、魔族化した私にそっくりの容姿をしている。
銀の髪に、瞳は陛下の色を継いで金色、ツノは私と同じく二つで、白く輝く小さなパールのよう。
「この子はユリアにそっくりで、愛らしい子に育つだろうなあ」
そう言って、バアルの時とは違い、ヴィネを抱き上げてあやす陛下。
別に分け隔てなく、子を愛してくださるけれど、男親は娘に甘い、というのを体現しているようだ。
ところが、ある日のこと。
人の国でも、王妃殿下が、男女の双子の赤子を母子ともに無事に出産したとの報が届けられた。
その話題が広まるにつれ、まるで運命のように、同時期に生まれて来た二組の双子の王子と王女。
これは、互いに婚姻を結ぶのが、自然なのではないか、とか。
婚姻によって、さらに両国の間の結びつきが……! などと、勝手な期待の声が上がって来たのだ。
「ふざけるな! ヴィネを嫁になどやらん!」
陛下がヴィネを抱きながら、激昂していた。
ーー陛下、それでは、ヴィネがいかず後家になってしまいますよ(汗)
「陛下、ヴィネもいずれは娘に育ち、嫁にゆく日が来るのですよ。それが、この子の娘としての幸せでしょう?」
そう言って、私は、ヴィネを抱いている陛下の側に歩み寄り、抱かれているヴィネの髪を撫でる。
次に、一人でベビーベッドに残されて、ぐずり出したバアルを抱っこするために、そちらへ行く。
「ね、バアル。あなたも、勝手に結婚を決められるのは嫌よね? でもいつか、素敵なお嬢さんと結婚したいわよね?」
私に抱き上げられて、泣き出す前に抱かれたバアルは、そのくりくりと大きな金色の目を、パチクリさせて私をじっと見る。
「……バアルも、ヴィネも、まだ生まれたばかり。親の決める婚約はまだ早いと言いたかっただけだ」
少し照れたような顔をして、陛下が顔を背ける。
だから、私は、バアルを抱っこしたまま、陛下のおそばへとゆっくり戻る。
「バアルも、ヴィネも。いつか、自分で素敵な相手を選びますよ。そのきっかけが、婚約の場合もあるかもしれません。……私達のように、ね?」
そう言って、笑って陛下を見上げると、陛下も私を見て、微笑んでくれた。
「ああ、そうだな。まあ、まだ気は早いが……、いつか良い相手と一緒になって欲しいものだ。二人とも」
そう言って、陛下は、私と双子の三人の頬や額に順に口付けをする。
ーー私達は、とても幸福だ。
【WEB版】捨てられ聖女ですが、今さら戻れと言われてもお断りです!〜婚約破棄されたので、魔王城でスローライフを満喫します〜 yocco @yocco_
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