第2話 任命の式典

 玉座へと続く一本の広い廊下は左右に面積の広い窓と豪華な装飾が施されており、その廊下を歩いていると自分の身分に合っていないような気さえする。元々、農民だった先祖はある戦いの際に徴兵を受けて、そこそこ高い戦績を残したためにそれから騎士としての身分を認められたと父親から聞かされていた。そのせいで今まで純粋な騎士の身分を持つ周りの者からは侮蔑の視線や悪質な行動に苛まれてきた。しかし、今日の式典が終了した暁には今までの嫌がらせはもう受ける事はなくなるだろう。

 未来の展望に耽っていると、左隣にぴったりくっつく様に歩いているお付きの男は上を見上げながら言葉を放った。

 「さすが元騎士長の息子であり、現騎士長様。この結果は神の悪戯なのでしょうか」

 「そんな事はないさ。別に俺は偉いわけじゃない。努力が導いた結果だ。あと“様”はいらない」

 小言を話している内に目的地である玉座がある“鋼鉄の間”に着いた。扉の前で身なりを整えて、目の前にある荘厳な扉を両手で開けた。


 「ウィリアム騎士長、前へ」

 元老院長が皇帝の隣で指示を出すと、一人の男が皇帝の前へ進んだ。鋼鉄の間の最奥に玉座、左右の席には元老院に所属いている貴族、そして左右の上部には貴族以上の身分にしか入ることが許されていない観覧席があり、そこには多数の観客が式典に参加している。その男は最奥にある玉座の前まで進み、皇帝が鎮座している玉座の前で跪き、頭を垂れた。その男は一見したところではなんの特徴も無い一般の騎士だと見られるが、その実、体格には似合わない筋力と知力と才力のほか、あらゆる力を有している。それらはすべて彼の努力が生んだ結果だった。体重は少し重く身長もこの国の平均身長を少し下回る程度。見た目では一般人と変わらない男が今日を以て新たな道へ進み出す。

 「貴殿をこの国の代表として超力大戦の参加者として任命する」

 皇帝が大々的に宣言すると、頭を垂れている男に代表の証である金で出来た首飾りを男の首元に装着した。男は鳴り止まない拍手とともに式典の終了を見届けた。


 式典を終え、騎士長の部屋に戻るとすでに付き人である、コーマ、アルテ、サレンが各々長椅子に座っていた。最初に声を掛けたのはやや尖っているアルテだ。

 「お疲れさんです、騎士長」

 続いてコーマとサレンも同じように挨拶をした。

 「お疲れ様です、騎士長」

 「お疲れ様です、騎士長さん」

 ウィリアムは書斎に向かいながら、三人に式典でもらった首飾りを渡した。

 「重い!」

 ウィリアムから受け取った首飾りを持ったコーマは渋い声を出した。その後、興味津々のアルテに、冷静でいながら内心早く触りたくてうずうずしているサレンの手に渡った。

 「これって飾るんですか?」

 サレンはウィリアムに首飾りを返した。

 「まぁ、持っていくには重いだろうから、ここに飾っておく」

 今まで月の日付が書かれた日付版を掛けていたフックに首飾りを掛けた。

 「じゃあ、俺は夜の宴会式まで明日の準備をしておくから、三人は好きなように過ごしていてくれ」

 どうやら三人ともこの部屋でのんびりするらしい。ウィリアムは気に掛けず立ち上がり、部屋を後にする。

 ある程度の準備が終わり、予定の時間になった。城内の宴会場に向かい、この国で最後の楽しい時間を過ごした。

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