第18話
次の日の早朝。
冒険者ギルド内はたくさんの人が仕事やパーティー探しで賑わっている。
大男は早朝から冒険者ギルドの掲示板で自分が貼った紙をそれとなく見張っていた。
「─んぉ?ラナ荷物持ちいた?こっちに張り紙あったよ!」
「ううん。じゃあその人と交渉ね」
女性冒険者が大男が貼った紙を剥がす。
「はいは〜い!黄色い紙のキッタナイ文字で荷物持ちやるって書いた人いるー??荷物持ちのひとー?」
「ちょっ...!メイリっ!」
「...」
...俺だ。
大男は女性二人組に手を振り自分だと主張する。
「─お?ん?...ん?...うげっ...!
「っ、失礼よ...!メイリ。とりあえず話だけでも聞いてみましょ。格安で請け負ってくれるかもしれないよ?」
嫌悪感を隠そうともしないメイリを小声で注意したラナは大男へと向う。
「えぇ〜?本気ぃ?!」
「─こんにちは。貴方が荷物持ちをやってくれるということで間違いないわよね?」
美しい黒髪ロングのラナは大男に問いかける。
「...」
大男は頷く。
「おじさーん、どのくらい運べるの?」
ラナの背後からひょっこりと顔を出すメイリが今度は問いかける。
「...」
どのくらい?...と言われてもな...
大男は背中に背負っている小さな鞄を見せるように上半身を捻る。
「あら...可変容量バックパックを背負っていたのね」
「
「ッメイリ!」
ニッ、と見下す様にはにかむメイリをいい加減にしてとばかりに横目で睨みつけるラナ。
「...」
マスターから貰ったデカくなる鞄だ。
女性二人組の無言で見つめる大男。
「...み、南の迷宮、低層の堕落の間直前の周辺のモンスタードロップで貴方の鞄が一杯になるまで、もちろんレアドロップもチャンスがあれば狙っていく計画だけど、取り分は九対一でどうかしら?」
「...」
取り分?まぁなんでもいいか。
大男は頷く。
「そう...大丈夫。身の安全は私達が保証するから安心して。そうだ自己紹介してなかったわね?私はラナ。こっちがメイリ。よろしくね」
「よろしくー」
「...」
...名前ね?待ってろ。
大男はテーブルに置かれているティッシュを手に取り、先日よりギルドの受付テーブルから無断で借りパクしているペンで、ごにょごにょっと自分の名前を書いて、二人に見せた。
「...ザツヨウ、さん?でいいかしら?」
ラナは可愛らしく首を傾げる。
「...」
大男改めザツヨウは頷く。
「変なっ、ッめ、めずらしい名前だねー?」
メイリはラナに速攻で太ももを摘まれ、言い方を変える。
「じゃあ、準備がよければ今すぐ向かいたいのだけど、どう?」
「...」
ザツヨウは頷き、立ち上がった。
「わぁー。分かってたけど、立ち上がるとやっぱりでっかいね〜?目立ってモンスターに狙われやすくなっちゃったりしちゃって〜?」
メイリはザツヨウを見上げながら言う。
「うーん、そんなことは無い...はずよ。とにかく行きましょ」
─南の迷宮 低層─
ザツヨウは常に一定の距離を保って二人の後方に立ち、戦闘中は特段指示が無ければ動かず棒立ちで放心している。
「─やぁ!!とりゃっ!」
メイリは盾と槍を駆使して熊型の魔物の注意を引き付ける。
「メイリ、しゃがんで!」
「はいはーい」
しゃがんだメイリの肩を踏み台に空中へ飛び大剣を薙ぎ払い、熊型の魔物の首を切り落とした。
「うまくいったわね」
「いい感じね♪」
「ザツヨウさん、安全を確保できたので、回収お願いね」
「...」
ふぅむ。娘たちなかなかいい動きだァ。
床に散らばった魔物達をバックパックに放り投げる。
「─にしても敵はなんでザツヨウさんを無視して私達に襲いかかるわけ?なんか特殊なアイテムでも持ってるの?」
「...」
なんでだろうな。
首を傾げる。
「...今までに無い経験ですが...詮索は止しましょう。荷物持ちを守る必要が無いのはとっても効率的なので助かります。特に私達のような少人数は荷物持ちの護衛に苦労してきましたから。ね?」
「ん?そう言われるとそうね?ザツヨウさん意外と優秀な荷物持ちなんだね!他の人達に取られたくないよッ♪」
メイリはニッ、と無邪気な笑顔をザツヨウに向ける。
「...」
...
何の事かよく分かっていないザツヨウはとりあえずキメ顔でメイリに親指を立てた。
「次回以降から、ザツヨウさんが良ければですけど、やり方を変えて経験値優先の所でザツヨウさんにアイテムを拾わせつつ、経験値を稼ぎたいのですが...この調子なら堕落の主の単独撃破も視野に入ってくるかしら?」
「...」
「うんうん!早く月の紋章〜」
冒険者ギルドは、新米冒険者に対して必要最低限の実力が備わっているかどうかを月の紋章の所持で判断している。
高みを目指す新米冒険者にとって、堕落の主の単独撃破で得られる月の紋章の入手が第一目標である。
こなれてきた新米冒険者達がいきなり単独で挑みがちだが、生還率は高くない。
「─よし。ザツヨウさんのバックパックも限界そうだし、この辺で納品に戻りましょうか」
「はーい疲れたぁ。レアドロップは無かったなのよー」
残念そうに肩を落とすメイリの全身は魔物の返り血で真っ赤に染まっていた。
「...」
...いつの間に。
ボケーっとする癖はそう簡単には抜けないな。
─カボル大都市 南区 冒険者ギルド 南の迷宮前支店─
「─さてさてザツヨウさん。換金が終わったところで分前をくれてやろうではないかッ」
メイリはしたり顔でドサッとコインが入った巾着袋をテーブルに放り投げるように置く。
「メイリ?偉そうにしない。九対一のお約束でしたので、ザツヨウさんは2500ルボですね」
「...」
ん?...うん。カネね...
「─?...ザツヨウさん聞いてます?」
「...」
...うん?
「き、聞いてなかったようなので、もう一度。明日も私達と共に行きませんか?迷宮内でお話したように、今度は経験値優先の狩り場に籠もりたいと考えております。ザツヨウさんなら隙を見て床に散らばった品々を拾えるのでは無いかと思いました。いかがです?」
「ふむふむぅ!経験値も稼げてアイテムもたくさんお持ち帰りできるんだね?やるじゃんザツヨ!もうザツヨは私達専属の荷物持ちに決まりだね!」
「メ、メイリ、そんな勝手なこと...」
ラナはメイリが発した言葉を否定しつつ、ザツヨウの反応を伺っていた。
「...」
ふっ、よくわからんが俺に惚れたのか。
ザツヨウはしたり顔で深くゆっくりと頷く。
「よかった。では、ザツヨウさん。明日は今日の朝と同じ場所で同じくらいの時間帯で。ご機嫌よう」
「ザツヨばいばーい」
「...」
...いいケツだ。
ぼーっと奴隷してたら、最強になってた? BoshiBosh @boshibosh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ぼーっと奴隷してたら、最強になってた?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます