妹と寝室で

木立 花音@書籍発売中

妹と寝室で

 俺は今、妹の部屋のクローゼットに隠れている。

 理由は至極単純明快。妹が突然家に帰ってきたからだ。──どういうことだおかしいな。今日は委員会活動がある日で帰りが遅くなるんじゃなかったのか?

 さて、これははっきり言って自慢なんだが、俺の妹はめちゃくちゃ可愛い。艶々した黒髪のミディアムボブに、くりっとした丸い瞳。ふっくらとした唇。細身であるにもかかわらず、出るべきところはしっかり出ているという理想の体型。

 二歳年下の妹はまだ中学三年生なのだが、とてもそうとは思えないほど胸が大きい。もちろんそれも魅力のひとつなんだが、やはり最大の萌えポイントはむっちりとした太ももだろう。


 ん? ところで、何故俺が妹の部屋にいるのかって?


 それは簡単な理屈だ。借りっぱなしになっていた漫画を、こっそり返しに来たからだ。

 決して妹がいない間にベッドに顔を埋めてクンカクンカしたかったわけでも、タンスの中から下着を漁ってグヘヘしたかったからでもない。ほら、たとえ兄でも、部屋に忍びこんでいたら心証が悪いだろう? だから反射的に隠れてしまったんだよ。言うならば、これは不可抗力。

 

 ん? 漫画なら妹がいる時に返せばいいだろうって? 余計なお世話だうるさいな。こう見えて、俺は結構シャイなんだ。こっそり借りた漫画は、バレないようこっそり返したかったんだ。妹は案外気が強いから、変に気を損ねたくないしな。触らぬ神に祟りなしとでも言うべきか。いや、言い訳なんかじゃない。俺には俺の、事情ってものがあるんだよ!

 なんてぶつぶつ言っている間に、妹がやってきたようだ。


「さ、あがってあがって~」


 あれ? 一人じゃないのか。という事は、親友の芳子よしこちゃんかな?


「お、お邪魔します……」


 ところが聞こえてきたのは、緊張した感じの男の声。って男だと!? 誰だよコイツ、まさかと思うが由依ゆいの奴に彼氏ができたとでもいうのか? 付き合うんだったら兄である俺に一言相談しろぐぬぬ。

 こうなったら覗き見を……って、なんだよこのクローゼットの扉! 覗き見どころか穴のひとつも空いてないじゃないか! これはある種の欠陥なんじゃねーのか? 等と騒いだところで状況は変わらないわけで。

 しょうがない……このまま息をひそめてほとぼりが冷めるまで待つとするか……。


「適当にその辺にでも座って。というか、ベッドの上でもいいか。そこにいてもらった方が、色々やり易い」

「わかった」


 そんな簡単に女の子のベッドの上に座るなよ! と突っ込みそうになってすんでの所で口を塞いだ。というか、ベッドの上の方が色々ヤリ易いって何!?


「いやいや、黙って座ってないで、さっさと脱いでよ」


 さっさと脱いで?


「ああ、そうだねゴメン。わかった」


 わかるな!


「ほら、上着貸して。さっさと済ませるから」


 さっさと済ませるから? 前準備が大事だろ! いや、何考えてんだ俺。


「うん、ごめんね。由依ちゃんこんなの慣れてないのに」


 くっそぉ……オマエラいったい何をやってるんだよ……。薄暗いクローゼットの中でもがき苦しむ俺が一人。


「ん~……困ったなあ。穴が小さくてなかなか入んない」

「ほんとだね。先端をちょっとだけ濡らしてみれば?」


 先端を、濡らしてみる?


「ああ、そっか。じゃあ、軽く舐めてみるね」


 舐めてみるね!? ダメだ由依、早まるな!


「ん……。ようやく入った」


 入った? 何が!?


「ゆっくり出し入れしてみる?」

「バッカじゃないの? 折角入れたもん抜いてどうすんのよ。このまま入れっぱなしでいいっつーの」


 入れっぱなし!? まあ、それが普通か。いや、そうじゃない。


「そっか。ごめん」

「じゃあ、ゆっくり動かすね」


 お前が動くの!?


「うん」

「あ、痛っ」

「わ、大丈夫? ちょっと焦りすぎたんじゃないの? あ」

「ん、なに?」

「血がでてる……」


 血がでてる!?


「お前ら、何をやってるんだー! 中学生でそんなのはまだ早い!!」


 我慢できなくなってクローゼットから飛び出すと、キョトンとした顔の二人と目が合った。ベッドの上にワイシャツ姿で腰掛けている大人しそうな顔の男子と、学生服を手に持ち床に座っている妹。


「びっくりした……! お兄い、いったい何時から隠れてたの?」

「お前らが部屋に来るちょっと前から……って、ところでお前たち何やってんの」

「あ、お兄さん、お邪魔してます初めまして。由依さんの同級生で、マサルと言います」


 ぺこりと頭を下げる男子生徒。


「あ、こちらこそ」


 俺も頭を下げると、由依は、抱えていた学生服と、右手に持っていた裁縫針を一旦おろした。


「何をやっているんだって……マサル君の制服のボタンが取れちゃったから、直してあげようとしてんじゃないの。見りゃ分かるでしょ」

「なかなか入らないってのは?」

「ああ、針の穴に糸が入んなくって。糸の先端を舐めて濡らしたら直ぐ入ったけど」

「じゃあ、血がでてるっていうのも……」

「うん、ドジっちゃって、針を指に刺しちゃったの。そんでね」

「ああ、なるほどそういう」

「ところでお兄い」

「え?」

「その手に持っている下着はなに!? 勝手に人の部屋に入らないでっていつも言ってるでしょ! エッチ! 変態!」


 俺は右手に握り締めていた由依の下着を背中側に隠した。


「ご、ごめんなさい! これはほんの出来心で」

「何が出来心よ! ほんと、何度忍び込んだら気が済むのよ!?」

「はい、すみません」


 この後、めっちゃ怒られたのはいうまでもない。


 いくら兄妹の部屋とはいえ、勝手に入るのは犯罪だ。諸君らも、妹に見付からないよう最新の注意を払ってくれたまえ。


~おしまい~

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