第29話:花恋姉は確率を語る?
「学校が始まったら、トーイの『モテかく』を高めるために『カノかく』を高められる女子を見つけ出し、高める活動をするのよ」
「は?」
モテかく?
カノかく?
なにそれ?
また花恋姉が、わけのわからないことを言いだした。
「それって初耳だけど。企業戦略の専門用語か何かか?」
「ううん。私の造語」
「へ?」
「『モテかく』はモテる確率。『カノかく』は彼女になってもらえる確率」
「つまり?」
「ああっ、もう! 相変わらず飲み込みが悪いねトーイは!」
そのセリフ。
デジタル紙芝居の説明をし始めた時にも言われたな。
もう既に遠い昔の出来事のように感じる。
もはや、いい思い出感すらあるぞ。
「つまり、トーイがモテる確率を高めるために、彼女になってくれる確率の高い女子を探す活動をする。そして彼女になってくれる確率を上げる行動をするってことよ」
「なるほど。それでわかった。──って言うか花恋姉。最初から普通にそう言ってくれたらわかるのに。変な略語のせいで、かえって伝わりにくくなってるぞ」
「いいのよ。略語はこれから度々出てくるから、決めといた方が便利なの!」
その言葉、これから度々出てくるの?
よくわからんけど、まあいいか。
「ところでモテる確率を高める、はわかるけど。彼女になってくれる確率って?」
「うん、いいとこに気づいたね」
花恋姉は我が意を得たりって顔で、少し鼻息が荒くなってる。
「トーイの魅力度は確かにアップしたけど、誰にでもそれが響くわけじゃない」
「まあ、そりゃそうだな。誰だって好みはある」
「そう。それとね。前に言ったように、コミュニケーションを深めないと、見た目以外の良さは伝わらない」
「うん、それはわかってる」
「それともう一つ……」
──ん?
なぜか花恋姉は『ため』を作ってる。
ここが重要なんだと言いたげだ。
「その女の子の、『心の状態』が極めて大切なわけよ」
「心の状態?」
「うん。例えば──トーイのことを魅力的に感じてくれる女の子がクラスにいるとします」
おおっ!
例え話であってもそれは嬉しい。
「でもその子は、今ほかに好きな男の子がいます」
「あ、そりゃダメだ」
──ガックリ。
あ、いや。
例え話だから、いちいちガックリする必要はないか。
「だよね。その子を攻略するのは難易度が高い」
「そうだよなぁ。その子が失恋したならともかく」
「他にもね。恋愛に対してすごく臆病な子とか、そもそも恋愛に興味が薄い子もいるからね。そういう女の子もハードルが高い」
「なるほど」
「でもその子の心の状態なんて、外から見てなかなかわからないからさ」
「だよな。読心術でもない限り」
「だから『彼女を作る』目的のためには、ある程度広く、トーイの魅力を広げていかないとダメなのよ。ピンポイント狙いじゃなくてね」
「そっか……」
自分が好きな人を彼女にできるのが一番だけど。
彼女を作ることを目的とするなら、そういう考えも必要ってことだな。
「で、具体的な作戦だけど」
おお、来たか。
俺は思わず姿勢を正した。
「まずはオーソドックスなことだけど。トーイの良さを広げるために、なにかイベントごととか、クラスでの会話とか、積極的に参加することね」
「あ、ああ。そうだね……」
まあ普通の高校生が普通にやってることだよな。でもそれが俺には苦手なんだよなぁ。
「俺には無理だ、なんて言わないように」
──うわ、いきなり釘を刺された!
「花恋姉……もしかして読心術を使えるのか? それならそのスキルで、女の子の心を読んでくれぇ」
「アホか。読心術なんて使えるはずないじゃない。アンタの考えそうなことなんかわかるよ」
「あ、そうなの?」
まあ、そうじゃないかとは思っていたけど。
「当たり前じゃない。何年アンタの
「あはは、そっか。だよな。花恋姉は俺の良き理解者だ」
「そうだよ。そう思うなら、もっと私を敬いなさい」
「はーい」
「心がこもってない!」
「あ、バレた?」
「バレバレだよ!」
「ごめんごめん」
花恋姉と話してると、話がそれてばかりで進まないな。
まあこんなのも楽しいんだけど。
「今のは作戦なんて呼ぶほどじゃない、基本的行動ね」
「あ、うん。そうだな。かんばるよ」
「で、トーイの良さを、より深く伝える作戦」
そんなのがあるのか?
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「トーイ。アンタ、部活に入りなさい」
「は? 今から? 高二の二学期だぞ?」
「知ってるよ」
「そりゃ、知ってるとは思うけど……」
「部活はね。長い時間一緒に過ごすし、共通の目的があるしね。同性でも異性でもお互いをわかり合うのにサイコーの舞台なのよ」
そりゃわかる。
わかるけど……今さら?
「こらトーイ。アンタ、今さらかよ、なんて思ってるでしょ?」
「あれ? やっぱ花恋姉、読心術使えるんじゃ?」
「だから読心術なんて使えないって言ってるでしょ。アンタの考えそうなことが単純なだけよ」
「うぐぅぅっ……」
「悔しかったらもっと高度なことを考えれば?」
ふふん、ってな感じで、花恋姉は鼻で笑った。
あ、くそ。やっぱムカつく。
さっき、花恋姉は良き理解者だなんて言った俺がバカだった。
「それで、どの部活にする?」
「もう、入ることが前提なんだな」
「もちろん」
うーん、部活か……
同じやるなら、やっぱ自分の興味があるのがいいかな。
「漫画研究部かな」
俺は元々イラストは好きだけど、漫画を描くのはそんなに興味はない。だから部活にも入らなかったわけだ。
だけどどうしても入るなら、一番そこがいいよな、うん。
「ふぅーん…… で、漫画研究部の男女比は?」
「は? 男女比? そんなの知らない」
「知らずに選ぶな。男五人に女子ゼロよ」
「え?」
女子ゼロ?
そうなのか……
それを聞いて、俺は思わず固まってしまった。
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