第13話 “癖”
「私が東に向かっているときでした・・」
アナリアという女性はウィリアムを助けた経緯について話し始めた。
「右手を山に見ながら歩いていると、山の中腹から誰かが激しく動いているのが見えました。勿論戦っていることは分かりました。けど、誰が戦っているのかは見えませんでした」
ウィリアムは言葉の最後に違和感を感じた。“誰が戦っているのか”という部分に引っかかった。誰が戦っているのか分からないといけない、みたいに言い方だ。アナリアはウィリアムを気にすることなく話を続けた。
「山を登り、索敵されない程度に近づきました。そしたらそこにあなたともう一人、別の人物がいることに気が付きました。それを陰で見ていると、あなたが死ぬ直前に迫っていることに気が付き、その場から走り出しました」
「そして、俺を救ってくれたわけだ」
「そうです」
語り終えたアナリアはなぜか不安そうな表情をしている。ここからは質問をしていこうと思い、ウィリアムはアナリアに問いただそうと口を開いた瞬間、アナリアは身を乗り出しウィリアムにこう言った。
「私はあなたを尊敬しています!」
さっきまでの不安そうな顔はどこかに消え、代わりに覚悟と確信した目をこちらに向けている。思わず体を後ろに倒すが、迫力は同じだった。しかし、顔を見てはっきりと気付いた。彼女の言葉は本意ではない。誰かに言われた、もしくは相手を欺くための作った言葉だ。理由は目にあったのではない。口元だ。きっちりと閉められた口だが、端の方がぴくぴくと痙攣している。これは彼女の癖だろう。それも嘘をつくときの癖だ。
人にはいろんな癖がある。貧乏ゆすりや指の関節を鳴らす癖、頭をかく癖、足を組む癖など枚挙にいとまがない。その中で一番変な癖をウィリアムはもっている。それは人の癖を発見する癖だ。この癖を自覚したのは訓練兵に所属してからすぐだった。訓練途中、仲間の技を盗めと教官に言われ様々な人を観察したウィリアムは、そのうち技を盗むことを怠り、人の癖を見つける癖を上達させてしまった。それは意識してやったことではない。無意識でこのような癖を体得してしまった。
それからウィリアムはあらゆる人の癖を見てきた。勿論、人が嘘をついた時に見せる癖も。アナリアが口の端を痙攣させているのは噓をついている証拠だ。ウィリアムは顔つきを変え、険しい表情でアナリアの嘘を指摘した。
「嘘、ついてますよね」
「えっ!?」
図星だったようで、顔から汗が滲み出た。アナリアは乗り出した体を戻し、焦った顔を浮かべながら、何故嘘を見破られたのか分からない様子でこちらを見ている。
「口ですよ、口の端が痙攣していた。それがあなたの癖です」
ウィリアムが自分の口を指さしながら説明すると、アナリアは咄嗟に口元を手で押さえた。そして手を離し、言い訳を並べた。
「ち、違う。嘘じゃない!私知ってます。アルベーナ橋の戦いのことも知ってます。クロフのことやエムリナのことも。あなたの活躍は知っていて、だから尊敬してるって・・・」
「でも、何かを隠している、もしくは言ったことに対して罪悪感を覚えているんじゃないですか?」
ウィリアムがさらに問いただすと、アナリアはこれ以上言い訳することなく、口をパクパクさせて戸惑っている。
すると落ち着きを取り戻したアナリアは澄んだ声で本心を吐露した。
「隠していたことは謝ります。その代わり・・話を聞いてくださいませんか?」
その発言に嘘は含まれていなかった。それを理解したウィリアムはさっきとは違う真剣な顔つきで話を聞いた。
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