文明の調整者 〜意志者編〜
木野キヤ
序章 Start
第1話 文明の躍動
「逃げろー! 襲撃だー!」
一人の男の叫びによって、国内に侵入者が現れたことを知らしめる。
「避難所へ逃げろ!」
もう一人の男によって街にいる住民は早急に避難場所へ逃げることになった。
「監視塔から侵入者の報告です!」
一人の若い男は国王、元老院の者たちに報告した。
「まずは、敵の情報からだ。どこの国の者で何人だ」
元老院の一人がそう言うと、報告に来た男ははっきりした声でその場にいる者たちに明確に告げた。
「敵数は……一人!」
その言葉だけでその場のもの全員を動揺させるのに十分だった。そしてさらに男は言葉を続けた。
「敵国は不明です!」
その男が言い終わると、元老院たちは更に驚きを隠せないようで口をパクパクさせている者が出てきた。この場の中で落ち着きを保っているのは元老院の長と、国王だけだった。
「マロー通りの城門から侵入しこちらの城へと進行中とのことです。いかがなさいますか」
報告を聞いた国王は室内を見渡し、口を開いた。
「……まず街にいる国民の避難を最優先、そして騎士隊による防衛線の設置、可能であるのならば侵入者と交渉、不可能ならば撃退もしくはその場で処刑。各地の監視塔にいる衛士はそのまま侵入者を監視しろ。それ以降の判断は元老院に任せる」
国王が口を閉じると、その場は数秒膠着したがすぐに報告しに来た者と元老院が動き出した。
それから三十分余りで簡易防衛線が完成し、侵入者を迎える準備が整った。騎士隊総勢千五百名、そしてそのはるか後方に羊皮紙の束と筆記具を持った記者が十数名息を荒げながら待機している。
「目標視認!」
防衛線の最前線から一人の男が大声で全隊に言い放った。その瞬間、場の空気が一気に緊張の色へと変わった。防衛線の向こうには黒いローブを羽織った背丈の高い男がこっちに向かって歩みを寄せている。黒いローブの上にはその行動に見合わないかなり整った顔がある。下を向きあまり表情は見えない。
「前衛部隊、前へ!」
防衛基地に居る騎士長が大声で部隊に命令した。それを聞いた前衛部隊は防衛線を超え、腰にかけている剣に手をかけた。侵入者が更に近づいてくると騎士長は更に大声で命令した。
「抜剣!構え!」
その合図に合わせて前衛の騎士たちは一斉に剣を勢いよく抜いた。そして騎士たちは自身の体の前で両手で持った剣を構えた。すると侵入者は歩みを止め、その場で立ち止まった。そして次の瞬間、誰もが目を疑うような現象が起きた。歩みを止めた侵入者の体が何の抵抗もなく宙に浮き始めた。前衛部隊、防衛線で待機中の騎士たち、防衛基地に居る騎士長でさえも頭の回転が止まったかのような感覚を覚えた。宙に浮いた侵入者は顔を城の方へと向けるとまたもや抵抗なく、城の真上に移動した。防衛線の後方に居る記者たちは手を止めることなく記事の内容を筆記している。
城の頂点に移動した侵入者は街を見渡しながら街中に響き渡るような大声を出した。
「力あるすべての民に問う。“更”なる力が欲しいか、“普”を超えた力が欲しいか。ならば意志を示せ。戦う意志を、抗う意志を、全ての者を超える意志を。その意志がある者にのみ、“すべてを超える”力を与えよう。一国から一人の優秀者を選出し、参加させることを許す。期限は今日より無制限、彼方なる地にて貴公らを待つ!」
侵入者はそう言い放つと小さな光の集合体となってその場から消えた。騎士長が城の頂点を見ていると、空からひらひらと何かが落ちてくるのが見えた。ひらひらと舞い降りてくる物体を掴み、見てみると異質な紙に文字が書いていたその内容は侵入者が話していた内容と全く同じだった。
その後、監視塔や馬兵によって国中を探したが先の侵入者は見つからなかった。この出来事は後に“超力大戦”と呼ばれる戦争のきっかけとなった“マロー通り事件”である。
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