第3話 国の代表

 宴会が終わり、ウィリアムは自分の家に帰宅した。騎士長の部屋で思い思いを過ごしていた三人には帰宅するように指示し、その部屋を片付け、整理整頓し、帰宅路をゆっくりと歩き今に至る。ウィリアムはリビングにあるふかふかの長椅子に腰かけ、今までの出来事について振り返っていた。

 「訓練兵時代、初陣、三回大きな戦いに参加して、騎士長選抜、これからはこの出来事が土台となっていくんだなぁ……」

 段々と瞼が沈み、いつの間にか静かなまどろみの中に落ちていった。


 超力大戦に参加するためにこの街、そして国の外へ出るために身支度を進めていると、玄関の扉をたたく音が聞こえた。扉を開けるとそこには付き人であるコーマ、アルテ、そしてサレンが立っていた。

 「どうしたんだ、三人で見送りか?それなら街門でも……」

 ウィリアムは三人を見つめながら言うと、コーマが口を開いた。

 「街門じゃこうやって面と向かって話すことができないなぁと思いまして。ほら、向こうだと人がいっぱいいるので……」

 「そっか、いや嬉しいよ。出発まで時間あるから上がっていきなよ」

 ウィリアムは三人を家の中へ促すと、三人は浮かない顔のまま椅子に座った。

 「私、いや私たち正直不安です」

 今まで滅多に自分のことを口にしなかったサレンがこの場で初めて自分の気持ちについて話したことにウィリアムは少し驚嘆した。

 「ふ、不安。サレン、とコーマとアルテが? 何で……」

 「俺たちまだ未熟だから、これからどうしたらって」

 コーマの口から出るまでウィリアムは三人の気持ちに気付かなかった。自分が超力大戦に行っている間、三人には教えてもらう人がいなくなる。変更願を出せば違う人の付き人になることも出来るが、三人はそれを嫌がるだろう。

 いつだったか、三人とも自分に興味ないのではないかと思い、それぞれ相談して変更を薦めたが、誰も変更願を出さなかった。その時そういうことだと思い、そのことを今まで忘れていた。しかし、今改めて三人は自分のことが好きなのだと実感した。そんな三人を置いて、勝手に大戦に参加してしまう所だった自分を咎めるべきだ。

 「ごめん、コーマ、アルテ、サレン。俺はまだ三人の処遇について考えていなかった。じゃあ……」

 そういうと三人の顔がさらに不安そうな表情になった。

 「三人の仕事は今まで通りでやってくれ」

 三人は唖然として何も言葉を出さなかった。するとコーマが慌てる様子で聞いてきた。

 「あ、あの。じぶんはどうすればいいでしょうか。いつも騎士長の日程を伝えているのですが……」

 今までアルテとサレンはそれぞれ騎士長部屋の掃除、剣や防具、その他装飾品の手入れをしていたが、コーマは重要な書類の手渡しや予定の伝達をしていた。しかし、ウィリアムが居なくなってからは、重要書類も回って来ず、予定の伝達も不可能となってしまった。ウィリアムは少し考えた後、笑顔でこう伝えた。

 「……手紙を書いて、送ってくれ」

 「手紙、ですか」

 「そう、一週間に一回、三人で交代しながら手紙を書いて、コーマが俺のところに送ってくれ。国際郵便社なら俺のところまでちゃんと届く」

 俺が言い終えるとコーマは安心した表情と一緒に敬礼した。

 「拝承しました」

 

 「三人とも、俺がいない間もちゃんと鍛錬して、学業に励んで、食って、寝て、遊んで、自分を磨いてくれ。俺が帰ってきたら一番に稽古で確認するからな」

 「騎士長こそ、弱くならないでくださいよ」

 アルテの尖った言い方も今なら寂しく感じる。三人に別れを告げ、自分の家から出発した。

 

 三人ならやってくれる。なんてったって俺のかわいい弟子だからな。

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