第16話 波はそのうち静かになる

 アナリアはウィリアムを気にせず話し始めた。

 「一つの理由というのは、あなたが強いから。これは至極単純です。今までの戦績から信じられます。」

 ウィリアムはアナリアの言葉に耳を傾けていた。

 「そして三つの証拠のうち一つ目は、あなたが今私の話を聞いていることです。なんで私の穴死を聞いてくれる気になったのかは知りませんが、今あなたがここを立ち去らずに聞いてくれていることがまず一つ目の証拠です」

 アナリアはウィリアムの顔を見た。表情は変わっていない。図星であることを信じ、話し続けた。

 「二つ目は、洞窟の中で私の話を最後まで聞いてくれたことです。そして三つ目の証拠は、あなたが私に敵意を向けていないことです。あなたが起きた瞬間、私に剣を向けなかった。それは私を信用しているからではないのですか。以下、これらの理由と証拠より、私はあなたを信じます」

 ウィリアムはアナリアの目を遠くからじっと見つめた。嘘ではない。騙す気も無い。至って本気、真剣である。だが、ウィリアムは彼女のことを信用できなかった。だが・・・

 「あんたのことは信用するに足らない・・・」

 「・・・」

 アナリアは歯を食いしばった。まだ説得力が足らなかった。しかし、これ以上説得する材料がない。これからも一人で努力するしかない。そう思った瞬間、ウィリアムから予想外の言葉が出た。

 「何をされるか分からない。後ろから不意に刺されるかもしれないし、寝ている間に毒を盛られるかもしれない。もっと言うと、最後の最後で裏切るかもしれない」

 この人は何を言っているんだ、と思ったアナリアは呆然とウィリアムの言葉を聞いた。

 「だから俺があんたを監視する。何もされないようにな」

 アナリアはやっと理解した。

 「そ、それって・・」

 「しかし、もし俺に何か危害を加えようとする言動を見つけた場合、問答無用で切り伏せるからな」

 「・・やったー!」

 「おい、今は夜だぞ。周りに誰かいたらここがばれる」

 「・・失礼」

 アナリアは急いで口を塞いだ。やっと、やっと夢の第一歩が踏み出せた。これから必ず夢をかなえる。そのためにまずは彼の信頼を獲得しないといけない。

 「じゃあ、早速移動するぞ」

 ウィリアムは洞窟を背にし、歩き始めた。アナリアは洞窟においてある荷物をまとめ、ウィリアムについていった。

 「俺と歩くときは、二馬身ぐらい離れて歩いてくれ」

 ウィリアムはアナリアに指さしながら、指示を出した。しかし、アナリアは嬉しかった。共に行動することができたことに対して言葉にできないほどの高揚感を感じていた。

 

 高揚感を感じていたのも束の間、二人は二時間ずっと鬱蒼と生い茂る森を歩いていた。木の根っこを踏み分け、枝を避け、坂道を滑り落ち、途方もない森を歩いていた。

 「どこか隠れられるような場所は・・・」

 ウィリアムは歩きながら身を潜める場所を探していた。遠くを見渡そうにも、枝や葉が視界を遮り目的の場所を見つけそうにもない。

 アナリアはウィリアムの後ろをちょうど二馬身程離れて歩いていた。少し目をそらすと姿を見失いそうだ。夜に森へ入るのは適作ではないと思い始めたころ、ウィリアムが洞穴を発見した。洞穴に近づいてみると、完全に動物の巣穴と見えるほど、入り口が小さかった。アナリアが他の場所を探そうと提案しようと口を開いたが、ウィリアムは何も気にすることなく屈みながら巣穴へ入っていった。

 「ちょ、ちょっと」

 アナリアは洞穴に入る直前にウィリアムに話しかけた。

 「何?」

 ウィリアムはこちらを向いて、足を止めた。

 「ここ、動物の巣穴じゃ・・・」

 するとウィリアムは前を向きなおし、歩き出した。

 「入口に足跡がなかった。多分捨てられた巣穴じゃないかな」

 そういうので渋々、アナリアも入らざるを得なかった。入ってみると中は意外と広かった。しかし、月光がほとんど入らず巣穴の中は暗闇だった。しかもここで焚火を焚いた場合、煙が充満してしまう。アナリアはウィリアムがどうするのか行動を見ていると、ウィリアムは自分の荷物を漁っている。中から取り出したのは、とある瓶だった。小さな瓶だが、中に飛行している虫が数匹入っていた。

 「発光虫?」

 「こんな場合にも対応できるように買っておいた」

 発光虫は体長が小指の先ほどの長さだが、一匹いるだけで暗い夜でも手元は照らすことができる。見たところ瓶の中には五匹ほど入っていたので、この巣穴を照らすには十分の輝きだった。発行中の輝きはとても優しく、虫嫌いな人でも光を見ているだけで虫嫌いを克服できそうだ。

 とりあえずの安定を維持できた二人は軽い食事を済ませた。

 「とりあえず、日が上がるまではここで過ごす。一応もう一回言っとくけど、俺は寝ている間でも気を張ることはできるからな。あと、離れて寝てくれ」

 「・・・はい」

 ウィリアムの気の細かさに圧倒されたアナリアは肯定するしかなかった。そして二人は就寝準備を始めた。

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文明の調整者 〜意志者編〜 木野キヤ @Kinokiya35

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