間話 涼葉の新たな性欲解消法2

 私立風の杜学園高校にはつい最近、新校舎が落成した。

 九月上旬にあった爆発事故により校舎が全壊し、急遽新たな校舎が作られたと公式には説明されている。

 それが実際には爆発事故ではなくて、実際には五人の生徒による殴り合いによるものだということを知る者はほとんどいない。


「……こっち」

「新校舎ですか。この校舎には理事室があるから、くず姉を訪ねてたまに来ますが……くず姉は今は日本にいませんよ? また兄さんを連れて、海外の大会に行ってしまいましたから」

「……それは知ってる。いいからこっち」


 渚が連れていった廊下の突き当たりには、目立たない小さな扉と『関係者以外立入禁止』の文字があった。

 メンテナンス用、もしくは非常用の通路といったところだろうか。

 渚は躊躇なく扉を開き、その先にある螺旋階段を降りていく。


「へえ、新校舎にも地下があるんですね」


 もう使われていない旧校舎に地下があることは知っていたが、新校舎にもあることは知らなかった。

 階段を降りて着いた先には、上下左右をコンクリートで固められた、人がすれ違うのも苦労するほどの細い通路が伸びていた。


「なんだか、映画に出てくる秘密基地みたいな感じですね」

「……みたいなのじゃない。まさに秘密基地そのもの」

「どういうことです?」

「……この新校舎の建築費、全部くずはが出したって言ってた」

「まあ原因が原因ですから。最初に涼葉に殴りかかったくず姉が建築費用を出すのは、むしろ当然かと」

「……それはつまり……全額お金を出したくずはが、好き勝手に建てられたということ……」

「その結果が、この建物というわけですか? あまりピンと来ませんけど──」

「……すぐに分かる」


 奇妙な通路だった。

 進んでいくと左右のコンクリートの壁に、等間隔にドアの形をした切り込みがある。

 けれどそこには把手になるものがなにも付いていない。

 だいいちコンクリートにドア型の切り込みがあるだけであって、ドアが付いているわけでもない。


「これは──地下階の建築途中で、建築計画が変更あるいは放棄されたということでしょうか? この切り込みの先に部屋を作る予定だったとか」

「……それは分からない……ボクは、ダミーだと思ってる……」

「ダミー、ですか?」

「……そう」


 細い通路を何度か折れて、やがて突き当たりに辿り着く。


「……ここ」

「今までと変わりないじゃないですか」

「……そんなことない。扉と床の間をよく見て」

「えっと──言われてみれば、小さな窪みがありますね? なんとか両手の指が入る程度の隙間ですが」

「……この扉は本物。そこに指を掛けて、持ち上げられるからやってみるといい」

「分かりました」


 苦労して前後を交代、扉の前にしゃがんだ涼葉が扉に手を掛けるものの。


「この扉、すごく重くありませんか?」

「……多分わざと。防犯の代わり、くずはやボクくらい力が無いと開かない」

「それは確かに強力な防犯装置ですね。この通路の狭さなら、重機も入れられっこないですし。ですが──」


 涼葉がくすりと笑みを浮かべて、


「くず姉や渚ちゃんでも持ち上げられる程度の扉だったら──涼葉なら、指一本で十分です」


 次の瞬間、涼葉の秘められた筋肉が爆発的に盛り上がり、勢いで制服の袖口とストッキングが吹き飛んだ。

 コンクリートの塊でできた扉が、ロケットみたいな勢いで跳ね上がる。

 扉が上にぶつかった振動で、ドウンッ……と新校舎全体が揺すられたけれど、幸いにも二人以外には誰もいなかった。


「……扉を壊したら後でくずはにばれる。気をつけて」

「それもそうですね、すみません」

「……今、電気を付ける」


 パチンと部屋の明かりが付く。

 そこで、涼葉の目に飛び込んできたものは。


「──に、兄さんっ──!!」


 その部屋は壁一面どころか天上に至るまで、ことごとく西神田(とくずは)で埋め尽くされていた。

 くずはを真剣に癒しマッサージする西神田。

 くずはに膝上だっこされて恥ずかしがる西神田。

 くずはにおんぶしてランニングを手伝う西神田。

 ぐる目の西神田。

 くずはをお姫様だっこする西神田。

 くずはに腕ひしぎ逆十字をかけられて、ギブギブと叫んでいるであろう西神田──


「こ、ここは天国ですか!?」

「……全く同感。ボクが初めてこの部屋に侵入した時もそう思った」

「難を言うなら、ことごとく彼女ヅラしたくず姉が写っているのが、とても邪魔で仕方ありませんが」

「……完全に同意」


 深く頷いた渚が、涼葉に経緯を説明する。


「……ここは、くずはの隠し部屋。ボクがこの部屋を知ってることをくずはは知らない……ちょっと前、マネージャーがいないのにくずはがすごく機嫌良かったから、怪しいと思って……その後をこっそり尾行したらここだった」

「大変なお手柄です、渚ちゃん」

「……これからボクは十分間、部屋の外に出て待ってる」

「えっ?」

「……後でくずはに気付かれるようなことしたら絶対にだめ」

「は、はい」

「……ティッシュはそこ。ゴミは自分で持ち帰る……分かった……?」

「──は、はいっ!!」


 涼葉はようやくピンときた。

 渚がここで、自分に何をさせようというのかが。

 つまりはをさせようというわけだ。


「……この環境ですらダメなら涼葉にシコる才能は皆無、諦めた方がいい……」

「いえ、大丈夫でしょう。──涼葉の身体の中にあるメスの本能が、ビンビンにアツくなっているのが自分でも分かりますから」

「……そう。じゃあがんばって」


 そうして、渚が部屋を出ていくのを待つ時間すら惜しいとばかりに。

 渚が背を向けた瞬間、涼葉は神速のスピードで制服を脱いでいくのだった。

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