第4話:花恋姉は断言する
「よぉし、トーイ。アンタに彼女ができるように、私がレクチャーしてあげよう!」
突然
「は? 今、なんて言った?」
「アンタ精神は子供のくせに、耳はおじいちゃんか? 耳が遠いのか?」
は? 精神は子供?
うっせぇよ。
「いや、そうじゃねえ! ちゃんと聞こえてるよ! そうじゃなくて花恋姉が不可能なことを言うもんだから……」
「ちょいちょい! 私は嘘はつかない。不可能なんかじゃないから」
「え? 俺に彼女ができることだぞ?」
「うん、そうだよ」
「いや、不可能だろ」
「なに言ってんの。アンタ自身がさっき『彼女欲しい~』って言ってたくせに」
「それとこれとは別だ。大金持ちになりてぇ~と、大金持ちになれるのとは大違いだろ」
「はいはい。子供みたいな屁理屈はいいから」
花恋姉はヨシヨシするように、俺の頭をポンポンと叩く。
ぬぅ~ 相変わらず子供扱いしやがって。
やっぱムカつく。
でもさっきのは子供っぽい屁理屈って言うか、まったくの正論……だよな?
「まあトーイが
まさか。あの人気ナンバーワン女子が俺の彼女になるなんて。
そんなことを願うはずもない。花恋姉はなにを言ってるんだか。
「いや、そんなことはぜーんぜん思っていない」
「うんうん。それならいいよ。まあトーイにも好みはあるだろから少しは選ぶとしても、あの子はヤダこの子はヤダとか選り好みしないなら、かなりの確率で彼女を作れるよ」
「あ、ああ。もちろん誰でもいいってわけじゃないけどさ。そんな選り好みできないことは俺もわかってる。でも、できれば鈴村さん希望!」
「まあ、その子はトーイと雰囲気似てるってことだし、可能性はゼロではないかな」
「あ、いや。とにかく彼女が欲しいって気持ちもあるな。それは……変かな?」
それって、女なら誰でもいいって言ってるみたいで、ちょっと
だけど花恋姉は、あははと笑って首を横に振った。
「別に変じゃないでしょ。女の子だって恋することに恋してる子はいっぱいいるし。それに変にこだわってずっと恋人ができずに、大人になってからこじらせてる人もいるし」
なるほど。一理ある。
さすが恋愛経験豊富な花恋姉だ。
言ってることが大人だな。
だからと言って、やたらと俺を子供扱いするのは許せないが。
そう言えば、今まで花恋姉が誰それと付き合ってるという噂話をいくつも聞いた。
だけど本人に訊いても『内緒』としか言わないから、実際のところはホントに付き合っていたのか、誰と付き合っていたのかは、俺にとってもまったくの謎なのだけれども。
「若いうちに異性と付き合う経験をすることで、将来素敵な恋をすることに繋がるんじゃないかなぁ……って私は思う。まあ、恋愛は妥協の産物とも言うしね」
妥協の産物ってのはちょっと寂しい気はするけど。まあそれも現実というヤツか。
「そっか。それなら俺は、やっぱ彼女を作りたい」
「うんうん。なにごとも本人がやる気がなきゃ、可能性はゼロだからね。トーイがちゃんと努力するなら、その夢私が叶えてしんぜよう!」
花恋姉はドヤ顔で、右手の人差し指をビシッと突き立てた。
白ティーシャツの奥で揺れる胸はやや控えめだけれども、言動は全然控えめじゃなくて自信満々だ。
学校イチのリア充である花恋姉が断言するんだ。もしかしたらホントなのかもしれないって一瞬思った。
俺に彼女ができるなんて……むふふ。やったね。
「名付けて! 『あまりにモテなくてかわいそうな弟を優しいお姉さんが少しはモテるようにしてあげるよ大作戦』だよっ!」
「ながっ! それにダサっ!」
「うっせ! ダサいとか言うなっ!」
「いや、わざわざ作戦名とか付ける必要なくね?」
「あ、いや……いいじゃない。気分出るし。で、出るでしょ?」
花恋姉は作戦名のダサさがよっぽど恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして視線を横に外す。
いつもお姉さんぶって俺を子ども扱いするくせに。
花恋姉の、そんな『やっちゃった感』あふれる恥ずかし気な姿に、不覚にもちょっと可愛いと思ってしまった。
それよりも……さっきの作戦名。花恋姉のヤツ、何げに俺をディスッてなかったか?
「あまりにモテなくてかわいそうで悪かったな! くそムカつく」
俺が悔しそうにそう言ったら、花恋姉はぱっといつものお姉さんぶった表情に戻った。なんとも表情がころころ変わる人だ。
「まあまあ、そんなに落ち込むな。アンタはポテンシャルはあるんだから、正しい努力をすればそれなりになれるからさ」
ポテンシャルはある?
マジか?
まさかうまいこと言って、俺を手なずけようって作戦か?
「ホントかよ……」
「ホントだよ。正しい努力すればね。じゃあさっそく始めますか。『あまりにモテなくてかわいそうな弟を優しいお姉さんが少しはモテるようにしてあげるよ大作戦』を!」
「だから何度も『あまりにモテなくてかわいそうな』って言うなって!」
花恋姉は俺の言葉には何も答えないで、突然背筋をビシッと伸ばして、左手を腰に当てて右手の拳を突き上げた。
──あ、スルーしやがったなコイツ。
「よぉーしっ! お前ら、モテたいかぁーっ!?」
花恋姉はこれまた突然、俺に満面の笑みを向けて、わけのわからないテンションで叫んだ。
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