連想ゲーム【扉】

砂上楼閣

第1話

彼女は言った。


ゲームをしよう、と、


彼女はいつもそうだ。


いつも唐突で、気まぐれで、こちらのことなんておかまいなし。


まるで猫のようにこちらを翻弄する。


「『扉』と聞いた時、キミは何を思い浮かべる?」


連想ゲーム、か。


思考実験なのか、ただの興味本位なのか。


いつも通りの彼女の気まぐれに素直に答えるのは癪だったから、ボクはこう答えた。


「扉以外の何を思い浮かべるのさ」


と。


彼女は苦笑いを浮かべた。


きっと、ボクの心の内なんてお見通しなのだろう。


こういったやり取りが、どんどんボクのココロを丸裸にしていく。


ある意味予定調和。


互いに分かっていながら、わざわざこんなやり取りを交わす。


「違うよ」


彼女は肩をすくめ、そして言った。


「キミは『扉』と聞いた時に、どんな扉を想像するのか、それを聞いたのさ」


「なんだ、それならそうと最初から言ってほしいな」


と言いつつ、ただの連想ゲームではなかった事に少しだけ考える。


阿と言ったら吽、山と言ったら河と答えるような回答ではないのかな?


扉と聞いて、建物や向こう側ではなく、扉そのものをどう連想するか、か。


「言葉が足りなかったことは謝るけど、君は本当にひねくれているね」


やれやれと、そうやって肩をすくめる彼女にムッとした。


「それで?」


「うん?」


「それで、なんでそんなことを聞くんだい?」


そう尋ねた。


すると彼女は先ほど以上に呆れ果てた顔をした。


「本来の質問に対して答えず、質問や疑問を返すものじゃないんじゃない?」


言われてハッとした。


おっと、そうだった。


質問そのものが分からなかったのでない限り、質問に対して疑問を返すのは的外れな行動だ。


それは席を譲られたのに、その行為そのものに対して怒りを返すような行為だ。


どう見られて考えられたにせよ、譲られて必要がなければ断ればいい。


その行為そのものに対して怒るのはお門違いだ。


質問が来たのであれば答えればいいのだ。


それがたとえ「はい」か「いいえ」で答えることができないにせよ。


質問に対しその質問をしたことに対する疑問を返すことは正しいことではなかった。


まずは答えなければ。


疑問を投げかけるのはその後だ。


「確かにそうだ。申し訳ない。質問に答えよう」


ボクは言った。


「扉だったね。ボクは扉と聞いたらステージ脇にあるような、両開きのものを思い浮かべるよ」


そう答えてから言った。


「それで、なぜそんなことを聞くんだい?」


「まぁまぁ、そうがっつかない。まだいくつか聞きたいことがある。それらの答えを得られたなら君の問いかけに答えようじゃないか」


答えを得られるならば問題ない。


けれどなんとなくフェアじゃない気がする。


もっとも男女がいて、同じ行為をするにしてもフェアであることの方が少ないのだから、それは置いておこう。


「それではいくつか質問させてもらおうかな」


そう言って彼女は矢継ぎ早に質問を繰り返した。


その扉の色は?


大きさは?


形は?


新しい?


古い?


君は扉のどちら側にいる?


向こう側には何がある?


扉に鍵はついてる?


その鍵はどこにある?


スペアはある?


あるならいくつ?


それらの質問に素直に答えていく。


「最後の質問だ」


彼女はようやく言った。


「その扉は今、開いているかい?」


どことなく緊張しているようだ。


「当然閉まっているさ」


そう答えると、彼女はほんの少しだけ表情を変えた気がした。


ボクは気にせず続けた。


「まぁ鍵はかけていないから、開いていると表現してもいいかもね」


「……そうかい」


彼女は言った。


「それを聞いて安心したよ」


本当に安心したように笑っている。


彼女はいったい何に対して安心したのだろう?


「それで?」


「うん?」


「疑問には答えてくれるんだろう?」


「うーん」


彼女はいたずらっぽい表情で笑った。


「内緒」


……フェアじゃない。


けれど、質問した彼女と答えたボク。


答えを吟味した彼女と、答えに対して変化する彼女の表情を読み取るボク。


質問する事しかできない彼女と、好きなように答えることのできるボク。


本当に、フェアじゃないね。

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連想ゲーム【扉】 砂上楼閣 @sagamirokaku

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