最終話 祭りの翌朝


 祭りの翌日。

 それは、独特の倦怠感を与えるものだ。楽しみを抑えきれない気持ちと共に始まった、準備の日々。飾り付けが始まり、祭りに限定の衣装に食べ物、ランプなどの雑貨を大量に取り寄せる日々。

 準備が落ち着いて、あとはその日と待つばかり。

 徐々に気持ちを高めていく………ネリーシャは、そんなワクワクを感じる暇もなく、悪ガキ軍団と、騒ぎの中心にいた。

 緑の大猫という、ラマーナとの出会いが、運命の始まりだった。

 いつまでも続きそうな、大騒ぎ。

 そんな日々も、終わった。

 ネリーシャは、朝の太陽に照らされて、眠そうに瞳を開ける。あぁ、祭りは、終わったのだと、ラマーナたちとの騒がしい日々は、終わったのだと。

 楽しかった時間を引きずりながら、ネリーシャは、ゆっくりと口を開いた。


「おい、なんでまだ、てめぇらがいるんだ」


 ワラ敷きの上に、ワラワラと雑魚寝をしている、悪魔どもがいた。

 悪魔はあくまで例えであるのだが、魔物と言う、人以外の色々と言う意味では、間違いではなかった。

 悪魔とも呼ばれ、神とあがめられるルトゥークをはじめ、耳が肩幅まである妖精さんに、猫らしき耳と尻尾の女の子様に、犬らしき耳と尻尾の男の子など、祭りの間だけ都に訪れる魔物の皆様が、まだいたのだ。

 それも、ネリーシャの寝室に。

 その一匹に、説明を求めた。


「おい、緑の大猫、説明しろ」


 猫装束のままの、ラマーナもいた。

 年頃の男女が、気付かぬうちに一夜を過ごした。それはときめきの始まり………のわけはない。ネリーシャは、遊び足りないイタズラ大王が、ここを魔物たちの集会場所に決めたに違いないと、説明を求めた。

 子供達の手前、とりあえずこぶしは封印して


「ちょ、なんですぐにぶとうとするの?私、女の子なんだよっ」


 両手でとっさに頭を押さえる。

 その仕草で、ふくらみがたゆんと揺れるが、今更どぎまぎするネリーシャではない。少し物悲しい気持ちで送り出した気分が、吹っ飛んでいた。

 心のどこかで、この大騒ぎがまだ続くのかと言う、捨てたはずのワクワクが鎌首かまくびをもたげていることは、内緒だ。そうでなければ、このイタズラ大王と共に、とんでもない大冒険に引きずり込まれるに決まっているのだ。


「だってぇ~………」

「だってじゃない」


 くちびるとがらせるラマーナに、ネリーシャは、ぴしゃりと言った。

 終わりは、終わるから終わりなのだ。

 遊びたいと、だらだらと居座ってもらっても、困るのだ。本音は別として、本日からネリーシャは、雑貨屋の跡取あととりとしての日々に戻るのだ。

 いや、それは、ラマーナも同じのはずだ。

 この、魔物たちの世話係、遊び相手。そうすることで、人と、彼らとのつながりを保っているのだ。

 人の常識を遠くにり飛ばしても、得がたい絆を保つお役目を持つ、巫女様なのだ。

 そう、巫女様なのだと、ネリーシャは固まった。

 違和感が、強烈ないやな予感が、鎌首かまくびどころか、とぐろを巻いていた。

 ネリーシャの首もとに、どっしりと。


「………なんだよ、まさか………まだ、なんかあんのか?」


 魔物様たちまで居残っていることが、致命的だ。

逢魔おうまが祭り』に限って、人の住まう都へと現れ、騒ぐことが許されている。魔物が現れた、不思議な子供がいると、噂話になったこともない。悪ガキとはいえ、ここにいる理由はなんだ。

 緑の大猫は、口を尖らせて、ネリーシャに文句を言うように、告げた。

 女神様からの、ご依頼だと。

 ルトゥークたちの棲み処にご案内すると。

 今回の黒幕について、三百年ほど昔の大騒動について似ていると。話がしたいと。


「あぁ、ルトゥークがなんか、そういうこと言ってたっけ………」

「うん、大きなことが起こるときって、色々重なって起こるってことらしいよ?」


 そのために、種族の壁を越えた会合を、開くという。

 本来は王族か、それに連なるくらいの高い方々を招いた政治の舞台のはずだ。なのに、なぜ、しがない雑貨屋の少年を呼ぶのか。

 その騒動の中心にいて、少なからず解決に貢献したからである。

 人の側にあって、人以外の人々と交流を持ち、友情を育んだ人物が、どれほどいるだろうか。その役割は、神官様のものである。

 そう、ネリーシャはすでに、お城に住まう偉い人たちと同等、あるいはそれ以上の、神官様と言う地位を、得ていたのだ。

 人の代表として、神々と交流を持つ、すっごい地位である。

 そんな大人ぶるのは、らしくないと立ち上がった。


「えぇい、わかったよ。俺たち悪ガキ軍団が、大人たちの思惑なんて吹っ飛ばしてやろうってことだろ。いいよ、行ってやるよ」


 ヤケであった。

 売られたケンカは、買ってやるとばかりの勢いであった。


「よぉ~しっ、私は姫ちゃんに言ってくる」


 我らがリーダーも、調子を取り戻す。

 二人がいつもに戻ったことで、子供達も調子付く。


「駄菓子屋、土産のお菓子、忘れんなっ」

「駄菓子屋、駄菓子屋、花火もうないの、花火、花火」

「「「花火、花火」」」


 ルトゥークたち、悪ガキ軍団魔物組みもまた、調子を取り戻した。

 寝起きだと言うのに、元気なものだ。と言うか、昨日の騒ぎの今日である。まだまだ騒ぎ足りないと、一部、祭りはこれからと言う気分であるらしい。

 ネリーシャは、雑貨屋の息子として、何と答えよう。

 雄たけびを上げた。


「いいだぜ、どうせ売れ残りやら色々あるんだ。カビ生やすなら、神様への貢物みつぎものだ。ちょっと同業者にいってかき集めてくるからな、お前らは仲間に声をかけろ。泊りの許可、取ってこさせろ。一日や二日じゃぁ、すまさねぇぞ。悪ガキ軍団再結成だっ」


 悪ガキ大臣ネリーシャは、新たな旅立ちに向け、宣言した。

 そのたけびに、悪ガキ軍団も呼応した。

 まだ朝といっていい時間帯、大変ご近所迷惑な、悪ガキ軍団であった。




(終)


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剣と魔法と、悪ガキ軍団 柿咲三造 @turezure-kakizaki

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