間話 涼葉の新たな性欲解消法3(終)

 念のため余裕をとって15分後、渚が再び部屋に入ると、その中央には下着姿で呆然と座り込んでいる涼葉の姿があった。

 部屋に充満している甘すぎるフェロモンの匂いで、涼葉がナニをしていたかは言うまでもない。


「……終わったの?」

「ああ……渚ちゃんですか……」

「……どうだった?」

「ねえ、渚ちゃん……人はなんのために生まれて、なんのために死んでいくんでしょうね……」


 涼葉が滅茶苦茶賢者タイムだった。

 

「……他人のことなんて知らない。ボクはマネージャーのために生まれて、マネージャーのために死ぬ。ただそれだけのこと……涼葉が使ったティッシュはどこ?」

「一箱まるごと使ってしまったので、圧縮して胸の谷間にしまってあります。確認しますか?」

「……そんなの見たくもない」


 どうやら満足したみたい、と渚は判断した。

 もっともこれで満足できないようなら、渚としてもお手上げなのだけれど。


「……それで涼葉は、その……こういうコレクション……持ってないの……? マネージャーの、子供の頃の写真コレクションとか……」

「それが恥ずかしながら、ほとんど無いんですよね。なにしろ本物の兄さんが目の前にいると、兄さんを眠らせてからパコればいいとつい思ってしまって」

「……ねたましすぎる……!」

「けれど今日、少しだけ考えを改めました。──もちろん現実の兄さんが最高なのは当然ですが、兄さんの写真だのグッズだのは、また別のよさがあるものです。いわばデザートは別腹とでもいいましょうか」

「……まったくその通り。なので涼葉も今すぐ、マネージャーグッズをつくるべき……そして指導料としてボクに渡すべき」

「それが狙いですか。まあ構いませんけど」

「……やった!」


 実際、渚はくずはの『超秘蔵弟くんコレクション』が羨ましくて仕方なかった。

 なんとかして、少しでも分けてほしいと思っていた。

 けれど、なぜコレクションの存在を知ったかという説明ができなくて、どうしようかとずっと悩んでいたのだった。


 ところが今回、涼葉がカモネギ状態でやってきた。

 マネージャーの義妹である涼葉なら、くずはに匹敵するレベルのマネージャーグッズが作れるに違いない。

 渚の野望は大きく前進した。


「しかし兄さんグッズともなると、可能性が無限大すぎて武者震いが止まりませんね。まずはなにから作ればいいでしょうか──」

「……抱き枕」

「はい?」

「……マネージャーの全裸写真がプリントされた、等身大抱き枕を所望する」

「抱き枕ですか……? ですがセックス無しで抱きしめながら寝るだけならば、兄さんなら全身全霊でお願いすれば許可してくれますし──」

「……屋上に行こう……久しぶりに……キレちまったよ……」

「──と思いましたが、兄さんがいない日に抱きしめて寝るのも良さそうですね!」


 渚が発するとんでもない圧の殺気に、涼葉が慌てて意見を修正した。


「抱き枕はもちろん作りましょう! あとはなにを作りますかね!?」

「……アイディアはいっぱいある。例えば、マネージャー特製バット……」

「あまり聞きたくありませんが、なんですかそれ?」

「……つまりバットの長さと太さが、マネージャーのマネージャー自身と同じ……」

「次行きましょう次!」


 こうして二人はその後、熱すぎる議論を交わして。

 渚と涼葉は、ちょっぴり絆が深まったのだった──


 ****


 涼葉が渚に性欲解消法の相談をしてから数日後。


「渚ちゃん、緊急事態発生です」

「……どうしたの?」

「ばれないように兄さんの全裸写真を撮るためには、どうしたらいいのでしょう?」

「……気合で」

「いえそれ不可能ですよね!?」

「……ふぁいと、おー」

「丸投げしないでくださいよ!!」


 渚と涼葉が、野球部部室でそんなやりとりをしていると。


「──ふうん、面白そうな話じゃない。ボクも混ぜてくれない?」


 ギクリとした二人が、恐る恐る振り返ってみれば。

 そこにはくずはが、あからさまな作り笑いを浮かべて仁王立ちしていた。


「……え、えっと……」

「弟くんの全裸写真が欲しいの? でも涼葉ちゃんは確か、弟くんは実物が一番だから写真なんていらないって、昔からずっと言ってたよね? いったいどういう心変わり?」

「そ、それはっ。──やはり兄さんをオカズにシコる時、兄さんグッズの一つもあった方がいいかなと思うようになったんです、それで抱き枕を作ろうって話になって」

「……そ、そう。だからボクと涼葉で協力して……」

「なるほどね。でもそんないい話なら、ボクも混ぜて欲しかったかな?」

「は、はひ──」

「ところで」


 くずはが作り笑いを更に深めて、底冷えのする声で訊いた。


「じつはボク、秘密の弟くんグッズコレクションルームを持ってるんだけどね? 今日そこに入ったら、すごく濃厚なメスの発情した残り香がこびり付いてたんだけど──二人ともなにか知らない?」

「ひいいっ!?」

「……そ、そんなの知るはずない……!」

「ならいいんだけどね? でも何者かが入ったのは確実なのよ。だってボク秘蔵の『弟くん、輝く笑顔コレクション』の生写真が二枚も無くなってたんだもの──」

「「…………!!」」


 ガクガクガク、と渚と涼葉の足元が震える。


 ──だってだって、すっごく素敵な笑顔の写真だったのだ。

 滅茶苦茶ベストショットだったのだ。

 しかも数えてみたら、全く同じ写真が120枚以上あったのだ。

 ついつい二人で一枚ずつ失敬したとして、誰が咎められるというのか。


「ああそうそう、そのコレクションルームなんだけど。防犯は結構しっかりしてるのよね。ねえ渚?」

「……そ、そんなの知らない……!」

「扉が分厚いコンクリート製で、重さは2トン以上あってね。それを人間の力だけで持ち上げないと、絶対に入ることができないんだけど……そんなことできる人間って、世界に何人いるのかな? ねえ、涼葉ちゃんはどう思う?」

「い、意外にたくさんいるのではないかと存じますです……!」

「そうかなあ? ボクは、普通の人はちょっと無理じゃないかと思うんだ。──例えばとかでない限りは、ね──?」

「「ひいいいっっ──!!??」」


 その後、二人は泣きながら罪状をゲロった。

 それから三人に、交渉だか脅迫だか分からないような話し合いが持たれた結果。

 いずれ完成するだろう全裸抱き枕は、三人分作られることが大決定したのであった。


 あと涼葉には、死んでも兄の全裸ベストショットを撮影してくることが義務づけられて。

 その結果、涼葉が酷い目に遭うことになるのだけれど、それはまた別の話。

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男女逆転世界なのに追放された天才癒しマネージャー ~今さら野球部に戻ってくださいとギャン泣きされてももう遅い。ぼくにメロメロな最強爆乳美少女たちが、お前らを絶対許さないってマジブチ切れてるんですが?~ ラマンおいどん @laman_oidon

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