第14話 返答不能

 「これから話すことは誰にも言わないでください・・」

 独り言のように力のない声を受け取ったウィリアムは彼女の言葉に対して真剣な態度で受け取った。

 「あなたを助けたほんとの目的は・・・“力”が目的です」

 ウィリアムは一応力とは何を示すのか確認を取った。

 「力って、“超力大戦”のこと?」

 「その通りです」

 完全に元気をなくしたアナリアはもぬけの殻となってしまった体を駆使して話を続けた。

 「私はある国の代表としてこの戦いに参加しました。勿論、あなたもその代表だってことは承知しています」

 ウィリアムは警戒態勢をとった。まんまとやられた。こんな狭い洞窟に運び、殺そうという算段か。そう考え途端に立ち上がり抜剣した片手剣を構えた。しかし、アナリアに動く気配もなければ、殺す気配もない。

 「別にあなたと戦おうなんて思いませんよ。戦場を駆け抜けていたことは知っていますから」

 ウィリアムの心を読んだかのようにアナリアはそう話した。戸惑いながらも剣をしまったウィリアムはさっきまで座っていた岩に座りなおした。

 「私の目的は“力”をあなたの手中に収めること。そして、その力で私の願いを成就してもらうことです」

 ウィリアムは当惑した。アナリアは力を自分の手にすることが目的ではなく、ウィリアムに力を手に入れてもらうことが目的だと言った。しかも、手に入れさせた力は自分の願いのために使うときた。これは明らかな“利己的戦略”だ。別に国際的に禁止されているわけではないが、その考えがウィリアムの頭によぎった瞬間、それは強く引っ掛かりウィリアムの感情を害した。

 今まで国のために献身してきたウィリアムにとって利己的な考えはほとんど存在しなかった。あったとしてもそれは生きていくために最低限必要な食事、睡眠、休息だった。だから今までそんな考えはカルト以外になかった。いや、本来なら見てきたはずだった。それを見ないふりをしていて記憶から除外していた。そのおかげで今まで気にすることは少なかった。

 しかし、今改めて直面するとウィリアムの中立的だった感情が、急に負に落ちた。そのせいで声の調子が変わったがそれを気にすることなく、ウィリアムはアナリアに質問した。

 「その“願い”っていうのは?」

 「・・・」

 アナリアの答えは沈黙だった。俯き、顔を曇らせたまま、口をきつく結び何も話さなかった。その行動もウィリアムの感情を害した。さらに問いただす。

 「俺を利用するのか?自分の願いのために」

 「・・・」

 またもや沈黙だった。ウィリアムの機嫌を察したのかさらに顔が曇る。アナリアは自分のしようとしていることを自覚しながらも、それをウィリアムの前で肯定することができなかった。さらに怒らせてしまうからだ。アナリアは唇を噛み締め、苦痛の表情を浮かべている。

 ウィリアムは拳を握り、アナリアを脅すような口調で言った。

 「最後に一つだけ聞く。もし何も言わなかったら俺はこの場から去る」

 アナリアは俯きながら、生唾を飲み込んだ。そしてウィリアムの言葉に耳を貸した。

 「出身は?」

 ウィリアムは質問したのは、最初に言うべき自分の出身国だった。何もなければいえるはずだが、アナリアは沈黙を貫いた。それを合図にウィリアムは立ち上がり荷物をまとめ始めた。それに気付いたアナリアは慌てた様子でウィリアムを止めた。

 「秘密は言えません。けど、私があなたを悪用したりしない!これだけは信じてください!!」

 「・・助けたことは感謝している。いつかあったらご飯でもおごってやる。それで縁はお終いだ。じゃあ、さようなら」

 ウィリアムはアナリアの引き留める言葉を聞きながら、吐き台詞を並べ洞窟の外へ向かった。外は生憎夜だったが、月明かりが出ていたおかげで地形は見える。目の前には森林が広がっており、右手奥にはさっきとは違う崖がある。その上には芝生が生えており、きっと食べ物には困らないだろう。

 人が少ない間に次の町へ行こうと思い、歩き始めると後ろから洞窟を出たアナリアがウィリアムに向かって叫んだ。

 「!!!助けてくれるって!!」

 ウィリアムはその言葉に聞き覚えがあった。

 それははるか遠くの記憶に刻まれた声。初めて好意を抱いた女性。自分が本当に守りたいと思っていた女性。しかし、不慮の事故により彼女はこの世にはいない。そんな懐かしい声がまた聞こえた気がした。

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